8.20.氷魔法


『よーし、レイ。行けるか?』

『ばっちしなの!』

『よし来い!』


 レイは待ってましたと言わんばかりに、ぴょんと跳ねて構えを取る。

 体から発せられる冷気が多くなり、足元を凍らせていく。

 レイは成長するにつれて、冷気の温度がどんどん下がっている。

 瞬時に地面を凍らせてしまう程の冷気は、普通に触れるだけでも凍傷となるだろう。


 さすがにそんな恐ろしいものを触りたくはないので、炎魔法を使って対処する。

 やはり氷魔法には炎魔法だ。

 レイは炎が嫌いだし、こいつの戦いにはこの魔法がぴったりだろう。


『まずは火球で様子見だな』

『熱いのは嫌なの!』


 レイは尻尾を振って俺の方に冷気を飛ばしてきた。

 一歩引いて見ていると、地面が素早い速度で凍っていく。

 下がって良かったとほっとしたところで、火球を飛ばしてみる。


 移動速度はウェイスよりは速くない。

 なのでレイはできるだけ予測して回避するか、打ち消す感じで魔法を使わなければならないはずだ。

 すると、再び尻尾を振って冷気を火球へと送った。


 カギンッ、ゴトッ。


『えっ』

『ふふん! 炎魔法は攻略済みなの!』


 火球は炎を残したまま凍ってしまった。

 なんか面白いことになってるんだけど。

 え、ちょっと待ってレイの冷気は今どれくらい冷たいんだ!?

 炎を凍らせるってどうなってんだよ!


 こ、これは危ない。

 んじゃちょっと簡単に作った魔法使ってみますかね。

 確かシャロが使ってたかな。


『炎纏』


 炎が足元から背中に上って燃えていく。

 魔法なので熱くはないが、敵にはしっかりと攻撃を与えることができる。


『『『おわちゃあああ!!』』』

『あっ』


 やっべ、三狐が背中に乗っていたこと忘れてたわ。

 ごめん。


 三匹は何とか燃えずに背中から飛び降り、距離を取ってウェイスの隣りで稽古を見学することにするようだ。

 うん、そこであれば俺も安心できる。

 さてと、レイとの模擬戦に集中しましょうか。


 あいつの冷気は冷たすぎる。

 では俺が持てる最大火力の炎で迎え撃つことにいたしましょう。

 純粋な火力勝負ですね。


 雷とか空間魔法であればすぐに倒せるだろうけど、さすがにそれじゃ稽古にならないからね。

 苦手な魔法をとにかく使い続ける。

 これがこいつらにとって一番いい稽古方法だからな。


『俺は炎魔法がそんなに得意じゃないからな。加減ができないかも』

『レイは本気だから大丈夫なの!』

『んじゃ頑張れ!』

『分かったのー!』


 レイは手で地面を叩く。

 手を中心に地面が凍っていき、更に鋭利な氷柱が生える。

 何本もの氷柱が生えてそれは壁の様になっていった。

 俺の方に向かってきたそれを回避し、炎魔法で溶かす。


 この炎纏であればレイの氷も完全に溶かすことができるらしい。

 んじゃ次は俺の番だ。


『火炎旋風』


 小さめの炎の竜巻を発生させる。

 氷を溶かしながらレイへと向かっていくのだが、強めに振られた尻尾で送られた冷気によって、それも完全に凍ってしまう。


 ふむ、これはレイに近づくにつれて温度が下がっているってことだな。

 レイが攻撃する時もだけど、レイから離れると温度は高くなるのかも。

 ってなると至近距離で攻撃を喰らうと厄介だ。

 とはいってもレイは接近戦を得意としていない。

 肉弾戦を積極的にしにはこないだろう。


 だけど俺も近づけないんだよなぁ。

 向こうもそうなんだろうけどね。

 こりゃ面倒だぞ。


『んじゃ土魔法』

『ほわああああ!?』


 足元の土を盛り上げて、態勢を崩させる。

 地面が凍っていたこともあり、斜めになった地面に爪を立てて何とか体勢を整えた。

 レイの体は雪や氷がある環境でも生活できるようにするためか、足と爪が他の狼よりも少し大きい。

 爪もアイゼンみたいに鋭いんだよね。


『アイスピック!』

『危ねぇ!!』


 それは氷を壊す道具の名前だろうが!!

 ていうか危ないな!?

 氷の針が何本も飛んできたぞおい!

 炎纏を纏っていても今の氷溶けなかったぞ!


『空間魔法』

『わっ!?』


 レイの周囲に透明の壁を出現させる。

 それは冷気で一気に凍ってしまい、視界が遮断されてしまう。

 その瞬間に気候魔法でその中の温度を変える。

 冷気のせいでなかなか上手く温度を上げられなかったが……。


『ぷしゅぅ……』

『閉じ込められると負けるのね……』


 レイの弱点は温度か。

 まぁなんか特殊な狼になってるっぽいしな。

 とりあえず魔法を解除するか。


『いやぁ……レイは攻めにくいなぁ』

『オール兄ちゃんは手加減している分、ちょっと戦いづらそうだね』

『まぁ本気だったら真っ先に深淵魔法使ってるしな』

『勝てる気しないんだけど』

『ウェイス。俺に勝たなくてもいいんだぞ? ていうか俺に勝てるのはガンマぐらいだろ』

『が、ガンマ兄ちゃんは勝てるのか……』


 まぁ、そりゃね。

 っと、とりあえず氷魔法でレイを復活させるかな。

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