6.24.あのくそ野郎


 ヴェイルガの報告により、またあの場所に少年が来ているという事が分かった。

 毎日来ているがバレたりしていないだろうな?

 まぁそこは信じておくことにしよう。


 三狐を背中から降ろし、情報を収集をしてくると言って少年の元へと向かっていく。

 魔素のない大地はさっさと通り過ぎてしまいたいので、いつもの全力疾走で駆け抜けた。

 歩いているだけでも魔力を吸われてしまうのだ。

 ここはさっさと通り抜けた方が良い。

 まぁ俺としては些細な事なのだが。


 だけど植物如きに魔力を吸われるのは癪だからな!

 少ない魔力でも大切にしましょうね。


 さて、今日はどんなものを持ってきてくれているかな。

 別に何も持ってきてもらわなくても結構なのだが、それから読み取れることは結構あるからね。


 そう言えば、食べ物を持っているっていうのに魔物の気配はほとんどなかったなぁ。

 あの森は随分と安全な場所なのかもしれないな。

 小さな小動物はいた様だけど、脅威になる様な生物はあのゴブリン以来見ていないしね。

 あれが脅威になるかどうか微妙なところだけど。


 ま、そんな事は置いておいてさっさと向かうとしますか。

 でも昨日はセレナにまたせがまれて大変だったなぁ……。

 まさか向こうから何故行かせてくれないのか聞いてくるとは思っていなかった。

 まだ話せないとして放置しておいたが、この調子だとマジで成長したら一匹でも突っ走って行ってしまいそうだ……。

 できるだけ早く説明しておかないとな……。


『……あ?』


 血の匂いが鼻を突いた。

 魔物の血の匂いはこんなものでは無い。

 これは……あの時嗅いだ人間の血の匂いである。


 あそこには少年以外はいないとヴェイルガは言っていた。

 それは今日も同じであったはずだ。

 ではこの濃い血の匂いは……。


『おい、おいおい……! まさか!』


 俺は走る速度を上げて少年のいる場所へと向かう。

 地面が抉れる音がしたが、今はもう関係ない。

 あの少年に何かあると、マズい事になる。


 崖の上まで来た俺は、すぐに下の様子を見た。

 するとそこには、背後から腹部にかけて矢が突き刺さっている少年が倒れていた。


『おい!!』


 飛び降りてすぐに駆けよる。

 確認してみたが幸いまだ息はあった。

 だが激痛によって非常に苦しそうにしている。


 すぐに回復魔法で直してやらなければならないと思ったが、その前に妙な臭いが混じっている事に気が付いた。

 まずは少年の匂い。

 それと、どす黒い嫌な匂いと、何処かで嗅いだことのある匂いだ。


 このどす黒い匂いは恐らく毒か何かだろう。

 毒魔法で魔物を殺した時に似たようなものを嗅いだことがある。

 問題はこの嗅いだことのある別の匂いだ。


 その匂いは矢の羽部分に強くついており、そいつが少年にこの矢を射った張本人であるという事が分かる。

 そして俺はそいつの事を知っており、覚えていた。


『ダークエルフ……! あのくそ野郎が!!』


 あの時、道案内をしてくれたダークエルフ。

 名前は忘れた。

 だが人間に恨みを持っているとして、当時は良くしてくれたことを覚えてる。

 オートの事も知っていたしな……。


 だが……!


『こいつが死んだら……! ヤバいだろ!』


 殺さないようにしてきた俺の努力が無駄となり、更には群れに危険が押し寄せることになる。

 この少年は今俺たちに必要な存在だ。

 だが生きていることが最低条件。

 死んでしまえば元も子もなくなってしまう。


 俺は闇の糸で矢を掴み、ゆっくりと抜きながら回復魔法で傷を塞いでいく。

 他の糸で体を固定して動かないようにし、慎重に……。

 幸い痛覚が毒で麻痺してしまっているのか、抵抗らしい抵抗はなかった。

 だが、矢を抜いて傷を塞いだのにも拘らず顔色は優れない。


 毒だ。

 この毒、俺の回復魔法だけでは取り払うことができない。

 毒魔法は使えるようにはなったが、解毒の方法は全く知らなかった。


 どうする……?

 このまま人間の里に放り投げに行くか……?

 だがそれだと見つかる可能性が高い。

 それだけは絶対に避けたい。


 それにこの毒、俺の回復魔法で解毒できなかったんだ。

 人間に解毒できるのか疑問である……。


 あとできる事は……毒魔法に適性のあるメイラムの毒治療。

 あいつは以前毒にかかってしまった狼を解毒してくれたことがある。

 毒を熟知していないとできないらしく、手広く浅い魔法技術を持っている俺ではできない事だ。


 であればメイラムを連れてくるか?

 いや、だが少年の体力が持ちそうにない。

 既に体の魔力が減少してきているのが分かる。

 往復したところで意味はない。


 となれば……!


『連れて帰るか……!』


 一刻の猶予もない。

 俺は闇の糸で少年を持ち上げ、静かに背中に乗せる。

 しっかり固定してできるだけ動かさないように、できる限り最速で走って行くことにする。


 使えるのは風魔法と身体能力強化の魔法のみ。

 雷魔法が使えないと速度は大幅に落ちてしまうが、あれは微弱なダメージを触れている者に与えてしまうので今の状況では使うことができない。


 昔はこれで 子供たちを運んでいたのだ。

 揺らさないように運ぶなど、手慣れている。


『なんか言われるのは目に見えているが……今は仕方がない!』


 俺は少年を運び、棲み処へと帰ったのだった。

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