4.7.雨
雨はどんどんと勢いを増していく。
まだ山を完全に超え切っていない。
雨に濡れるのは別に問題ないし、今までにもあった事なので気にはしないのだが、今歩いている場所は山道だ。
このまま歩くのは危険だろう。
何処かで雨が止むまで雨宿りをしたいのだが……。
流石にこの辺りには雨を完全に凌げそうな場所は無い。
木の下は少しであれば雨は凌げるだろうが、風もあるので雨が吹き込む。
このままでは子供たちが体調を崩してしまうかもしれない。
『兄さん、どうする?』
『んー、俺の土魔法で雨風を凌げる物は作れるが、今この場では難しそうだな。せめてもう少し平らな場所に行かないと……』
土魔法で建物を作ることは簡単だ。
しかし、この場所では十分に広い物を作れない。
今いる場所は傾斜が少し急なのだ。
しっかりとしたものを作るのであれば、谷まで降りなければならないだろう。
だが、そこまでは少し時間がかかるし、歩いている子供たちには負担になる。
出来ればすぐにでも作りたいのだが……。
しっかし、山の天気は変わりやすいとは本当だったんだなぁ。
前に俺たちがいたところって、山じゃなくて森だったからな……。
それに安全な洞窟もあった。
雨が降ったらそこに隠れてたし……。
って、懐かしんでる場合じゃない!
んーどうする?
普通に穴掘るかぁ?
でもなぁ……なんか怖いよなぁ。
こういう傾斜のある所で土掘るの。
いや、別にそう言う知識があるとかそう言うんじゃないんだけどさ?
俺の土魔法も完璧じゃない。
今の状況ではどうなるかは分かんないんだけど、逆に分からないから怖い……。
力んで山なんて崩したらマジで怖いから……。
『冷たい……』
『しゃ、シャロー……。炎魔法……』
『お、おい! こんな所でやっても意味無いだろ! ていうかそもそもシャロは使えんのか!?』
『ちょ、ちょっとだけ……』
『不安ならするな!!』
やめてくれマジで。
怖すぎるわ。
だけどシャロは炎魔法を使えるように練習しようとはしているんだな。
ガンマとは大違いだ。
いいぞ、このままいけば調理ができる。
だが、慣れない内は丁寧な作業に使わせないようにしなくてはな。
火傷してしまったら痛いだろうし、それにさせてしまったシャロも自信を無くすだろう。
さて、とりあえずベンツに周囲の様子を確認してもらうか。
『ベンツ。出来るだけなだらかな場所を見つけてきてくれ。雨で俺の鼻もあんまり利かないから、出来るだけ早く頼む』
『わかった』
ベンツは大きく頷くと、シュバッと一瞬で消えてしまった。
あいつの足であれば、すぐに良い所を見つけてくるだろう。
その間は、俺が子供たちの笠になってやる。
頭に乗っかっていた子供たちを、俺の腹の下にゆっくりと置いていく。
他の子供たちも下に入るように指示し、出来るだけ濡れないようにしてやった。
俺の毛は長いので、それなりの雨風は凌ぐことが出来るだろう。
伏せて毛を皆の背中から被せ、尻尾もその上にのせてやれば完全に雨はかからなくなる。
とりあえず、ベンツが帰ってくるまではこの状態で待機だ。
その間、ガンマに周囲の警戒をしてもらう。
雨が降る前に感じ取ってはいたが、周囲に動物の気配は無かった。
なのでベンツが戻ってくる間であれば問題ないはずだ。
とは言っても過信は禁物。
しっかりと警戒をしてもらいます。
そうしていると、ベンツはすぐに戻ってきた。
『あったよ。でもちょっと離れてる』
『どれくらいかかりそう?』
『んー……あの山の奥』
そうだよな。
時間とかわかんないもんな、ごめん。
ベンツの指示した方向を見てみると、そこには確かに山があった。
どうやらあの奥に平地があるようだ。
しかし……結構遠い。
ちょっと離れてるどころじゃないです。
めっちゃ離れてます。
いや、でも山の中であの距離の平地があるのは良い事なのかもしれないな。
まだ近い方だという事にしておこう。
んー……。
傘がないというのはあれだなぁ……。
傘……傘……。
あ。
武具制作!
これで狼用の合羽みたいな防具を作ればいいのではないか?
あんまりかっこよくはないかもしれないけど、まぁ体が濡れなければ問題はないだろう。
実験として、とりあえずガンマに防具を着せてみる。
『!? おおおお!? なんだなんだ!!?』
急に土が体に纏わり始めたので驚いている。
すまん、一言くらい言えばよかったな。
だが、ガンマも俺が土魔法を使っているという事に気が付いて、落ち着きを取り戻す。
すごい睨まれてるけど気にしない。
俺は土魔法でガンマの体に防具を付けていく。
この土魔法は硬い防具を作るもの。
なので稼働可能な物は作れない。
その為関節部分には隙間が空くことになってしまうが、俺ができるのはこれが限界だ。
と思ってたのは時期が俺にもあった。
俺は確かに関節部分の所には隙間を作るようにして防具を生成した。
だがどうだろう。
見てみればその関節部分にも防具が着けられている。
簡単に言えば西洋の甲冑の足部分である所に使われる、可動する武具になっていたのだ。
武器は日本の日本刀が良いと聞くが、防具は西洋の武具の方が優れている。
というのを何処かで聞いたことがあるのだが……何処だったか。
だが俺が今こんなのを作れるとは思わなかったな。
これは良いことを知れた。
『おお!? 兄さんこれなんだよ!』
『な、なんかできた……。これで雨の中も少しは大丈夫だろう?』
『ああ! これなら雨の中でも殆ど体は濡れないぜ!』
細かすぎる物は作れない様なので、足元に装備は無い。
ま、走りやすい方が良いだろうしな。
余計なところには装備を装着しなくても大丈夫だろう。
ベンツにも同じ様に装備を着けてやる。
流石にベンツの速度には耐えれないだろうから、それだけは伝えておこう。
『どうだ?』
『んー……動きにくいけど、確かに雨は凌げるね』
『じゃあ、とりあえずそれでベンツが発見したところまで行こうか』
子供たちにも同じような装備をさせておいて、俺の背中には子供たちを隠せるような箱のような物を作っておく。
そうしておけば、背中に乗っている子たちだけは濡れないだろう。
『よし、行くか』
少し不格好だが、このままベンツの見つけた平地へと向かうことにした。
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