5.50.こいつどうしよう


『なぁ兄さん』

『……』

『兄さーん』

『ああ、分かってる。お前の言いたいことは大方見当が付くがもう少しだけ待ってもらってもいいか』

『あれから結構待ってるんだけど……』


 俺は今……考えていた。

 何を考えているかというと……。


 悪魔です。

 悪魔は依然として地面に埋まっており、ガンマに餅つきをされている。

 こいつどうしようまじで。


 話はとりあえず聞いた。

 よくよく考えたら悪魔の事なんてどうでもよかったので、聞くこともなくなった。

 だが、このまま帰しても良いものかとずっと考えているのだ。


 この悪魔はほっとくと騒ぎ散らすので、今はガンマに餅つきをしてもらって強制的に黙らせている。

 本当にこいつ口が動く時マジでうるさいの。

 ガンマもそれに対してブチギレてたので、率先して餅つきをしてくれている。

 有難い事だ。

 お手て真っ赤だけどな!


 でもこれそのまま帰したら駄目だよな。

 魔王に頼んで俺たちの事殺してやるーって言ってたし、流石にそれはマズいでしょう。

 とは言えここに置いておくのも嫌なんだよなぁ……。

 まじでうるせぇし……。


 だって俺たちのいる住処にまで声が届いたんだぞ?

 流石に嫌だよ毎朝こいつの悲鳴で起きるなんて。


『こいつどうしようか……』

『兄ちゃんが思うようにすればいいんじゃないかな』

『そうですね。お任せします』

『同じぐ』


 誰も一緒に考えてくれない。

 悲しい。


 ……あ。

 そう言えば、リューサーの所で血印魔法使ったな。

 あれこいつにも使えないかなぁ。


 もしくは別の魔法。

 三狐は契約魔法か何か知らないのだろうか。


『どうなんだい?』

『『それなら冥が適任ですね』』

『お、なんかあるのか』

『ありますよ。暗黒魔法を三つくっつけた魔法で、禁じられた単語を言うと封印される魔法が』

『いいじゃんそれにしようぜ』


 生かさず殺さず封印するっていうのは良いね。

 こいつの場合死んだら魔法解除されそうで怖いんだよな。

 ていうかどっかに封印できねぇかな。

 あ、でもそうするとこいつが帰ってこないってことでまた違う悪魔が派遣されてくるのか。

 面倒くさいなぁ~~。


『あ~……。もう魔王と直接話に行ってやろうか……』

『『『駄目です』』』

『はいはい……』


 本当にこいつらと悪魔の間に何があったんだよ……。

 それが一番聞きたかったわ。

 この悪魔に聞いても何もわからねぇだろうけどな……。


 じゃ、とりあえず冥に封印魔法をかけてもらうとするか。


『じゃ、とりあえず頼むわ』

『分かりました』


 冥はぴょんと俺の背中から飛び降りて、真っ赤に染まった悪魔の所まで歩いていく。

 それに気が付いたガンマは、餅つきを止めて少し距離を取る。

 自分の手についた血が鬱陶しそうだから、水でも作っておいてやろう。


 悪魔の肉が徐々に形を成していき、完全に復活する。

 本当に何度殺しても死なない様だ。

 怖いですね不死持ち。


 復活したばかりは安定しないらしく、暫くはぼーっとしている。

 その後飛び起きるかのように騒ぎまくるので、冥はその前に魔法をかける。


『病魔の封』

『……? 病魔?』


 その後、冥がぼそぼそと何かを呟いていく。

 恐らく封印魔法が発動する単語を設定しているのだろう。

 だが俺でも聞き取りにくい。

 聞かせないようにでもしているのだろうか。


 暫くするとその儀式は終わった。

 意外と呆気なかったなぁ。


 ていうか待って。

 病魔ってどういうことなの?


『おい冥。病魔ってどういうことだ?』

『いや、封印中も苦しんでもらおうかなと……』

『性格わっるいなぁお前!』


 良かったよ俺こいつと敵じゃなくて!

 悪魔に対してだけだろうけど、お前躊躇なさすぎるだろう!

 恐いわぁ……。


『……で、禁じた単語は何にしたんだ?』

『狼、軍勢、魔物、魔法、契約とかですかね』

『そんなもんか』

『でもこれオール様の事を伝えるぞっていう明確な意思がないと発動しないのです。普通の会話であれば問題ありません。もし話そうとすると、禁じた単語が頭の中に浮かぶので、危険だという事くらいは分かってくれるでしょう』


 その辺は結構緩いんだな。

 まぁ流石にそれくらいは無いと会話に支障が出るだろうからねぇ……。

 戦ってるっていうのに軍勢とか魔物とか言えないってのはきついだろうし。

 別にいいとは思うけど。


 じゃ、これで帰らせても問題ないって感じかな。

 よし!


『おっしゃガンマ!』

『お?』

『地面を掘り起こす感じでこいつぶっ飛ばせ』

『よし来た』


 方角はどっちだ?

 魔物の軍が来た方角が確か……西だったな。

 じゃあその方向に吹き飛ばしてもらうとしよう。


 方角を指定して、俺とベンツ、ヴェイルガ、スルースナーは離れます。

 ガンマは後ろ脚を地面にトントンと叩いて準備をしている様だ。

 どうやら蹴って吹き飛ばすつもりらしい。


「……ぐ? ぬああああああ!!」

『うるせぇ!!』


 まるで雷が落ちたかのような爆音がその場所に鳴り響く。

 地面がごっそりと削れて悪魔が吹き飛ばされる。

 ガンマの本気の蹴りには俺の闇の糸も耐えれなかったようで、ブチブチブチッという音を立てて千切れてしまった。


「ごほぁあああぁぁぁぁぁぁ……」


 西の空に黒い塊が飛んでいく。

 俺はそれを見てみぬふりをして、土魔法で地面を直した。


『よし、帰るか!』


 なんか疲れたからお昼寝でもしよう……。

 そうしよう。


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