4.8.強化された魔法


 歩くことニ十分。

 思った以上に早く着いたのは、全員が駆け足だったからだ。

 皆よく頑張ってくれた。

 これで少しゆっくりできる時間が増える。


 ベンツが見つけたという場所に来てみれば、確かにここは他の場所よりも平地で、地面もしっかりとしている場所の様だ。

 ここであれば、多少無理して土を動かしても土砂崩れや地盤沈下などは起らないだろう。


『よし、お前ら少し離れていてくれ』


 全員を後ろに下げたことを確認した俺は、土魔法で家を想像する。

 雨風が凌げる程度の場所で十分だとは思ったのだが、作るのであればしっかりした物を作りたい。

 半分は好奇心だけど。


 俺は魔素を吸って魔力を生成する。

 そして土魔法を発動させた。


『土魔法、いい感じの家』


 技名は適当で意味などありません。

 建築工法なんて知らないし、なんなら土台の作り方も知らない。

 とりあえず家っぽいものが出来ればいいと、そう言う風に思っていた。


 だが、どうやらこの土魔法君はそんな甘い事は言わなかったようだ。

 土が一気に盛り上がり、俺の背を優に超えた。

 その高さは十メートルくらいだ。

 そして規模も大きい。

 まさかこんなにデカい物が作られるとは予想していなかったので、俺は数歩引いて様子を見守る。


 すると、盛り上がった土が削れて形を成していく。

 屋根から始まり、窓、壁、雨どい、扉などが一瞬で出来た。

 あり得ない程の建築速度に、流石の俺もドン引きです。


『えー……』


 しかも結構いい感じの家。

 片流れの屋根で、二階にはバルコニーもあるようだ。

 外には縁側もある

 要らない。

 そんなものは今必要ない。

 誰だいい感じの家を作れとか適当なこと考えたやつ。

 俺だ。


 しかし、子供たちには絶賛された。

 とても複雑。


『オール兄ちゃんすげー!』

『入っていい!? 入っていい!?』

『お、おう。好きにしろ』


 そう言うと、子供たちは全速力で家の中に入っていく。

 入る直前に、俺は子供たちに着せている防具を外す。

 土で出来た物なので、すぐに外すことが可能だ。

 紐は闇の糸で作ってあるし、解除するのは一瞬の事。


 玄関は俺が入れるくらいの大きさなので、子供たちからしてみれば門を通るような気持ちだろう。

 両開き扉にしておいてよかったぜ。


 頭に乗っている子供たちもそわそわしている様だ。

 早く俺も入ろう。


 中に入ってみると、吹き抜けになっていた。

 二階はあるようだが、どちらかというと天井裏だ。

 ある必要性はほとんどないだろう。


 部屋は何個かに区切られているようだが、俺は今いる空間にしか出入りすることはできない。

 体がデカいってのも考え物だな。

 しかし、ここには暖炉がある様だ。

 これに火をつけることが出来れば、温まることが出来るかもしれない。


 ここまで来たら物は試しだ。

 土魔法もここまでの物を作り出すまでになっている。

 であれば、炎魔法の火力調整も出来るようになっていなければおかしい。

 行けるはずだ。


 俺は暖炉に近づいて、土魔法でそこに木材を出現させる。

 土魔法は木も操れるから、その辺にあった木から少し拝借してきた。

 薪はこれで大丈夫。

 後は火……。


 俺は慎重に暖炉の前に手を出す。

 爪を出して、そこに火をつけた。

 ………。


 ポッ。


 俺の爪ほどの炎が出現した。

 少し驚いたが、熱くはないし、火傷するという事もなさそうだ。

 炎魔法の火力調整が出来るようになっている。

 だが、使ってみた感じで分かる。

 この調整はとても難しい。


 ただ小さな火をつけるだけという簡単な作業ではあるのだが、これには随分と神経を使う。

 炎魔法は、魔力を流した分だけの大きさの炎が作り出される様だ。

 簡単に言えばガスコンロみたいなものだな。

 であれば、ガスコンロの摘みを調整するイメージで炎を作り出せばいいとは思ったのだが……この調整が非常に難しい。


 常に全開だった俺の炎魔法に、調整摘みが追加されたのだ。

 どれだけ魔力を使えば、どれだけの炎が出現するのかが分からない。

 それに、魔力を少しでも多く作り出してしまえば、火力は上がる。

 なので炎魔法を使う時は魔素から魔力を作り出せない。


 俺が作り出した炎は大きくなったり小さくなったりを繰り返していた。

 いつ大きくなりすぎて家が燃えるか分かった物ではない。

 早い所、炎魔法を使って火を起こしてしまおう。


 火は簡単に着いた。

 木は湿気っていたと思ったのだが、大丈夫だったようだ。

 薪は結構な量を準備してあるので、暫く持つだろう。


『火の番は俺がするか……』


 できるだけ暖かいところで皆に休んで欲しいからな。

 そう思って、ふと皆の様子を見た。

 すると、ガンマとベンツは俺の後ろで俺がやっていたことを見ていたようだ。

 他の子供たちはびっくりするくらい元気に走り回っている。

 小さな子供たちも一緒だ。

 踏み潰さないようにしてくれよ……?


『兄ちゃん器用になったねー』

『まぁな……。これも俺がリーダーになった恩恵だろう』

『……』


 ガンマはそれを見て何か考えていたようだが、すぐに伏せて寝始めてしまった。


『ごめん、俺今日は寝るわ……』

『ああ、お疲れ。ベンツも走り回って疲れただろう。今日は休め』

『兄ちゃんは?』

『俺は火の番。俺しか火を扱える奴はいないだろうしな』


 ベンツは小さく頷いて、ガンマと同じ様に丸くなって寝始める。

 子供たちもそれに気が付いたのか、遊ぶのをやめてベンツやガンマに寄り添って行く。

 小さな子供たちだけは、俺にくっつく様だ。

 こっちの方が暖かいらしい。


 ようやくゆっくりできたな……。

 でも俺はもう少し仕事をしましょうかね。


 土魔法で土狼を二匹外に作り出す。

 土狼は視界共有ができるのでとても便利な魔法だ。

 今は雨で鼻があまり役に立たないので、土狼に任せよう。


 まだ時間的には夜ではないが、明るい内によくここまで移動できたものだ。

 皆慣れないことに疲れているだろう。

 今日はゆっくり休んでもらいたい。


 だけどこれでまだ一日目か……。

 思った以上に大変だな。

 今は狼の体力に助けられているような状況だけど、このまま食料の調達もままらないのはマズい。

 結局今日なんも食べれてないからなぁ……。


 土狼一匹には獲物を探してもらって、もう一匹にはこの辺の調査をしてもらうか。

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