10.8.魔物探し


 魔素のない土地を避け、大回りをしながら本拠地を通り過ぎ、第二拠点へと来ることができていた。

 ここは襲撃も何も受けておらず、レイたち兄弟が管理していたということもあって、洞窟は過ごしやすい環境となっている。


 ここに来るまで約一日。

 さすがに時間をかけすぎてしまったので、昨日はこの洞窟で一夜を過ごすことになった。

 こういった長期の狩りは初めての経験だ。

 それにウキウキしながら、楽しそうにまた会議をしていた。


『お腹空いた』

『獲物を見つける前に、まずは生活の基盤を調えないとね……』


 セレナの呟きにマーチが現実的なことを呟いた。

 しかしそこで、ラムダが後ろを振り向く。

 そこには残されて来たであろう食料の山が置いてある。


『でもこの洞窟の中にヒラ姉さんの魔法で閉じ込めたご飯あるよ?』

『……それ、ヒラ姉さんがいないと解除できないんじゃなかったっけ?』


 シグマがラムダの呟きに答える。

 確かこれはヒラかオール、それとニアがよく解除していたことを、ジムニーは覚えていた。


『違うよ、光魔法が使えないと解除できないんだよ』

『ああー……そうか。でも誰も持ってないよね』

『持ってないね』


 身体能力強化の魔法、雷魔法、闇魔法、炎魔法、水魔法しか子供たちは使えない。

 幅が広いようには見えるのだが、特殊な魔法や難しい魔法は使えないので、狩りにしか役には立たないだろう。

 水魔法は何処でも水分を補給できるということで重宝されていたが。


 とりあえず魔物を探してご飯を食べなければならない。

 獲物を探すのはそれからだということで話はまとまり、子供たちは立ち上がって洞窟を出た。


『ふふん! ここは僕の出番だな!』

『頼むぞセダン!』

『任せとけ!』


 セダンはパリパリッと雷魔法を展開させる。

 大きく息を吸って空中に息を吹きかけるように吠えた。

 雷が一気に周辺に広がり、セダンは目を閉じてそのままの体勢で何かを感じ取っていた。


 レーダー。

 ヴェイルガの使っていた魔法はオールによく頼られていたことをセダンは覚えていた。

 一角狼だけしか使えないのだろうかと思っていたが、あの魔法は雷を薄く伸ばして遠くに投げ飛ばすもの。

 何度か投げ飛ばしてみれば、動いている獲物を発見することは容易い。


『ん! 居た!』

『どっちだ!?』

『あっち!』

『んじゃ次は俺の番だ!』


 バリリッと雷魔法を体に纏う。

 それは纏雷よりも強力な魔法であり、毛が逆立って爪や牙にも雷が宿る。

 更に赤い稲妻が体を走り抜けた。


 次の瞬間、ダンッと走り出す。

 地面を蹴って跳躍し、木を蹴り飛ばして加速する。

 草は踏み潰し、小さな物であれば簡単に乗り越え、殴っても動きそうにないものは避けずに自分の足場として利用した。


 飛び回るように走り抜けた先には、六匹の子供たちが十分に食べることができるであろう獲物が草を食べていた。

 食事中だが構うことなく爪を振るったジムニーは、雷魔法で一気に電撃を喰らわせる。


「ゴッ──ッッ──ッ──!!?」

『へへっ! 飛び狼ってね!』


 簡単に自分よりも大きな魔物を仕留めたジムニーは、誇らしげに鼻を鳴らした。

 すぐに遠吠えをして仲間を呼ぶ。

 皆が来る前に腹を食い破っておこうと思い、何度かかぶりついた。


 しばらくすると全員が集まってきた。

 ついていくことができなかったシグマとラムダは、二匹の成長に感嘆する。


『セダンすげぇ~』

『ジムニーも凄いね! 木をあんな風に使うなんて思わなかったよ!』

『『へへー!』』

『むむむむ、負けてられない!』

『勝負じゃないんだよセレナちゃん……』


 ジムニーが本格的に肉を食べ始めたのを見て、他の子たちも一斉に肉にありつき始める。

 雷で少し肉が焼けているが、焼けていない部分もあるので何とも中途半端な味だった。

 だがお腹に入ればいいかと思いながら、とりあえずそれを食べ続ける。


『でもシグマとラムダはいいよなー。あの時俺たち戦えなかったもん』

『むぐむぐ……。あの時の魔物の襲撃の話?』

『そうそう。遠距離攻撃持ってれば、援護できたんだけど……』

『僕たち接近戦しかできないもんねー。だけど二匹はどっちもこなせるじゃん』


 ジムニーが羨ましそうにしながら、肉を再び食べ始めた。

 確かにあの毒を放ち続ける魔物とは、ベンツの子供たちは相性が悪すぎた。

 近距離攻撃しかできないので、近づけば即刻毒に侵される可能性があったのだ。


 いくら相性とはいえ、自分たちもお兄ちゃん、お姉ちゃんという立場に位置しているのだから、危ない時には他の幼い子供たちを戦えるようになっておきたかった。

 だが結局やったのは避難誘導くらいなもの。

 それを思い出してしまったジムニーとセダンは、再びため息をついた。


『じゃあここで挽回しようぜ!』

『それもそうか!』


 なんてポジティブなんだと、話を隣で聞いていたマーチは少し呆れた。

 だがそこで、妙な匂いがしていることに気付く。


『……? なんか変な臭いしない?』

『臭い? 血の匂いで分かんねぇな……』

『なんか……水辺の臭いがする』

『ええ? でもこの辺は水がない……はずだけ……ど……』


 シグマとラムダが周囲を確認する。

 すると、ぴょいぴょこと跳ねている魔物を見つけることができた。


 頭に青く美しい角があり、大きな腕と細長い尻尾はふらふらと揺れている。

 牙は小さく、顔は細い。

 四足で走るが後ろ脚は兎の様に発達しており、色は灰色だ。


 ガンマが教えてくれた特徴に一致している魔物が、数百メートル先で草を食べていた。


『『居たぁああああああ!!』』

「チュヂュッ!?」

『叫ぶなよお前ら!! くっそ!! 行くぞセダン! マーチ! セレナ!!』

『『『了解!!』』』


 四匹は雷を纏い、獲物を追いかけた。

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