4.19.子供たちの作戦会議


 指揮をベンツに任せた後、俺は土狼で外の様子を見る。

 ベンツは今日の分の食料を調達するために、走り去っていったのだが、子供たちも食料の確保に向かっていた。


 これはガンマがベンツに提案したことだ。

 そろそろ子供たちにも本格的な狩りを覚えさせておいた方が良い。

 そう考え、ベンツとは別行動で狩りをしに向かっていた。


 獲物は近くにいるようだったので、すぐに見つけることが出来るだろう。

 全員が姿勢を低くして、獲物の姿を確認する。


『あれだよね?』

『うん、あれあれ』

『ちょ、ちょっと大きいね……』

『だね……』


 子供たちが狙っている獲物は、一匹狩るだけで子供たちが食べるには申し分ない程の大きさの獲物だ。

 サイの様な姿をしている。

 しかし角はない。

 比較的安全な草食動物なのかもしれないが、数が少し多かった。

 それに、子供もいるようだ。


 子供がいるとなると、その親は狂暴になる可能性が極めて高い。

 どうなると、体格差で負けている子供たちは危険である。


『お前たちなら大丈夫だろ。兄さんから直々に魔法を教えてもらってるんだからよ』


 ガンマ君。

 確かにそうだけど、俺もそこまで強いわけじゃないからね?

 ちょっと評価しすぎじゃないかしら。

 俺そんなにすごい狼じゃないよ……。


 しかし、それを聞いて子供たちはやる気になったようだ。

 士気が上がるのは良いことだが……引き際は見極めてもらわないとな。

 だが、そこはガンマがしっかりと見てくれるようだ。

 何かあれば、ガンマが助けに行ってくれるだろう。


『よし、お前ら。作戦はどうする?』

『んー……』

『ねぇ皆! ベンツ兄ちゃんがやってるみたいに、僕が追いかけるのはどう?』


 名案だと言わんばかりに、ラインが皆にそう告げる。

 ラインはベンツから雷魔法を教えてもらっていたはずだ。

 纏雷はまだ使いこなせていないようではあるが、微弱な物であれば今のラインでも使用が可能。

 子供たちの中で、ラインは今最速の足を持っている。


『でもさぁ。ラインのちっちゃい体だと、追うんじゃなくて追われるんじゃね?』

『うぐっ!?』


 ……まぁシャロの言う通りだな……。

 足は速いが、体は子供たちの中で一番小さい。

 気にしている事だとは思うのだが、それをなんに悪気もなしに言うシャロ。

 容赦ない。


 小さいと言っても、前世で見た狼ほどの大きさはあるんだけどな。

 これで子供ってんだから、俺たちはめっちゃでかいのだ。


 ていうかラインめっちゃ凹んでんじゃん。

 やめてやれよ可哀そうに……。


『でも、ラインの足の速さを活かすのは悪くないと思うなぁ』

『でしょ!?』


 いや復活早なライン。

 めっちゃちょろいじゃん。


『だけどどうやって追い回すの? ああ言うのは追いかけてこないって、ベンツ兄ちゃん言ってた』

『大丈夫だよ多分!』

『いや、ガンマ兄ちゃんくらいの迫力があったら良いだろうけど、ラインは無理だろ……』

『ぐぅ……っ』


 ラインはまたしょぼくれてしまった。


 お前起伏激しいな……。

 まぁ、感情が沢山あるのは良い事か。


 でも、結構皆考えるようになったんだなぁ。

 感心感心。

 ガンマも面白そうに話を聞いている。

 こういう試行錯誤する会話、俺も嫌いじゃないぞ。


 だがこのままでは話し合いが終わりそうにないな。

 そろそろ助言をしてやろう。


 俺は土狼の中にある魔力で土魔法を発動させる。

 とても小さな物なので、土狼には殆ど影響はない。

 それで子供たちの目の前に小さな壁を作った。

 草よりも背の低い本当に小さいものだ。


 それを見て、子供たち三匹は首を傾げているようだったが、デルタは何かに気が付いたようだ。


『あ。つ、土魔法か!』

『んん? どういう事……?』


 理解できないといった風に、三匹はデルタを見る。

 デルタは自分が使える土魔法を少し使って、作戦を説明した。


『つ、土魔法で壁を作って、獲物の退路を塞ぐ! そ、それから一斉に攻撃! これで……どうかな!?』


 おおん?

 俺の想像してたのとちょっと違うねぇ?

 まぁ単純な物だけど、割といい線はいっていると思う。

 ただ、獲物を倒すだけの火力がこの子たちに出せるか……?


 そう思って見ていたが、他の子供たちは「ああ、なるほど!」と言った様子でその作戦を実行することに決めたようだ。

 まぁ実際にやって学ぶこともある。

 ここは黙って見てやることにしよう。


 子供たちの実力は、自分が一番よく知っているのだ。

 任せてみようではないか。


『じゃあ俺が指揮するけど……いい?』

『シャロかー』

『なんだよぅ』

『いや、別にいいんだけど、今度は僕がやりたいな』

『一番は譲ってあげるわ!』


 子供たちはあまり指揮には強いこだわりは無いらしい。

 喧嘩しなくてよかった……。


『あれ? なんだよ。てっきり喧嘩すると思ってたぞ』


 ガンマが少し面白そうに子供たちにそう言った。

 いや、実際俺も喧嘩すると思ってたのでちょっと驚き。

 すると、子供たちは口を揃えてこう言った。


『『『『だってリーダーはオール兄ちゃんじゃん』』』』

『……お、そうだな?』


 認めてくれるのは嬉しいけど、リーダーに興味がないのはちょっとどうかと思うぞ!


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