4.20.子供たちの狩り


 作戦会議を終えた子供たちは、それぞれが配置につく。

 狙うは数百メートル先にいるサイの様な動物の群れ。

 体格差では完全に負けているが、子供たちは狩る気満々だ。

 万が一にも負ける予定は無いといった、自信に満ちた表情である。


 俺とガンマは、少し離れたところでその様子を見る。

 俺は土狼だが、視界は共有できているので、違う場所にいてもその様子を見ることが出来た。

 やっぱ土狼優秀。


 子供たちは扇状に展開して、ゆっくりと見つからない様に進んでいる。

 何処で習ったのか、足音を鳴らさない足運びをしていた。


 今回の狩りのリーダーであるシャロが、デルタに顔を向ける。

 それに気が付いたデルタは、小さく頷いて大きく息を吸った。

 魔素を吸っているのだろう。

 だが、随分と長くため込んでいる様だ。


 そして、魔力を一気に使う様にして、毛を逆立てる。


 ドドドドドド!


 大きな地震が起きたかのような音が鳴った途端、サイの群れの周辺に土の壁が出現した。

 明らかに飛び越せない程の高さだ。

 そして、わざと一つだけ出入り口を作っている。


 おおー。

 やるじゃないかデルタ。

 いきなり現れた土にサイたちは動揺いている。

 唯一空いている出入り口に一直線に進んでいるようだ。


 しかし、その一回の魔法を使うのに、デルタは相当消耗してしまったらしい。

 息を荒げて地面に伏せた。


『後は……任せた……!』

『『『了解っ!』』』


 まず初めに飛び出したのはシャロだ。

 大きく息を吸い、吸い込んだ息を強く吐き出す。


『炎魔法・炎上牢獄!!』


 シャロが発動させたのは、俺が教えた炎上牢獄という炎魔法だ。

 だが、やはり威力は弱い。

 精度もまだ良くないようで、二匹しか直撃していなかったように思う。

 しかし、直撃した二匹のサイは、大きな傷を負ってしまい、動かなくなったようだ。

 それを確認すると、シャロは次の魔法の準備をする。


 次に動いたのはライン。

 動く直前に水魔法を使用して、水の弾を周囲に展開させていた。


『うらあああああ!』


 叫びながら獲物に突撃する。

 その動きに合わせて水の弾もラインについて行くのだが、このままでは普通に返り討ちにされてしまいそうだ。

 ガンマもそう思ったのか、立ち上がって警戒する。

 だが、心配は要らなかったらしい。


『複合魔法・感電水!!』


 ラインは獲物に十分に近づくと、水の弾に雷魔法を付与した。

 体と雷はくっついているので、水の玉を自由に動かすことが出来るようだ。

 それを獲物にぶつけていく。


 バヂヂヂヂヂッ!!


 普通の水の弾だと思って油断していたサイは、まっすぐにラインに突っ込んできたが、感電水に一撃で沈められてしまった。

 本当に一瞬だ。

 そして、その感電水は他のサイも攻撃し始める。


『っしゃ成功!!』

『離れてー!』

『え?』


 シャロとラインが頑張っている後ろでは、レインが水刃の準備をしていた。

 いつでも発射できるように、もう水流の流れが止まっている。


『ちょ!? レイン!? しゃ、シャロー!! 逃げろおおおお!』

『え?』


 デルタは速攻で逃げた。

 雷魔法も使っているので、それなりに速い。

 だが、シャロはどうやら逃げ遅れたようだ。


『ん? マズいか……これ?』


 ガンマがそう言って、すぐに走り出す。

 だが、到底間に合う距離ではない。

 ガンマが走り出した瞬間、レインの水刃が発射された。


 水刃は一瞬で周囲にあったものをなぎ倒していく。

 サイの足が吹き飛び、その場に倒れ伏す。

 合計十一匹の大きなサイを、子供たちだけで狩ることが出来たのだ。

 素晴らしい成果である。


 どうして俺がこんな悠長に感心しているかというと、シャロは無事だったという事が分かったからだ。

 シャロは今、上から降ってきている最中だ。


『こらあ! レイン!! あぶねぇだろうがぁああ!!』

『ごっめーん!!』


 シャロはデルタから逃げろと言われた瞬間、身体能力強化の魔法を使って空に跳躍したのだ。

 これはガンマから教えてもらった戦線離脱方法だろう。

 いい判断だが、あの場所からだと……普通に落ちて怪我するな。


 だがそこで、ガンマが跳躍してシャロの首根っこに噛みついた。

 そして静かに着地して、シャロをそっと降ろす。


『あ、ありがとうガンマ兄ちゃん』

『ふっ。俺よりも高く飛ぶとはなぁ。驚いたぞ』

『へへーっ』


 完全に嘘やん。

 お前こら。

 嘘つくなよガンマこら。


 お前、前に地面壊して跳躍した時見えなくなったの俺覚えてるからな。

 その跳躍するときですら地面壊しやがって。

 どんな力してんだよマジで。


 ……まぁ……ガンマなりの褒め方なんだろうな。

 野暮なことは心の中だけ留めておいてやろう。


『よし、お前らよくやった。これならベンツも驚くぜぇ?』

『やったー!』

『早く持って帰ろう!』

『そうだね!』


 ガンマの前に集まった四匹の子供は、声を揃えてガンマにお願いをした。


『『『『運んで!』』』』

『……お、おう……』


 俺はそっと帰った。

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