8.3.いい足止め
ガンマが振り下ろした攻撃は、地形を変えてしまう程に強力なものだった。
大地が割れ、大岩が隆起し、その隙間から青い爆炎が吹き上がる。
歩くことさえ困難になった大地が完成し、そこに足を踏み入れればその青い炎に魔力を燃やし尽くされるだろう。
その場にいた兵士は全て地面に潰され、炎に燃やされ息絶えた。
ここには血の匂いしかしない。
辛うじて息があったとしても、未だ燃え燻っている魔力を燃やす青い炎に殺されてしまうだろう。
ガンマの火力に、今更驚きはしない。
しかし炎魔法を使って攻撃したガンマは、恐らく俺よりも強い力を持っている。
マジで味方でよかったよ。
仕事を終えた仲間たちがゆっくりと帰ってきた。
一角狼はフルフルと体をふるわせて雷魔法で乱れた毛をある程度直す。
ガンマは大きな鼻息をついて、その場に座った。
『おかしい、楽すぎる』
ガンマは皆の前でそう言ったが、俺もそう思っている。
この世界の人間は強い奴と弱い奴の差が激しすぎるのだ。
俺たちに対抗できる程の力を持つヴァロッドやレイド。
子供たちの攻撃にすら耐えることができないあの盗人。
今回の兵士も、ただの寄せ集め。
まともな連携をとれていなかったというのもあるのだろうが、それにしても弱すぎた。
『どうなってんだ?』
『? ガンマ殿。弱いのに越したことはないのではないですか?』
『それで俺の親は殺された。侮るなヴェイルガ』
『なるほど……』
あの時戦ったであろう人間は、あの中にはいない。
あれはどちらかというと人間と戦う為の兵士だったように思う。
となると本当にこの世界で強いのは……冒険者なのかもしれないな。
まぁ何はともあれ、これでよい報告をライドル領には持って帰れるだろう。
このまま敵地に向けて進んでも良いのだが……向こうの様子はまだ分からない。
何処から援軍が来るかも把握できていないので、とりあえずは戻った方が良いだろう。
こちらも状況に応じて戦力を整えていかないといけないしな。
一番の目的は領民の不安を取り除くことにあるんだけどね。
あとはヴァロッドが今の様子を領民に伝えてくれれば、何とかなるだろう。
『じゃあ帰るか』
『帰るのか? 兄さん、まだ俺はいけるぜ?』
『今日は駄目だ。まだ次が来るらしいからな。ヴェイルガ、魔力はどうだ?』
『レーダーですね? 行けますよ!』
『敵が来た方角にレーダーを発動させて何か見つけてくれ』
『分かりました!』
南西の方角に向けて角を突き出す。
目を閉じながら角に稲妻が数回弾けたあと、目を開けて感知したことを教えてくれた。
『他には何かわかるか?』
『いえ、特に』
『そうか』
敵国にどれだけの数の兵がいるのかは分からないが……ま、来るならやるだけだな。
問題はアストロア王国の方だ。
ライドル領のことを反乱軍としているみたいだし、向こうからの襲撃もあるかもしれない。
ガンマがやばいくらいいい足止めを作ってくれたので、こっち側からの進軍は中々できなくなるだろう。
その間に調査しておかないとな。
こういうのはバルガンに聞きながらの方が良いかもしれない。
あいつはこの二年間いろんな所を旅してきているはずだから、この辺の地形にも詳しいかもしれないし、帰ったら話を聞いてみることにしよう。
◆
半日じゃなくて、二時間くらいこいつを借りただけで終わったな。
ライドル領に帰って来た俺は、ヴァロッドを背中から降ろす。
帰ってくると仲間たちが真っ先に迎えに来てくれた。
ベンツは勿論、今回は子供たちもいる。
『『おかえりー!』』
『シグマ、ラムダ、いい子にしてたか?』
『『うん! でも皆心配してたよー』』
『それもそうか』
周囲を見てみると、近くにいた領民が不安そうにこちらを見ていた。
あとはヴァロッドの出番だ。
腕で軽く背を押して、何か喋るように促す。
「信じてもらえるのか……?」
『大丈夫だろ』
「何を言っているのかは分からんが……まぁさっき見たことを言えってところだろうな……。皆聞け! 先ほどサニア王国から五千の敵が我が領に進軍して来ていたが……フェンリルとエンリルの力だけで……勝ってしまった」
いや俺何もしてないけどね?
頑張ったの一角狼たちとガンマと天だけだよ。
ていうかなんとも締まりのない報告だなぁ……。
まぁ俺たちしか戦場に出てないし、確かに中々信じてくれないかもしれないな。
戦利品でも持って帰ってくればよかっただろうか?
いやでも全部地面に埋まっちゃったしな……。
「ヴァ、ヴァロッド様!」
「なんだ?」
「こ、ここは……安全なのですか……?」
「まだそうと決まったわけではない。だが脅威を排除できる力を、私たちは今持っている。今はまだそれだけしか言えない……」
これから幾度となく来るかもしれない敵を迎え撃たなくてはならない。
安全だという確約はできないのだろう。
だがまだそれでいい。
今回は誰も見てなかったから実感もクソもないだろうけどね。
だがこの報告は、領民たちにとって少なからず希望の持てるものだった。
この報告を待っていた者は、予想以上に多かっただろう。
「フェンリル。私は一度戻って皆と話をする。お前たちは休んでいてくれ」
それだけ言い残すと、ヴァロッドは冒険者ギルドへと足を運んだのだった。
ではお言葉に甘えて、休むとするかね。
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