6.22.Side-ベリル-模索


 白いエンリルと別れた後、ベリルはすぐに屋敷に帰った。

 考えをまとめるため、自室で紙とペンを持って机に向かっていた。

 夜遅いので蝋燭の灯りだけが頼りである。


 今日までで色々と分かったことがある。

 だが頭の中だけでは整理できないと思ったので、こうして書き出しているところだ。

 書いた後は燃やしておかなければいけないという事を念頭に置きつつ、今頭の中に入っている情報を紙へと移していく。


 まずはあのエンリルたち。

 二年前のエンリル討伐隊が討伐に向かった時は四十二匹が犠牲となった。

 何匹の生き残りがいるかは分からないが、小さな子供がいた為まだ少数はいるはずだ。

 最低でも三匹はいるはずである。


 そしてあのエンリルこそが、テクシオ王国で討伐されたエンリルの生き残り。

 あれほどまでに大きいのかと改めて思ったが、そこでレンおばあさんの古本屋で見た本を思い出す。

 白く大きな狼の後ろに、それよりも小さな黒や灰色の狼が付いていた絵。

 その上には名前が書かれていた。

 解読をして見たところ、白く大きな狼の上には“フェンリル”と書かれており、黒や灰色の狼の上には“エンリル”と書かれていた事が分かった。


 もしかすると、あの白く大きな狼はエンリルではなくフェンリルなのかもしれない。

 確証はないが、それよりも小さな狼がいたらそれは確定だ。

 あれがエンリルの普通の大きさかもしれないので、これは定かではない情報である。


 そしてテクシオ王国の現状。

 エンリルたちがいなくなったことにより、魔物を間引く存在が消滅。

 その結果大量の魔物が蔓延る汚染されている土地へと変わってしまった。

 日夜戦闘が繰り広げられており、無法地帯となっている所もあるのだとか。


 エンリルがいなくなった二年間だけで、土地が変化するほどに魔物が増えた。

 これは決して他人ごとではない。

 もしテクシオ王国と同じ道を辿ってしまえば、次に危機に瀕してしまうのは今自分がいる領地。

 あのエンリルたちの事は絶対に隠し通さなければならない。


 後、冒険者ギルドで少し調査をしたところ、今現在このライドル領は二年前に比べて魔物の出現率が激減している。

 現れるのは低級の魔物だけであり、カラッサ大森林の危険度も大きく下がった。

 これはエンリルたちが来てくれて、魔物を間引いてくれているおかげなのだろう。


 この領地は、知らず知らずに守られていたのだ。

 それを知らずにいた自分が少し恥ずかしい。

 ベリルは今エンリルたちに何かができないかを必死に考えていた。


 とにかくエンリルたちの存在を悟られないことが第一の条件。

 だがそうなると支援を受ける為に嘘を言わなければならない。

 流石にそんな事はできなかった。


 だが一人で動くとしても、どう動けばいいか分からない。

 自分一人でできる事などたかが知れている。

 さてどうしたものかと頭を悩ませたが……。


「……聞けばいいのか」


 あの白いエンリルは人間の言葉が分かる。

 であれば直接聞けばいい。


 その考えに至った後、大きく頷いて紙を暖炉の中で蝋燭の火に当て燃やす。

 今日はもう夜も遅いので寝る事にして、明日にでもまた森へ行けばいい。

 待っていれば来たのだから、明日も来てくれるだろう。


 だが持参したサンドウィッチは持って帰ってくれなかった。

 しかしよくよく考えてみればバスケットが無くなった理由を考えるのも少し面倒くさい。

 変な嘘を言ってもいけないし、あのエンリルはそこまで考えてくれていたのかなと自分で勝手に思っておく。


「よし、また明日行くぞ!」


 今日はベッドにダイブする事にして、またエンリルと会う事を楽しみにしながら眠りについたのだった。


 次の日、自身の身に起きることを彼は知る由もないのだった。

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