4.3.出立


 ベンツとガンマが狩ってきた獲物は、それなりに大きかったのだが……。

 それは子供たちの分しかない程の物だった。


 無論俺たちは食べない。

 子供たちに全部食べさせてあげて、出発の準備を整える。

 とは言ってもそんなに準備する物は無い。

 精々子供たちの様子をチェックする程度だ。


 ベンツとガンマは、とりあえず南の方向に狩りに行ったらしく、先の様子を少し見てきたのだという。

 だが、あまり結果の良い物ではなかった。


『所々土が崩れてる酷い地形だ……。俺たちは大丈夫だけど、子供たちにはきついだろうな。後、草木はあるけど水場がない。匂いもしないから近くに水場は無いだろうな』

『狩ってきたこいつも、はぐれた奴っぽかったから……これからも狩れるとは限らないよ』


 地盤が緩い地形なのだろう。

 そんな所に永住は流石にできないな……。

 しかし、縄張りから出たすぐ先にそんな場所があったとはなぁ……。

 随分移動してきたし、すぐ近くとまではいかないだろうけど。


 だけどそうだな。

 そう言う地形だってのが分かったのであれば、子供たちを歩かせるのはもう少し後にした方がよさそうだ。

 また俺とベンツの背中に乗っけて移動することにしよう。

 小さい子供たちは遊び盛りだから、背中の上でじゃれ合うかもしれないけど、俺の上であれば問題ないだろ。

 シャロも一緒に乗せる予定だし、いい感じに世話をしてくれると信じよう。


 ガンマには前回と同じく殿を任せる。

 ベンツは数匹の子供の世話。

 俺は一ヵ月の子供の世話をして、常に匂いで周囲の状況を確認する。

 これで移動している時に、何かに襲われてもすぐに対処できるだろう。


『じゃ、これで行くか』

『分かった』

『おう』


 俺は子供たちを呼び、背中に乗せていく。

 闇魔法の闇の糸でしっかりと掴んでおくので、落ちるという事は無いだろう。

 ベンツに乗せる子供たちにも同じことをしようとしたのだが……今回は拒否されてしまった。


『俺たちも走る!』

『手伝うよ!』


 シャロ、デルタ、ニア、ライン、レインが同じようなことを言って来た。

 まだ小さいというのに、そう言う事を言ってくれるというのはとても嬉しい物だ。

 将来有望ですな。


 ま、やる気もあるみたいだし、別に問題ないだろう。

 ただ……。


『結構大変な道だぞ? 大丈夫か?』


 これからは普通の道ではないのだ。

 山を何個も超えるかもしれないし、もしかしたら川を渡らないといけないかもしれない。

 どうなるか予想ができない旅である為、どんな時であっても危険を伴うはずだ。


 生後五か月の子供たちに、これが耐えられるだろうか。

 確かに体も大きくなったし、自分の足で遠くまで行ける体力もあるだろう。

 とは言えまだ何も学んでいない子供だ。

 魔法だってつい最近使えるようになったばかり。

 自分のみを自分で守れるかと言われると、すぐに頷くことはできないだろう。

 だが、子供たちの意思は固かった。


『大丈夫!』

『うん、兄ちゃんたちにばかり頼っていられない状況だもん』

『そ、そうだよ。僕たちが乗ってると……ベンツ兄ちゃんの力も発揮できないから……』


 最後のデルタの言葉には、なるほど、よく考えているなと感心した。

 確かに、子供たちがベンツに乗っていると、ベンツの強みである足の速さが一切発揮できなくなる。

 これは俺も懸念していた事なのだが、どうやら少し子供たちに過保護になっていただけの様だ。


 そうだよな、俺たち三匹でできる事なんて物凄く少ないんだ。

 じゃ、頼むことにしよう。


『……分かった。では、お前たちにもこの子たちの護衛を頼もう』

『兄さん、リーダーなんだから、頼むんじゃなくて指示するんだよ』


 ええー……。

 子供たちに指示するのぉ?

 俺いやだよそんなことするのー……。


 って思って子供たちを見てみた。

 するとなぜか知らないけど、めちゃくちゃ目をキラキラさせながら俺の指示を待っているように感じる。


 え……もしかして君たち、お父さんが指示を飛ばしている姿を見て憧れてた?

 それともリーダーに指示を受けたいの?

 ……いやまぁ、別にそれはどっちでもいいけど……。

 そんなにいい物じゃないと思うけどなぁ。

 ま、いいか。


『じゃ、じゃあ……。シャロ、デルタ、ニア、ライン、レイン。お前たちに子供たちの護衛を任せる。いいな?』

『『『『『はい!!』』』』』

『元気良い返事だな……』


 となると……少し陣形を変えますか。

 こうなるとガンマが先頭、ベンツが殿、そして子供たちが真ん中で、俺もその真ん中に入る感じで行くか。

 ベンツなら速攻で対処してくれそうだしな。

 後ろでも問題ないだろう。


『俺先頭かよ!』

『足が遅いからな』

『ぐぅ!?』


 俺がそう言うと、ガンマが一気に耳を垂らしてしょげた。


 あ……気にしてたのねガンマ……。

 ごめん。


『じゃ、行くか』


 そう言いながら、俺は闇の糸で子供たちを背中に乗っけていく。

 しっかりと固定して、俺はゆっくりと立ち上がる。


 後方を確認したガンマが一番初めに歩きだす。

 大きく屈強な体なので、その後ろをついて行くのはなんとなく安心感があった。

 勿論俺より小さいのだが……。


 最後にベンツが後方を確認してから歩きだす。

 ようやく出立だ。

 これからどうなるか分からないが、出来る限り早く安全な場所を見つけたい。


 見つけられるといいな。

 そう思いながら、俺たちはまた、歩きだした。

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