6.38.襲撃


 俺は良いアイデアが浮かぶことも無かったので、ベリルに適当にぶらぶらと歩いてもらっている。

 会話できないってすごい不便な事だったんですね。

 俺知らなかったよ。


 何かいいジェスチャーとかも思い浮かぶことは無かったので、暫くはこうして歩いてもらっておくことにしよう。

 それにしても見つからない。

 もうこの際あのギルドにいた奴らでればいい気がしてきた。


 まぁここの領主がヴァロッドという事だし、話をするのであれば直接ヴァロッドに話を付けたいんだよな。

 これもう暫く時間かかりそうだ。


「次は何処に行きますか?」


 にしても歩き回っているというのに、ベリルはずっと元気だなぁ。

 森の中にも入って冒険者活動もやってたから体力だけは有り余っているんだろう。


 魔力が無くなったとしても基礎体力などが衰えるわけではないんだな。

 俺たちの場合は体力とか結構減っちゃうっぽいんだけどね。


 とりあえずこの屋敷を全て見て回りたいので、まだ見ていない方向に腕を伸ばして歩いて行って貰う。

 というかそろそろこの屋敷全部探索しちゃう。

 何個か入っちゃいけないという部屋があったのでそこだけは調べられてはいないが、人がいるような気配は無かった。

 もしかしてだけど、今ヴァロッドは外に出掛けているのかもしれないな。

 だとしたら今の俺たち凄い無駄な時間を過ごしたことになる。


 できるだけ早い事やっておきたいんだけどなぁ。

 まぁ今日中には会う事は出来るだろう。

 もう急がずにのんびりすることにしますかぁ……。


「次は何処に行きます? 外に行きますか?」


 ベリルがそう提案してくれた。

 そう言えばこの領地を詳しくは見ていなかったな。

 外に置いておいた土狼は探索用に置いておいたんだけど、忘れてた。

 だからあんなにボロボロになってたんだろうけどね。


 外に行けるってんだったら、外に行くことにしようかな。

 ベリルの言葉に頷いて、外に向かってもらうことにした。

 だがやけに慎重に動いており、自室の窓から屋敷を出る。


 どうやら昨日の事もあって屋敷から出ることを禁止されている様だな……。


 まずは屋敷の外に出て、広い庭にの中に手入れされている草木があった。

 その影を進んで庭師や使用人に見つからないように門を通る。

 とても慣れている様で、自然な流れで屋敷からの脱出を成し遂げた。

 ……よく脱出していたらしいしな。


 門の外へと出てみれば、そこは見たことのある景色が目に入り込む。

 大きな屋敷が何個か並んでおり、その奥へと向かってみれば冒険者たちがいる様な店が並んでいた。

 石作りの家がメインの建物群。

 後城壁さえあれば国として見ても問題ないような場所だ。


 小さめの石作りの石垣みたいなのはあるんだけどね。

 まぁ準備とかはしてるみたい。

 周辺の散策はあんまりしていなかったからな。


「どこ行きたいです?」


 と言ってもなぁ~……。

 その時。


「ぎゃああああ!!」


 カーンカーンカーンカーン!

 何度も叩かれる鐘の音と、人の絶叫が聞こえて来た。

 びくりと肩を上げて驚いたベリルが、その声の方向を見る。

 俺もそれに続いて状況を把握しようと見てみるが、この場からでは把握することができない。


 ボロボロになった土狼の隣で新しく作った土狼を向かわせることにする。

 方向はその土狼が置いてある方向の筈である。

 移動だけさせて一瞬視界共有をして状況を把握したい。


「何!?」


 知らん!

 ていうかお前はさっさと逃げろ!

 明らかにやばいことになってるってことは分かっているだろう!?


 俺は腕を伸ばして反対側の方角へ向かうように指示を出す。

 それに一拍遅れて気が付いたベリルは、踵を返して元来た道を走り出してくれた。


 それからすぐに向こうに置いてあった土狼に視界を移して見る。

 まだ森の中を走っているのだが、すぐにでも森を抜けることができそうだ。

 ボロボロになっている土狼はその場で待機してもらっておく。

 あれでも攻撃能力はそれなりにあるのだ。

 普通の土狼に比べると弱いけど。


 近づいていくにつれて騒ぎが大きくなっていく。

 そして、ようやくその原因を見つけることができた。


 木の上から弓を引き絞り、寸分たがわぬ狙撃能力を持って周囲にいる人間を射抜いていく……黒い肌の人型生物。

 それが見つけられるだけでも百人は下らない程の人数が、一斉射撃を行っていたのだ。


 ダークエルフ。

 何故彼らがこの人間の里を襲っているのかは理解できないが、明確な悪意をもってして事に当たっているという事が分かる。

 何してやがるんだこいつら!


「行け」

「「はっ!」」


 木に登っていないダークエルフたちが走って行き、近くにあった建物に登って狙撃範囲を広げていく。

 冒険者や住民は逃げ回って混乱してしまっている様だ。

 これではされるがままになってしまうだろう。


 マズい、マズいマズいマズい!

 ここが俺たちの未来を変えるかもしれない人間の里なんだぞ!!

 俺の計画が狂ってしまう!

 ていうかこいつらマジで余計な事ばかりしやがって……!!


 土狼の遠吠え使ったら里が壊れる。

 ていうか今の俺の状態で土狼使ったことが無いから、どうなるか分からん!

 範囲攻撃とか恐ろしすぎる!


 俺はすぐに視界共有を切った。

 そして立ち上がり、洞窟の外へでる。


『ベンツ! ライン! ヴェイルガ! ガルザ! デンザ! メイラム!』


 俺の叫び声に全員が驚き、呼ばれた狼たちはすぐに近づいてくる。

 何事だと心配しているようだ。


『ど、どうされましたか!?』

『人間の里がダークエルフに襲われている!』

『ええ!?』


 人間の里が襲われているという事より、ダークエルフが襲っているという事に驚いているようだった。

 あいつらは俺たちの存在の有無を脅かした奴らだ。

 いつか怒ってやろうと思っていたが……今回のは怒るとかで止める事は出来ない。

 邪魔だ。


『に、兄ちゃん。もしダークエルフがあそこに住んでいる人間を全部殺しちゃうと……』

『昨日俺が言った事が全て無駄になる。他の人間の里で同じことができるとは俺も思っていない』

『人間を……助けるのか……』

『無理にとは言わない。だがベンツ。お前はその人間に借りがあることを忘れるな。全てがあの様な奴らじゃないんだ』


 ベンツはその事を理解している。

 だから小さく頷いて人間の里へ向かう準備を開始した。

 借りを返す為に今回は我慢をする様だ。


 一角狼の三匹には遠回りをしてきてもらうことにする。

 こいつらは魔素のない大地を通り抜けることができないからだ。

 だが時間はそうかからないだろう。

 機動力のある狼たちだけで行く。

 じゃないと間に合わないかもしれないからな。


 メイラムは毒治療のためのに連れていく。

 あの毒を矢じりに塗っている可能性は非常に高いのだ。

 なので戦力としては見ていない。

 後程来てくれればそれでいい。


『三狐! 初めての戦闘だ! 来い! 役に立てよ!』

『『『承知しましたー!』』』


 三つの毛玉がぴょいと背中に乗りこんだ。

 こいつらと一緒に真面目に戦うのはこれが初めてとなるだろう。

 どれだけの力があるのかは魔法の特訓で理解しているが、三匹を一緒に戦わせたことはない。

 実戦でその実力を見せてもらう事にしよう。


『ライン。お前は大丈夫か?』

『うん。僕はオール兄ちゃんを信じるよ』

『助かる』

『僕もベンツ兄ちゃんやガンマ兄ちゃんみたいに父親になるんだ。今オール兄ちゃんがしようとしてることは、本当に凄い事だと思う。僕にも手伝わせてよ』

『フフ、生意気になったもんだな。じゃあお前はベンツと先行してくれ。俺は三狐を連れていくから纏雷が使えん』

『分かった! あの黒い奴殺せばいいんだよね?』

『おう。遠慮は絶対にするな。全て殺してくれ。あいつらはもう容赦ならん』


 それに大きく頷くと、ベンツとラインは雷魔法、纏雷を使用して人間の里へと先行していった。

 ベンツがラインに歩調を合わせている様で、今回は少しだけ見ることができたな。


『俺も行くか。ヴェイルガ! そっちは頼んだ!』

『了解いたしましたぁ!』


 ダンッと地面を蹴り、俺は最短距離で人間の里へと向かったのだった。

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