6.25.毒治療
『メイラム! メイラムはいるか!!』
俺の大声に何事だと群れの仲間全員がこちらを見る。
洞窟内にメイラムはいないようだったので、すぐに外の方を見てまた叫んだ。
するとベンツとガンマ、そしてシャロが血相を変えてこちらに向かって来た。
こいつらは既に俺が背に運んでいる物を匂いで理解している。
だから言いたいことは山ほどあるのだろう。
だが話はあとで聞く。
『兄さん!』
『話は後だ!! ベンツ! メイラムを呼べ! 大至急だ!』
『わ、分かった!』
『シャロ! デルタに岩の水場を作らせろ! レインに水を入れてもらえ! 後はシャロが水を炎魔法で温めろ!』
『りょ、了解!』
湯がいるかどうかは分からないが、出来る限りの事はしておきたい。
シャロにそう指示を飛ばし、後はガンマにまた指示を出す。
『ガンマは周囲を警戒しろ! あのダークエルフがいたらぶっ飛ばせ!』
『は!? ダークエルフってあの黒いあいつか!?』
『そうだ! あのくそ野郎やりやがった!』
俺はすぐに近場で土魔法を使用する。
木がすぐに一本生えた。
その木の葉を全て風魔法で刈り取り、簡易的なベッドを作ってそこに少年を寝かせる。
まだ息はある。
だが体内にある魔力が非常に少なくなっており、脈拍も低い。
とりあえず魔力を供給し、その場限りの応急処置を施しておく。
だが体内の魔力は全く増えなかった。
恐らくこの毒は魔力総量を削っていく毒なのだろう。
なんて恐ろしい物を作ってるんだ。
『兄ちゃん! メイラム連れて来たよ!』
『ベンツ殿……もう少しお手柔らかに……できませんか……』
メイラムは首根っこを咥えられながら引っ張られて来た様だ。
その時に纏雷も使用したのだろう。
少しだけ焦げ臭い。
『メイラム! こいつの中の毒を解毒してくれ!』
『解毒……ですか……。しかしこれは……人……間?』
『話は後だ! 急げ!』
『分かりました……』
メイラムはポンと一つ、小さな濃い紫色の玉を作り出した。
『オール様、この人間の……口を開けてください……』
『分かった!』
闇の糸で口を開かせ、その中に紫色の玉が入って行く。
一瞬息苦しそうにした少年だったが、次は腹部を抑えて丸くなってしまった。
額には脂汗が滲んでいる。
『オール様……この毒……』
『何かわかるか?』
『魔力組織を……崩壊させる……毒です。生き永らえたと……しても、以前の様に……魔法は使えないかと』
『生きていればいい』
『分かりました……。しかし、体の作りが、違います……。解毒自体は可能、ですが時間をいただきたい……』
『今日中に終わるか?』
『明日には……』
一日かかるか……。
だが仕方がない。
それでお願いすることにしよう。
解毒に入ると移動することができない程に集中しなければならないらしく、明日まではここを離れられないのだという。
なので簡易的な小屋を作り、そこで治療をしてもらうことにした。
季節は春を迎えていると言っても、夜はまだ冷える。
この小さな体の少年には堪えてしまうだろう。
後でシャロに夜の暖を用意してもらうことにする。
燃やす物は俺が作れるので、問題はない。
シャロとデルタ、レインも到着したので、小屋の中に湯を用意してもらうことにする。
制作自体は簡単にできたので、後はメイラムがやってくれるはずだ。
シャロは火の番をしてもらう事にした。
後は……説明だな。
用事を終えていたベンツは既に状況を理解してくれている。
だが当時の様子を聞きたかったらしく、俺に話しかけてきた。
『兄ちゃん。一体何があったの? 状況的に不味いことは分かってるけど』
『ダークエルフ覚えてるか? そいつが少年に毒矢を射ったんだ』
『……なんで?』
『知らん』
俺の方が聞きたいわ。
マジで小一時間くらい問い詰めたいまである。
あいつのせいで状況が一変した。
この少年が里に帰ってこないというだけで大問題になるのに、今こんなことされたらたまったもんじゃない。
最悪調査隊が編成されて、俺たちが見つかる可能性がある。
あのまま放置していたら俺たちの場所に被害はないかもしれないが、あの矢と毒を見れば危険な森として指定されてしまうかもしれない。
どうなってしまうか分からないのだ。
もっと最悪な事態になるかもしれないし、もしかしたらそんなに深刻な状況にはならないかもしれない。
だが人間の情報源が失われるのは大きな痛手だ。
ていうか何であのダークエルフはこんな小さな少年に手を掛けたんだよ!
マジで分からねぇ!
『とりあえず全員に話しておいてくれるか』
『分かった。あの少年? はどうするの?』
『明日までは見ないとな。目が覚めるまでは置いておく。目が覚めたらすぐに帰らせよう』
『うん、それでお願いね』
ベンツは仲間たちに今の状況を説明する為に歩いていった。
後は任せておいても問題はないだろう。
問題があるとすれば……ガンマだな。
俺から言いに行くか。
すると、背後にガンマが飛んできた。
どうやら遠くから跳躍して戻って来たらしい。
『兄さん』
『戻ったか』
『周囲には何もいなかったぞ。遠くまで見てみたが、妙な影もない。匂いもないから、この辺にあの黒い奴はいねぇよ』
『分かった。でだ。今の状況だが──』
『言わなくていいぜ兄さん』
『……お?』
いつもなら噛みついてくるのに……どうしたんだ急に……。
何か悪い物でも食べたのか?
『大丈夫かガンマ……? 具合とか悪くないか……?』
『別に?』
『人間の事になったら噛みついてくるのに、今日はどうしたんだよ』
『ああ、そう言う事か。確かに最初はビビったけどよ、あいつ臭くねぇんだよな』
『……ん?』
臭くない……?
え、ごめんどういうこと……全く分からない。
『どういうこと?』
『魔物とかってすげぇ臭いんだよ。だけど仲間は全然臭くねぇ。こいつは臭くねえんだ。なんでか知らねぇけどな』
『それは……普通の匂いって事か?』
『いや違うぞ。魔力の匂いだな、多分』
魔力の匂いぃ?
なんだそれ初めて聞いたぞ。
俺は仲間の中でも嗅覚はいい方だが……そんな匂いは一度として嗅いだことは無い。
こいつ……視力だけじゃなくてそんな特殊能力を持っていたのか……?
『いつからそれが分かるようになったんだ?』
『つい最近だな。なんか知らねぇが、嗅ぎ分けられるようになった』
『えーとつまり……。この少年は合格だと?』
『フン、信用はしてねぇ。けど、俺は兄さんを信用する。これが最善なんだろ? だったら従うさ。どうせ明日には帰すんだ。だったらいいさ』
『はー、なーるほどねー』
まさかガンマがこんな反応をするとはな……。
悩みの種が一つ減った気分だ。
後は……少年の回復を待つとするか。
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