4.6.歩きながら


 事後、俺たちは山を越える為に麓を歩いていた。

 とりあえず全員が集合したわけなのだが……。


 まず、分かったことがある。

 確かに全員の身体能力が底上げされているという事。

 これはガンマの力試しで実証済みである。

 まさかあそこまで地面を壊すなどとは想像していなかった。

 あの時咄嗟の判断で逃げていなければ、巻き添えを喰らっていたことだろう。

 やってみろと言った俺にも非はあるが……。


 子供たちもそれに驚いて暫くは縮こまっていたように思う。

 シャロだけは胆力があったようなので、そんなことは無かったが……。


 音を聞きつけたベンツは、あれから二秒もしない内に帰ってきてくれた。

 聞いてみればベンツは周囲の山の奥を全て見て来たという。

 あれだけの時間で全てを見て回るなど、以前の俺たちではできなかった芸当だ。

 やはりベンツの能力も上がっている。


 他の子供たちはどうなのかというと、まだよく分からないというのが現状だ。

 子供たちの魔法はまだ完全な物ではない。

 基礎ができていないのだ。

 しっかりと魔法を扱えるようになった時、もしかするとその効果が跳ね上がるかもしれない。

 これは将来に期待ですね。


 因みに、ベンツからの情報で、俺たちは今まで通り南に進むことになった。

 ベンツによると、南以外の土地には森があまり広がっていないらしい。

 だが南には変わらず森があったという事なので、そのまま真っすぐに進むことにした。


 特に行く当てもないし、そちらの方に森があるというのであれば、そのまま進んでいくのがいいだろう。

 あまり見晴らしのいい場所には出たくないからな。

 見つかったりでもしたら洒落にならん。


『ガンマ。ちょっとやり過ぎだよ』

『いや、だから俺も分かんなかったんだって……』

『ガンマは手加減覚えないとな』

『お、おう……』


 日常生活に支障が出なければいいんだけどな。

 出るようであれば本当に頑張って力加減を覚えてもらわないと。


 しかし……俺は他に何の能力が向上しているのだろうか。

 今分かっているのは風刃だけだ。

 他の能力もしっかりとパワーアップしてくれていたらいいのだが……。


 とは言え、この辺りでは試すことはできないな。

 ただでさえガンマがあれだけの力を発揮したのだ。

 俺の能力、というか技も何かしら変わっていてもおかしくはない。

 風魔法だけは使わないようにしよう。

 お父さんにもそう言われてたしな……。


 だけど、ここで異変を発見出来ておいてよかったかもしれないな。

 何かと戦う時とか、緊急事態の時に自分の力が分からないというのは良くない。

 まぁ、そう言ったことがないのが一番いいんだけどね。


 そう言えば、小さい子供たちにも何処かで魔法を覚えさせておかないといけないなぁ。

 こういう状況じゃなかったら、ペチペチを見て和んでたんだろうけど……。

 何処かで狩りを見せて教えておいた方がよさそうだな。

 俺たちも一か月くらいで教え込まれたんだ。

 多分大丈夫だろう。


『あ。おーい。こっから山越えだ。大丈夫か?』


 先頭のガンマが後ろを振り向き、全員の状況を確認する。

 俺も見て回るが、特に変わった様子などは無い。

 恐らく大丈夫だろう。


『大丈夫だ。何かあったら教えてくれ』

『おう』


 そう言い、ガンマは出来るだけ緩やかな道を歩いていく。

 整備されていない山のなのでなかなかそう言った道はないのだが、斜めに向かって歩いていくことによって歩きやすくなっていた。

 随分と子供たちを気遣ってくれている様だ。


 とりあえず、俺も子供たちが何かの拍子に落下してしまわないように、闇の糸を子供たちの体に巻き付けておく。

 こうしておけば、足を滑らせて崖から落ちるという事もなくなるだろう。

 勿論俺が落ちた時は、全部の糸を斬って一人で落ちます。

 俺なら大丈夫だろう。

 落ちた経験ないけど!


 流石の子供たちも、もう遊ぶことはやめて道を歩くことに集中している。

 子供たちの体はまだ軽い方なので、ガンマが踏んで作った足跡を辿れば容易に歩くことが出来るだろう。

 俺の後ろにいる子供たちはもっと楽だろうけどな。


 山に住んでいたというのもあったので、越えること自体は簡単だった。

 それからは山を下りていく。

 しかし、山は一つだけではない。

 そこから後二つ程は山を越えなければ、ベンツの言っていた場所までは辿り着けないだろう。


 一体何処まで行ってきたんだよ。

 もう少し情報を共有してくれよ……。

 まぁいいけど。


 そのまま山を下りて、次の山を登る。

 二つ目の山を登り切った時……。

 雨が降ってきた。


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