10.6.プレゼント
ライドル領エンリル本拠地にて、子供たちだけの秘密の会議が行われていた。
なぜかその中にベリルが入っているのだが、これはセレナが無理矢理連れてきたせいだ。
だが集まっている子供たちはベリルに驚くこともせず、いて当たり前だという風に居座っているので、逆にベリルの方が困惑している。
今ここに居るのは子供たちのみ。
ガンマの子供、シグマとラムダ。
ベンツの子供、セレナ、マーチ、ジムニー、セダン。
計六匹と一人が円を作るように座っていた。
『では会議を始めます!』
『また始まった……』
『これ意味あるの?』
『『しーらない』』
背をしゃんと伸ばして元気よく声を出したセレナとは裏腹に、男の子エンリルは呆れたように嘆息した。
大人たちの真似事で始めたこの作戦会議。
今より幼かった頃はそれこそ楽しかったが、今となってはもう全員がお兄ちゃん、お姉ちゃんという立場に位置している。
難しい話も分かるようになり、分別が付くようになっていた。
だからいつまでもおままごとのような遊びをしているのに、若干な呆れと嫌気が差していたのだ。
これはまだ群れのため、引いてはこれからの人間たちとの共存をより良くするための会議ならまだしも、さして難しくもないような狩りやパトロールの状況などを報告しているだけでは何の身にもならない。
できればもっと有意義な会議にして欲しいと、大人から見ればまだまだ幼い男の子エンリルたちは、そう思っていた。
『ま、まぁまぁ……とりあえず聞いてみようよ』
『マーチは甘いなぁー。嫌なら嫌って言わないとだぜー?』
『別に嫌じゃないけど……』
『はいそこー! 無駄口叩かなーい!』
『ていうか何でいっつもセレナが仕切ってるんだ!』
『私が集めたんだから当然でしょっ!』
『う、それは否定できない……』
ふふん、と得意げに鼻を鳴らすセレナ。
そういえばセレナ以外が自ら進んで会議を開いたことはない。
それに一度スイッチが入ると会議が終わるまで逃がしてはくれないということは全員が承知しているので、渋々といった様子で耳を傾けることにした。
『はいはい……。で、今日は一体何を会議するんですか? セレナさん?』
『今日はしっかりと決めて来たよ』
『それ常套句だよね……』
今日は一体どんな議題を持ってきたのだろうか。
期待せずにセレナの言葉を待つ。
全員がとりあえず話を聞いて、あとは適当にすればいいと思っていた。
『リーダーに何かプレゼントしようと思います!』
『『『『ぷ?』』』』
『ぷれ……ってなに?』
聞き慣れない単語に首を傾げてしまう。
セレナは人間との交流が一番深いので、人間の知識や常識などを多く知っていた。
プレゼントもその一つである。
しかし伝わらないとは思わなかった。
他に何か良い言い方はないかと考える。
『あ、お土産!』
『ああー、リーダーがラインさんの子供たちにあげてたあれね』
『食べ物とか果物が多かった』
ここに居る子供たちも、お土産は何度か貰ったことがある。
変わった魔物の肉だったり、遊び道具だったりと様々だが、どれも面白かったと覚えていた。
たまにはセレナもまともな議題を持ってくるなと、今回ばかりはほめたたえた。
これは会議らしい会議ができそうだと、全員が背をしゃんと伸ばす。
しかし何を送ればいいのだろうか?
リーダーが貰って喜びそうな物は、大体自分で獲ってくることができる物だ。
自分たちの知らない何かでなければ、多分喜びはしないだろう。
今まで貰ったものは候補に入れない。
ということがっ決まったところで、行き詰った。
『何を……送れば……』
『リーダーが喜びそうなもの……』
『聞いちゃえばいいんじゃないの?』
『それは駄目。お土産は何が欲しいか聞いてもいいけど、プレゼントは聞いちゃダメなんだよ』
『へー……。でも……』
『うん、僕たちの力で取りに行けるものって限られてるし……』
『そうだよね。遠くにも行かせてくれないだろうからなぁ……』
『『『『んーーーー』』』』
子供たちは首を傾げて悩み始める。
なんだかおもしろい光景だなと思いながら、ベリルはその様子を見ていた。
話している内容は分からないが、セレナの言葉だけは分かるので、フェンリルに何かを送ろうとしているということは分かった。
今はそれについて考えているようだ。
しかし、なかなか決まらないらしい。
「決まらないの?」
『決まらなーい。何か良いのないかな?』
「フェンリルは大きいからなぁ……。それこそ、フェンリルをよく知っているエンリルに話を聞いてみればいいんじゃないの?」
『え、でもプレゼントは何が欲しいか聞いちゃいけないんだよね』
「まぁサプライズってなるとそうなるけど、本人に聞かなければ大丈夫だよ?」
『あ、そうなの!?』
それだったら話が早い。
全員が立ち上がり、それぞれの親もとへと走っていった。
「……あれー?」
ぽつんと取り残されたベリルは、その後を一生懸命追う羽目になったのだった。
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