4.21.試行錯誤


 子供たちが狩った獲物は、全てガンマの手によって運び込まれた。

 その数は八頭。

 このサイはガンマくらいの大きさがあるのだが、ガンマはそれを重たげなく軽々と運んでいった。

 一体この体の何処にそんな力があるのだろうか。


 だがガンマが一度に運べる数は少ない。

 結局八往復した様だが、別に疲れてはいなさそうだった。

 力もあれば、体力も他の狼たちとは比べ物にならない程あるのだろう。


 しかし……このサイを子供たちは一体どうするつもりなのだろうか。

 一生懸命ガンマに何かを説明しているようだが……。


『オール兄ちゃんはこうやってた!』

『そうそう! お腹の中を取り出してー……』

『ん、んん? こうか……?』


 どうやら、子供たちは料理がしてみたいらしい。

 ガンマに内臓を取ってもらうように指示を出している。


 あの肉の味が忘れられないのだろう。

 これは胃袋を掴んだはずだ。

 ふふふ……。

 子供たちに料理を覚えてもらえば、これからの生活がガラッと変わりそうだ。

 いつでも肉料理が食べれるぜ。


 だが、見ているととても危なそうに見える……。

 大丈夫かな?

 まぁ初回は自由にさせてみるとしよう。


 子供たちは、俺がやっていたことを見ているので、それを思い出しながら下処理をしていた。

 ガンマに腹を割ってもらい、体の小さい子供たちが内臓を引っ張り出す。

 自主規制が必要なヤバイ光景だが、俺は慣れているので問題ない。

 そのまま作業を見守ることにする。


 内臓を取り出したら、今度は皮を剥ぐのだが……。

 どうやらそれは忘れてしまっているらしい。

 一気に部位の解体を始める。


 子供たちでは部位の解体が出来ないので、これもガンマ任せだ。

 しかし、まだ力の調整ができないのだろう。

 骨を砕いている……。


『こんな感じか?』

『なんか違う』

『もっと肉が見えてたよねー』

『う、うん。ガンマ兄ちゃん。今度は背中を……』


 解体のやり方は覚えている様で、それ自体はすぐに終わった。

 だが、皮は付いているし、軟骨ではなく骨を真ん中からぶった切っているので、ボロボロである。

 唯一まともに残っていると言えば、足くらいな物だろう。


 でも何の知識もなく、俺がやっていた事だけを真似てここまで出来たら上等だ。

 俺もプロじゃないしな。

 とりあえず関節部分を切り離して、三枚に下ろしただけ。

 他の詳しい解体方法なんか知らんし、なんならそれを実行できる道具もない。

 うん、あれが限界だろ。


 解体に参加した子供たちは、どうも納得はいかなかったようだが、とりあえずこれで火を通す様だ。

 何処からか、まな板に使えそうな大きな岩を探しているようだが、そんな都合よくあるわけもなく、岩の捜索は断念してしまった。


『岩無いねー……』

『う、うん……。何代わりになる物……ないかな?』

『でも、オール兄ちゃんがやってたやり方しか俺ら知らないよ?』

『確かにそうね……』


 まぁ……でしょうね。

 見たことも聞いたこともないのに、やってみせるのはとても難しい。

 なんか前世でそう言うニュアンスの番組があった気がするけど、なんだったっけな。


 そんなことを考えていると、デルタが地面に置いてあった肉を、土魔法でつまみ上げる。

 随分と器用なことをするなと思ったが、そう言えばデルタは闇魔法にも適性があった。

 あの人形を作るときと同じ様に、土を狼の口の様にして、肉を掴んでいる。

 考えたものだな。


『んんーー……』


 だが、随分と消費が激しい様だ。

 一つのワームを動かすだけで苦労している。

 肉は、ワームにつままれながら移動し、地面から少し離れた位置で停止した。


『ふぅ……。し、シャロ。これで火を付けてくれないかな?』

『……おお! なるほどな!』


 デルタはどうやら直火焼きを思いついたようだ。

 まぁ別にまな板なんて要らないしな。

 これで十分である。


 デルタの考えを読み取ったシャロは、すぐに肉の下に火を付ける。

 初めは弱火だったが、火が肉に届いてないという事に気が付くと、すぐに火力を上げた。

 火はすぐに肉に届く。

 若干強火なような気もするが、これであれば焼けるだろう。


 しかしあれだな。

 シャロは大きな炎はまだ出せないが、小さい火の調整は得意なんだな。

 弱火、中火、強火を使い分けれているように思える。


 俺そこまでできないよ。

 弱火と強火と大火力しか持ってないもん。

 前は調整すらできなかったもんなぁ……。


 ガンマも炎魔法使ったらいいのに。

 全く、子供たちに炎魔法は便利だぞと教えてもらいなさい。

 狼にとって炎は、生活するのには要らないんだけどね。


 だが使えるのと使えないのとでは大きな差が生まれるぞ!

 ……でもあれだな。

 ガンマも多分炎魔法強化されてるはずだ。

 元の火力を見たことがないから何とも言えないけど、多分とんでもないことになってんだろうなぁ……。


 まぁ……使わないならそれでいいんだけどさ……。

 怖いし……。


『デルター。こっちの肉も準備しようぜ?』

『あ、そうだね! んんーー!』


 デルタはまた土魔法で肉をつまみ上げて、今シャロが焼いている肉の隣に設置した。

 シャロはそれを見ると、すぐにそちらの方にも火を付ける。

 同時に何個かの炎を操ることも出来るようだ。


 俺より優秀ッ。


 暫く肉を焼いていると、香ばしい香りが本体である俺の所まで漂って来た。

 どうやらうまく調理することが出来たらしい。


 ついでに、子供たちが匂いに連れられて寄ってくるのは、そう長くはかからなかった様だ。

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