4.2.忙しくなりそうだ


 何やら煩い。

 だがまだ寝足りないという事で、一度起きるが二度寝を試みる。

 しかし、何かが頭や体を突きまわっているようで寝ることが出来そうになかった。

 一体何だと思い、目を開けてそれを確認してみると……。


『リーダー!』

『オールゥ!』

『…………!?』


 そこには生後一ヵ月の子供たちがいた。

 だが、喋っている。

 今までは会話での意思疎通はできなかったはずなのだが、今はこうして子供たちが喋って俺の名前を呼んでいる。

 驚いて立ち上がると、背中に乗っていた子供がコロンコロンと転がっていた。


 よくもまぁこんなデカい体によじ登ったもんだ。

 ……頭から登ったんだろうな……。

 そこしか登れるところないもん。


『おはよー!』

『おはー!』

『あそぼー!』


 小さい子供たちが俺の周りを駆けまわる。

 体がデカいので一周するだけでも結構走らなければならないのだが、それでも子供たちは一生懸命走って俺の周りをまわっていた。

 かわいいなぁと思いながら、俺は手で子供を押して転ばせる。

 そんな遊びをしていると、子供たちもムキになり始めたようで、何としても倒れまいと抵抗していた。

 だが体格差には勝てない。

 コロンコロンと何度も転ばされていく。


『フフ……』


 その光景を見て少しだけ和む。

 何の心配もせずに、こういった遊びができる場所を探さないといけないなと、改めて思う。

 子供たちの為に、縄張りは必要だ。


 しかし、どうして喋れるようになったのだろうか?

 認められるみたいなことが条件だったはずだが……。


『……あ』


 そう言えば、リーダーはどんな奴でも会話での意思疎通が出来るんだったか……。

 ずいぶん昔に聞いていた事だったから忘れていたな。

 ま、少しはこれで便利になるか。

 会話できない会話も、面白かったけどな。


 そう言えば、他の皆はどこに行ってしまったのだろうか。

 匂いはまだ残っているのでそう遠くに入っていないと思うが、少し心配だ。

 ベンツとガンマもそうだが、今はシャロたちもいない。

 何処かに連れて行っているのだろうか?


『お前たち。他の皆を知らないか?』

『あっち!』

『こっち!』

『あっちだって!』

『ど、どっちだよ……』


 子供たちは思い思いの方向に向いて吠える。

 余り当てにはならなさそうだ。

 とりあえず目をつぶって、匂いを辿る。

 何処に居るかくらいは把握しておこう。


 確認してみると、どうやらシャロやラインは集まって魔法の練習をしているようだ。

 熱心でいいとは思うのだが、練習はまだ先に行ってからして欲しい。

 追手が来る可能性もあるからな……。

 後で注意しておこう。


 ベンツとガンマは匂いではわからなかった。

 どうやら相当遠くに行っているらしい。

 風向きの影響もあるかもしれないが、俺が捉えられる範囲内にはいない様だ。

 狩りにでも行っているのだろうか?


 まぁそれはともかく、とりあえずシャロたちに注意しておこう。

 俺はワープゲートを作り出して、顔だけ覗かせる。


『おい』

『ぎゃああああ!!』

『わあああああ!!』


 急に顔だけ出てきたらそりゃびっくりするわな。

 ごめんて。


『俺だよ』

『お、オール兄ちゃんか……』

『魔法の練習をするのは大いに結構だが、今はやめておけ。追手が来るかもしれないからな。音を立てるのはまだよくない』

『そ、そっかぁ……。分かった。みんなに伝えてくる』

『ああ。それともう帰ってこい。ベンツとガンマが帰ってきたら出発するからな』

『分かった』


 用件だけ伝えて、ワープゲートを閉じる。

 これで暫くしたら全員帰ってくるだろう。

 と、そこで子供たちが目に入る。


 何をしようとしているのかは分からないが、どうやら隊列を組んでいるようだ。

 一匹一匹では太刀打ちできないとでも思ったのだろうか?


『わああ!』

『やああ!』

『てやー!』


 六匹の子供が一斉に走ってくる。

 俺は一番先頭にいた子供を転ばせるのだが、すると他の子供が左右に分かれて走って来た。


『おお』


 これでは片方しか転ばせることが出来ない。

 考えたなとは思ったが、俺は子供だからと言って手加減するつもりはない。

 近づいてくるよりも先に、風魔法で風を起こして子供たちを全員転倒させた。


『わあああ!』

『のあああ!』


 コロンコロンと全員が転がっていき、最後には地面に伏して動かなくなる。

 どうやら疲れてしまったのだろう。

 もう突撃するほどの余力は残っていなさそうだ。


 まだこの子たちは魔法を覚えてないからな。

 こういった事には対処できないだろう。

 大人げないと言ってしまえばそれまでだが……。


『ずるーい!』

『そうだそうだー!』

『はっはっは! 勝てばよかろうなのだ!』


 俺は笑いながら、土魔法で水桶の様な物を作ってその中に水を入れていく。

 子供たちが飲みやすいように平べったく作っておいた。

 それを見た子供たちは、すぐに水を飲みに来る。


 あれだけ暴れたからな。

 喉が渇いていてもおかしくはないだろう。


 そう言えばこの子たちの名前を俺は知らないな……。

 後で聞いておくとするか。


『お?』


 ベンツとガンマの匂いがした。

 どうやら獲物を狩りに行っていたらしい。

 血の匂いが一緒になってついてきている。


 それと同時に、シャロたちも戻って来た。

 となれば、ベンツとガンマが獲ってきた獲物を食べてから出立した方が良いだろう。


『……これから忙しくなりそうだな』


 そう思いながら、俺たちは二匹が帰ってくるのを待ったのだった。


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