6.37.呼び出し


 俺はあの後すぐ、ベンツからみんなの総意を得たという話を聞いて驚いた。

 もう少し時間がかかる物だと思っていたのだ。

 まさかこんなにも早く受け入れてくれるとは……予想外だった。


『ガンマもか?』

『まぁね。まだ僕も含め人間を許せていない奴は多い。その事は念頭に入れておいてね』

『助かる』


 そうか……まぁそうだよな。

 でも皆、俺の話を聞いて少し考えを変えてくれたんだな。

 もっと批判されると覚悟していたんだけど、まぁいい方向に転んだことを喜ぼう。


 さて、後は俺が頑張らないとな。

 向こうに置いてある土狼を使って、ベリルとヴァロッドを呼び出さなければ。

 とりあえず会えば話をすることは出来るだろう。


 だけど今日は俺も疲れた。

 明日にでも土狼と視界を共有して、あの二人を誘うことにしよう。



 ◆



 翌日になり、俺は皆の様子を見る。

 だがいつもと変わらない。

 昨日の話などなかったかのように、皆が自然体でいてくれているような気がする。


 まぁいつも通りという事であれば、俺から何かを言う事はない。

 目を瞑って向こうにいる土狼との視界共有を開始する。


 すると、そこは真っ暗だ。

 おかしなと思いもぞもぞと動き回って光を探していると、何とか外に出ることができた。

 一体何に入っていたのだろうかと見てみれば、布団の中に押し込まれていたらしい。

 隣ではベリルが寝息を立てている。


 昨日の件もあったが、とりあえずは問題ない様だな。

 魔力は大幅に減少しているが、生活する分には問題ないだろう。

 今は安定している。


 さぁ起きろ!


 ベリルの顔に飛び乗って、その上で暴れてみる。

 こうすればこの小さい体でも人を起こすことができるだろう。


「ふぇくし!!」


 ぬおおおおおわあああああ!?


 くしゃみと同時に上体を起こしたベリル。

 勢いそのままにおれはベッドの隅の方まで飛んでいってしまった。


 び、びっくりした……。

 小さい体で吹き飛ばされるってこんな感覚なんだな……。

 今度はもう少し慎重に動くことにしよう。


 だがベリルを起こすことには成功した。

 土狼の俺の事は隠し通してくれたようだな。

 じゃないとこの部屋にはいなかっただろう。


 外の土狼もとりあえずは健在だ。

 何故か少しぼろくなっているが、大方虫かネズミに襲われたのだろう。

 新しい土狼を作っておくことにしようか。


 削ることは出来ても直す事は出来ないんだよな。

 とりあえず小動物に襲われない程度の大きさにしておくことにしよう。

 今回のは小さすぎたかもな。


「……あれ? あ、何でそんな遠くに……」


 いやあんたが飛ばしたんでしょうが。

 まぁ別に壊れなかったら問題ないけどさ。


 より、とりあえず……服を咥えて引っ張る。

 力がないので引っ張ることはできないが、何処かに行こうとしているという事は伝わるだろう。

 

「え、何処かに行くの?」


 ベリルの言葉に大きく頷く。

 まぁ行くって言っても君の父親の所なんだけどね。

 場所が分からないから適当に散策するぞ。

 と意気込んでいると、ひょいと持ち上げられてしまった。


「よいしょ」


 ……おっ?


「何処に行くんですか? 教えてください」


 あーそうだよねー。

 この体で意思疎通とか無理そうだし……。

 とりあえずこの土狼を他の人に見せたいのだが……この状況じゃちょっと厳しそうだな。

 んー、どうしようかね。


 とりあえず部屋の外に出てもらうか。

 片腕を伸ばして向かって欲しい方向を指す。

 それを見てからベリルは土狼をポケットの中に仕舞い込む。


 俺は視界を確保できるようにひょこっと顔を出しておく。

 さ、これでヴァロッドが見つかれば良いのだが……。


 部屋を出たベリルは、土狼の指す方向へととりあえず歩いていく。

 二階に向かってもらい、その辺を散策してみるが……ヴァロッドの姿はない。


 やはり適当に探し回っているだけでは見つかる物も見つかりそうにないな。

 んー、どうしたものか。

 何かあるといいんだけど……周囲見ても絵画くらいしかないんだよなぁ。

 あと少し明るい装飾。


 イメージしていた貴族の家とは違うんだよな。

 まぁ外壁もないし、まだ発展途上中の国? 街? ってのは分かる。

 割と地位の低い貴族なのかもしれないな。

 さーて……どうしようか。


 すると、廊下の一角に人の腰ほどある盾が飾られていた。

 実用性のなさそうな物であり、見る為だけに作られた物のように感じる。

 殴ったら痛そうだが……脆そうだ。


 あ、そういえばヴァロッド盾持ってたよな。

 だったらこれを指さして……分かるか?


「……盾? これレイドさんから聞いたんですけど、僕が産まれる前にお父様がこの盾を武器屋さんに頼んで作ってもらったみたいなんです。でも僕に適性のある魔法は強化魔法じゃなくて回復魔法。それを知ってお父様が装飾用の盾として作り変えた物なんですよね」


 へー。

 まぁ子供に自分と同じ様になってもらいたいっていうのは分かるけどね。


 じゃなくて、違うんだ。

 この盾の事を聞いているわけじゃなくてだな……。


「次は何処に行けばいいですか?」


 まぁわからねぇよなぁ~。

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