4.5.休憩


 ようやく湿地帯を抜けた俺たちは、抜けたところで休憩をしていた。

 周囲の安全確認は既に終わった後なので、泥だらけになった子供たちを水魔法で洗って行く。

 勿論俺やガンマもだ。


 頭に乗っけていた子供たちも一度地面に下ろし、土魔法で桶を作って水を与える。

 遊びまわっていた子供たちにも同じように水を与えるのだが、相当喉が渇いていたのだろう。

 すぐに空っぽになってしまった。


 周囲を確認して分かったのだが、どうやらここは盆地のようだ。

 ここから次の土地に行くには、山を越えなければならない。

 しかし、ここには木がほとんどない様だ

 草原、というのが正しいのだろうか?

 ここまで木のない場所に来たのは初めてなので、少し新鮮な感じがする。


 少し水の匂いが強いので、あまり遠くまでは嗅ぎ分けることが出来ないが、暫くこの平原は続いているという事は分かった。

 それに加えて、ここには本当に動物がいないらしい。


 一体何処に動物がいるのだろうか……。

 このままだと本当に不味いなぁ。

 ま、まだ移動して一日目。

 これからに期待しておくとしよう……。


 そんな心配をよそに、子供たちはまだ遊んでいる。

 離れても匂いを辿れば見つかるので、別に問題はないのだが、少し危機感を持ってほしいものだ。

 子供に危機感を持ってくれという俺の方が間違っているのかもしれないけどな。


 小さい子供は寝るのが仕事。

 水を飲んだらまた眠ってしまったようだ。

 これくらいの時が一番可愛いよな。うん。


『兄ちゃん。獲物とかいる?』

『いや、駄目だな。この辺りには一切いないみたいだ』

『そっか。僕ちょっと前の方見てきてもいい? 山を越えた先を見ておきたい』

『ああ。頼めるか』

『うん。じゃあ行ってくる』


 ベンツはそう言って、一瞬でどこかに行ってしまった。


 ……待って?

 めっちゃくちゃ速かったんだけど。

 え、本当に影すら見えなかったぞ!?

 あんな速かったかあいつ!


『兄さん? 今ベンツめっちゃ速くなかった?』

『あ、ガンマもそう思うか?』

『ああ……。マジで見えなかった……』


 どうやら気のせいでは無いらしい。

 いつの間にあんなに速くなったんだろうか……?

 前に見た時は目で何とか追うことが出来るくらいだったのになぁ。


『なぁ、兄さん』

『なんだ?』

『いや……もしかしてなんだけど……。兄さんがリーダーになってから、俺たちの身体能力が上がってる……気がするんだよ』

『なんですって?』


 確かに俺の身体能力は上がっている。

 体がここまで大きくなったのだ。

 それに伴い、技の精度と強さも跳ね上がった。

 それは風刃が証明してくれている。


 しかし、ガンマやベンツについてはよく分からない。

 特に体に変化があるという訳でもないのだ。 

 だがそれは見た目の話だ。

 自分の事は本人が一番分かっているはずである。

 目では見えない何かが、変わっているのかもしれない。


『ガンマは何か変わったことあったのか?』

『俺は……力の加減が分からなくなってた』

『そうなのか?』

『ああ。昨日兄さんの頭を地面に押し付けたろ? あれ、押し付けるつもりは無くて、ただ手を頭に置こうと思ってただけなんだ』


 嘘つけこの野郎。

 めっちゃいい勢いで押し込まれたぞ。


 でも加減ができないってことは、そう言う事なのか?

 んー。

 これは一回しっかりと検証しておいた方がよさそうだな。


『良し、ガンマ。地面を殴って見れくれ』

『いいのか? 本気で?』

『本気でやってもらわないと分からないからな。前はどれくらいの力があったっけ?』

『前は……本気で地面を叩いたら地面が結構凹んだぞ』


 ……いや、分からん。

 それどれくらいですか……って言っても、狼に具体的な数値とかは分からないだろうしな。

 どうしても抽象的な表現になってしまうのは仕方がない。


 まぁ実際にやってもらったら分かる事だ。

 ガンマは自分が本気を出した時の事を覚えている。

 であれば、変わっているかどうかはガンマに見てもらえばわかるだろう。


『よし、皆。少し離れるぞー』


 そう言って、俺は子供を頭に乗せ、他の子供には俺の後ろをついて来させる。

 大体十メートルくらい離れたところでガンマの方を向く。

 子供たちに今からやることを説明してから、実行してもらう。


『いいぞー!』

『分かった。身体能力強化……!』


 ガンマから赤い稲妻……が出現せずに、赤い炎のオーラの様な物が出てきた。

 明らかに異質。

 そして、空気がピリピリとしているという事がここからでもわかった。


 待って、ごめん見たことないそれ。

 それやばくない?

 なんか思ってたのと全く別の物が出てきたんだけど。

 え、これ距離足りる?

 ここって本当に安全圏ですか?

 絶対違うよねぇ!?


『ちょ!! ちょっとまてガン──』

『せーのっ』

『のわあああああ!!』


 俺は急いで闇の糸を使って子供たちを全員縛り上げる。

 走りながら背中に乗せ、出来るだけ遠くに行って距離を取った。

 その間僅か一秒。

 絶対に間に合わない。

 なにせ、今まさにガンマが本気で地面に手を打った。


 ドン。


 ガンマの手から半径五メートル程のクレーターができる。

 以前はここまでの威力は無かったのだろう。

 それを見てガンマは驚いている様子だったが、それだけでは終わらなかった。


 ドドドド……。


 地面が揺れる。

 何が起こったのかわからなかったガンマは周囲をキョロキョロと見渡していた。

 そこで俺が既にいないという事に気が付く。


『あれ!? 兄さん何処に行った!?』


 バゴン!


『え!?』


 今度は半径二十メートル程のクレーターが追撃の如く出現する。

 それに伴い、ガンマの体がクレーターの中心に落下していく。

 それからは地面がどんどん崩れていった。

 ひび割れが発生して、地面が隆起したり地割れが起る。

 地面の中にあったであろう岩は飛び出してきて、地割れによる地震が発生していた。


 ガンマは焦りながらもそれを回避して安全な場所へと跳躍した。

 だが、その跳躍もあり得ない程の力で地面を蹴ったがために、また地割れが発生してその場は見るも無残な姿へと変えていく。


 ガンマの明らかに異常な力により、大災害へと発展してしまった。

 俺は山の麓を全力で走り、何とか安全な場所まで来ることが出来ていた。

 遠くに見える被災地は爆弾でも投下されたのではないだろうかという程に荒れまくっている。


『おいおいまじかよ……』

『……オール兄ちゃん。俺もあんな風に──』

『ならなくていいぞシャロ』


 俺は全力でシャロを止めた。

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