6.11.説明
人間を殺さずにそのまま帰した俺は、セレナを連れて棲みかに戻ってくることができた。
道中ベンツとも合流したので、こいつも隣にいる。
ガンマは足が遅いので到着する事すらできなかったようだ。
あとで呼んでおいてもらおう。
だがやはり誤魔化せないものはあるようで……。
『兄ちゃん』
『分かっている。後で話すから皆を呼んでくれ』
『分かった』
短い接触の時間だったが、どうやら人間の匂いが付いていた様だ。
訝し気な表情のまま、ベンツは仲間たちを呼びに行った。
呼ぶのはリーダー格だけだが、それでも大丈夫だろう。
さてと……その前に。
『界! 出てこい!!』
いつもであれば俺が帰って来たと同時に背中に乗ってくる三狐だったが、今回は出てこない。
まぁ怒られるのが分かっていて出てくるってのは中々勇気が必要だ。
あいつらはそんな勇気とかあんまり持っていなさそうなので、大方その辺の隅で縮こまっているのだろう。
匂いを嗅いで場所を探ってみると、洞窟の中で縮こまっていた。
動きそうにもないので、仕方が無しに歩いていってみる。
姿を見てみれば、三匹が一緒に固まっていた。
子供たちも他の親からあれで遊ぶなと言われているのか、今手を出している子供は一匹としていない。
良い判断だ。
『おい』
『ぴっ!』
『はぁ……お前なぁ……。はい、とりあえずこっち向け。お前らもだ』
『『何故ッ!』』
『いやなんとなく』
まぁ見た所反省しているみたいだな。
ベンツが一撃殴ったとか聞いたし、俺からは厳重注意するだけでいいだろう。
三匹の首根っこを闇の糸で摘み、無理やりこちらを向かせて座らせる。
随分とバツの悪い顔をしているようだ。
他の二匹もまるで自分が怒られているかのようにして、耳を垂れ下げてしょんぼりしている。
別に他の二匹を怒る必要はないのだが、まぁこの際だ。
これからの事についても話しておいた方が良いな。
『界、何か言う事はあるか?』
『……ごめんなさい』
『よし。とは言え、これはお前たちだけに非があるわけではないだろう。子供たち。こっちに来なさい』
隅っこから見ていたベンツとガンマの子供たちを呼び、近づけさせる。
元はと言えば、こいつらが遊び道具としていたことが原因なのだ。
界はそれに我慢の限界を迎えてしまったのだろう。
これからは三狐で遊ぶことを禁じさせる。
そうすればこのような事件は無くなるだろう。
子供たちは子供たちで遊んだほうが手加減なども覚えやすい。
それに、この三狐は俺たちにとっても重要な存在だ。
魔法の基礎を教え込んでくれたのもこいつらだし、応用魔法を教えてくれたのもこいつらだ。
今まであれが日常だったが、ああいう事件は減らさなければならない。
気が付けなかった俺にも非はあるだろうしな。
『いいな、子供たち』
『『はーい……』』
『『うん』』
これから産まれてくる子供たちにも、同じことを言っておかなければならない。
まぁそれは親に任せるとして、この事を全員に伝えておく。
『三狐たちも、何か不満があったら言うんだ。いいな?』
『『『分かりました』』』
『はい、じゃあ話はこれで終わりだ。解散』
話が終わると、三狐は俺の背中に乗りこみ、子供たちは親元へと帰っていった。
セレナの容態だけをもう一度見て、その場を後にする。
さてと、次はリーダー格に説明だな。
集合場所には既に皆がいるようだったので、俺もぼちぼち行くとする。
レイは今向こうでの開拓事業に取り組んでいるのでいない。
ベンツ、ガンマ、シャロ、スルースナー、ヴェイルガが座って待機していた。
俺もその場に入り込み、座って話し合いを開始する。
『まぁ、言わないでも分かっているとは思うが、人間と接触した』
匂いで分かっている様だったが、俺の言葉を聞いて数匹は毛を少し逆立てる。
この中で人間を知っているのは俺を含めて四匹。
ベンツ、ガンマ、シャロだ。
シャロは当時幼かった為、記憶はあまりないだろうが親を殺されたのは事実。
知らないでも恨みは持っていて当然である。
スルースナーとヴェイルガは何故そんなに警戒しているのか理解できていないようだった。
俺たちの事はしっかりと話しているので人間との関係は知っているはずだが、まぁ実感がわかないだけだろう。
『で、どうしたんだそいつ』
『ああ。殺さなかった』
『……理由を聞いてもいい?』
『相手は子供でな。そいつが帰ってこなければ人間共は捜索隊を編成するはずだ。そうなれば俺たちが見つかる可能性は上がる』
俺たちが子供を大切にしているように、人間も子供を大切にするのだ。
それこそ、今回のベンツの様に。
『ですがオール様! その子供が僕たちの事を言いふらす可能性はありませんか?』
『確かにそうだぜ兄さん。会話できねぇんだからよ、頼むっつったって無理は話だろ』
『そこは大丈夫だと思う。不器用ではあったが、会話自体は成立したからな』
『流石オール様でずな。じがじ……信用に値ずるのでずが?』
まぁ、信用は出来ないだろうな。
なんせ過去のことがある。
信用したくてもできないというのが正しいだろう。
だが、信用しなければならないというのもまた事実。
あれが一番安全だと思われる策だ。
不満の色はやはり見えたが、俺の判断は間違っていなかったと思っている。
殺しても、殺さなくても危険な状況には変わりないのだ。
であれば、比較的安全なほうを取るに決まっている。
会話が成立してよかった。
そうでなければもっと深刻な状況になっていたかもしれないしな。
『……兄さん、やっぱ俺は信用できねぇ』
説明が終わったにもかかわらず、自分の意志を貫くガンマ。
だがそれも、仕方がない事だろう。
『まぁ、そうだろうな』
『甘くないか? 過去の事を掘り返したくはないが、あいつらは俺たちの家族を、群れを殺したんだ。そんな奴らの事を信じろと?』
『じゃあ聞くが、お前ならどうする』
『勿論殺すぞ。当たり前だ』
『それによって俺たちの存在がバレてもか? お前が危険を作り出してしまうことになりかねないぞ? あのときと同じ状況に陥らせたいのか? それでもそうするか?』
『ぐっ……』
俺の判断は間違っていなかったとは言ったが、俺だって間違える事など沢山ある。
そこまで頭も良くないし、これが最善なのか実は良く分かっていない。
そう言い聞かせているだけかもしれないのだ。
だが、ガンマの言っている事はただの私情。
それを貫いて仲間を危険にだけは晒したくない。
『今は経過を待て。俺がまた調べてくる』
『……だが……!』
『ガンマ。もうやめときな。兄ちゃんの言ってること、僕は正しいと思うよ』
『俺もそう思うよガンマ兄ちゃん。会話ができたって言うんなら、可能性はあると思う』
『…………わーったよ』
まだ不服そうではあったが、ガンマは取りあえず説得できたようだ。
こいつの言っている事も間違いではないしな。
今は経過を待つとしよう。
『ヴェイルガ。定期的に魔素のない大地をレーダーで探ってくれ』
『うっ……。アレ、魔力消費が激しくて……』
『慣れろ。使わなければ成長しない』
『りょ、了解しました』
この距離から向こうを把握できるのはヴェイルガだけだ。
これだけはしっかりとしてもらおう。
さて、明日にでも魔素のない大地を調べてみるとするかな。
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