8.21.どったらいいの


『逆にどうしたらオール兄ちゃんを倒せるの』

『負けてばっかで詰まんないの』

『んなこと言われてもなぁ~……』


 そんなことを、二匹が突然言い出した。

 そんなこと言われても、という感じなんですが。


 というか、俺との模擬戦は弱点克服のための稽古だと思ってくれた方がいいんだけど。

 全属性だからな。

 ぶっちゃけ負けるってことがないんだわ……。


『『『確かにどうやって倒せばいいのか不明ですね。ていうか不可能ですね』』』

『不可能て』

『三狐がいるでしょー? それに全属性持ってて、加えて回復魔法に適性があるんだよね? 普通に戦うだけでも四対一だし、全属性の魔法を全部掻い潜って攻撃を当てたとしても、回復魔法ですぐに治っちゃうんだもん』

『無理なの』

『無理だな』

『『自分で言わないで』なの』


 三狐にまで不可能とか言われてしまった。

 ていうかこいつらがいなかったとしても、ほとんどの場合は怪我すらしないんだろうな。

 まぁ全部の魔法使えるっていうのが一番大きいし、それに加えて魔力総量もめちゃくちゃ多いんだよね。

 どれくらい多いのかっていうのは数値化されていないから分からないんだけど……魔力枯渇したことなんてマジでないしな。


 逆にどれだけ戦えば魔力が減るのか分からん。

 俺たちは魔力を作り出すことができるし、なくなることはない。

 その代わり魔力を過剰に作り過ぎるととんでもないことになるんだけどね。

 あれはやらないようにと、子供たちにも教えている。

 教えてくれないからやっちゃうんだもんね。

 魔力吸収が魔力を吸収せずに放置してると、確実に体が悪くなっちゃうし、最悪死ぬみたいだからな……。


 うーん、こいつらの話を聞いてみて思うことは、まぁまぁある。

 強すぎる肉体、全属性の魔法、底知れない魔力総量。

 これらすべてを完璧に使いこなせている気がまったくしない。

 技も仲間たちのを真似ていることがほとんどだしな。


 まぁ今持っている技術や魔法だけで事足りている部分もあるんだよね。

 だからこれ以上の成長が難しいというかなんといいますか……。

 自慢じゃないけど、負けることもないから反省とか教訓とかもないし……。


『三狐なら、どうすれば俺に勝てると思う?』

『深淵魔法の重力操作で動きを封じることは必須でしょうね。とりあえずオール様の取れる行動を制限しなければ、勝ちは見えないと思います』

『デバフを掛けまくるのね』

『オール様の毛は長いので、水を被ればそれなりの行動制限が付くかと思われます。水に濡れてしまえば雷魔法も使えませんから』

『むむ、確かにそれだと困るな』

『体が大きいので攻撃自体は当てやすいですが、それをカバーできるだけの技量と魔法がオール様にはあります。なので魔法をどれだけ発動させないかも、肝になってくるかと』


 冥が重力での行動制限、天が水魔法で雷魔法を防ぐという策、界が魔法を発動させないという案を出した。

 確かにそれをすべてやられてしまえば、俺本体は弱体化してしまうだろうな。

 だが……。


『でもでも、オール兄ちゃんの土狼や水狼はそれでは防げないんじゃないか?』

『氷魔法だったら動かなくても広範囲の敵を攻撃できるの』

『『『なので今度はそれを防ぐことができる味方を用意しなければなりません……』』』


 ウェイスの言う通り、俺は魔法で仲間を増やせる。

 レイの言う通り、氷魔法は今三狐が出した案でも打開できそうにない魔法だ。

 水を俺に被せたとしても、氷魔法と炎魔法で何とでもなっちゃうからな……。

 でも毛が凍るのは嫌だなぁ。


『炎魔法で氷魔法を止めます。とはいえオール様の氷魔法はレイ殿の氷魔法より強力なので、炎魔法に適性のある味方が三匹は必要になるでしょう』

『土狼は遠吠えをされたら終わりです。なのでその前に破壊できる遠距離火力型の味方が必要になります』

『水狼に関しては破壊時、破裂して周囲にダメージを与えるので、これは土魔法などで破裂の衝撃を抑える……といった作戦でなければ完全に防ぐのは無理でしょう』

『……っていうかオール兄ちゃん、深淵魔法使えたよな……』

『大魔法もいっぱい使えた気がするの……』


 五匹は目をつぶって空を仰ぐ。

 しばらくの沈黙の後、三狐が言葉を発した。


『『『なので考えるだけ無駄です』』』

『だな』

『なの』

『うぉおおおおい!?』


 諦めんなよっ!!

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