5.44.知らない匂い


『全然できねぇんだけど!!』

『『『わははははははは!!』』』

『貴様らぁ……!』


 俺は今現在、暗黒魔法の習得に苦戦していた。

 暗黒魔法自体の魔力は作れるのだが、それをどうにも体に循環できないのだ。


 その結果、頭の毛だけが逆立ったり、体中がハリセンボンみたいになるだけに留まっている。

 それを見たこいつらがまぁ笑う笑う。


 俺だって好きでこんなことしてるんじゃねぇんだよくそが!

 出来ねぇんだよ!!

 なんで俺は冥みたいに上手くいかないんだ!!

 

『わ、分かりましたふふふふっ。ま、まずは腕からやってみましょう!』

『ああ腕な!? そうだな!?』

『腕の毛を一本の針みたいに伸ばす感じで……こうっ!』


 冥はポンッと腕の毛を変形させ、鋭い棘を腕から伸ばした。

 俺も腕を上げて、同じ様に毛を伸ばして変形させる。

 がしかし。


 何故か毛がアフロになった。


『『『ぶっはははははははは!!』』』

『こなくそ……!! 貴様らぁ……!』

『そ、それでどうやって敵を殴るんですかっはははははは!!』

『お前を殴ってやる』


 勢いに任せてべちっと殴ったが、やはりあまり威力はないようでボンッボンっと転がっていくだけだった。

 くそったれこの野郎。


 何回やってもできない!

 何だこれ俺には似合わねぇってか!

 確かに俺には似合わなさそうな魔法だぜ畜生!


 どうやったらできるん……。

 マジで分かんないんだけど。

 何かコツがありそうなもんなんだけど、ここまでできないと悲しくなるわ。

 出来ないことがなかった俺にはもっとダメージが入っています。

 うぐぬぅ……。


『あーあ、駄目だこりゃ。全然できるイメージが湧かん』

『『『勿体ないですねー』』』

『お前ら俺が失敗している所を見たいだけだろ!』

『『『そんなことは無いですっはははははは!』』』

『思い出し笑いも大概にしろよ狐共』


 駄目だ。

 こいつらマジで当てにならねぇ。

 これはスルースナーに聞いたほうがいいかもしれないな。

 冥がスルースナーも無意識に暗黒魔法使ってるって言ってたし。


 あの骨格変化魔法が暗黒魔法を使用しているんだろうな。

 体を変形させる魔法って言ってたしね。


 あーでも俺には向かなさそうな魔法だな。

 駄目ですわ~。


『……? スンスンッ』


 なんだ?

 嗅いだことのない匂いがするぞ?

 魔物でもないし、仲間でもない。

 似ている匂いが一切ない匂い……。


 方角は……東か。

 ちょっと集中してそいつの姿を把握してみよう。


『『『? どうしたのですか?』』』

『ちょっと静かにしてろ』


 匂いを嗅ぎ分けて、そいつのいる場所まで向かってみる。

 すると、その匂いのヌシは人のような形をしている様だった。

 そしてこちらを向いているという事までは分かる。


 誰だ?

 距離的にはそこまで離れていない。

 もし人間だった場合、ここで始末しておかないと面倒くさそうだ。

 こちらを見ているという事は、俺の姿は絶対に見られているだろう。

 俺が何とかするしかないか。


『お前ら、今すぐに乗れ』

『『『分かりました』』』


 すぐに背中に三狐を乗せる。

 そしてすぐさまふん縛る。


『『『え?』』』

『走るぞ』

『『『え!?』』』


 身体能力強化の魔法、風魔法、そして場所を把握しているので今回はワープも使う。

 相手の後ろに出現させれば気付かれないはずだ。

 まぁ真後ろには出現させないんだけどね。


 ググっと足を踏ん張ってから、バネの様に飛び出す。

 そして追い風を吹かせて体を持ち上げる。

 瞬発力はベンツ以上の俺。

 それ故に大きな音を立てて移動することになったが、その前方にはワープゲート。

 俺はすぐにそこに入った。


 潜り抜けた先は、その匂いのヌシの真後ろだった。

 相手はいきなり俺が走ったことに気が付いて警戒をしていたようだが、後ろに来た俺には全く気が付いていない。


 俺は走った時の勢いを殺さずに突き進み、腕を振るってそいつを捉える。


「ぐっほ!?」


 手でそいつを捉えた瞬間、すぐに地面に叩き付ける。

 だが勢いはまだ殺しきれていないので、俺はそいつを引きずりながら停止した。

 これだけでも死んでしまうかもしれないが、それならそれで別にいい。


 完全に停止したのを確認してから、俺はゆっくりと腕を上げようとした。

 その時。


 ぐっ。


『!?』


 腕が少し持ち上げられた。

 これは俺の意思で持ち上がったのではない。

 下にいる奴が立ち上がろうとしていたのだ。

 俺は咄嗟の事で驚いてしまい、また思いっきり手を叩きつけてしまう。


 どん!


「がほぁ!?」


 ええ……。

 こいつこれで生きてるとか人間じゃねぇ……。

 待てよ?

 人間じゃないならこいつ誰だ?


 そう思い、俺は今度こそ腕を上げてそいつを確認する。

 見てみると、黒い服を着た何かだ。

 人型はしているのだが、あれだけやってもまだ動く。

 人間でないのは確かだろう。


 うむ、初対面で悪い事をしてしまったな。

 とりあえず声を掛けよう。


 そう思った瞬間、今度はそいつが反撃に出た。

 いきなりばっと飛び出して、俺の顔目がけて拳を振るう。

 俺は反射でベシッと殴り飛ばしてしまった……。


「ぐはぁ!? ごっほ!」


 すまん……身体能力強化の魔法を使用していたから加減が全くできんかった……。

 結果樹を二本ほど折ってしまった。

 そして折れた木に挟まって動けなくなっているようだ。

 いやマジですまん。


 とりあえず近づいて、ようやくそいつの姿をしっかりと目視する。

 黒い髪の毛に黒い服。

 服には金物が何個か付いている様で、結構パンクな格好だという風に感じる。

 これだけ見れば普通の人間だ。

 だが、人間とは全く違う所があった。


 こいつには、頭には二本の角が生えていたのだ。


『『『『悪魔だーーーー!!!!』』』』

「いきなり……何を……す……る……ガクッ」

『あっ』


 やっちまったぜ☆

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