3.39.複合魔法練習
とりあえず全員の適正能力魔法は見終わった。
これでどの子がどの程度できるのか、という事までは把握することが出来ただろう。
本当は一つの魔法を、それなりの熟練度になるまで鍛えた方が良いと思うのだが、そうしてしまうと複合魔法が覚えにくくなる。
子供の頃の覚えの良さはとんでもなく速い。
今からしておけば、将来は無理なく複合魔法を使えるようになってもおかしくはないだろう。
『何で私はだめなのー!』
『いや、だからレインは水魔法だけしか適性が……』
『やだやだやだー!』
五匹いる子供たちの中で、唯一適正魔法が一つだけしかないレインが転がりまわって抗議していた。
複合魔法については大方子供たちに話してある。
二つの魔法を組み合わせて放つ合体魔法だ。
だが、適正魔法が一つしかないレインは、複合魔法が使えないと他の子供たちは思っているらしい。
予想はしてた。
うん、予想はしていましたとも。
だが安心して欲しいレインよ。
複合魔法は、適正魔法一つでも可能なのだ!
『大丈夫だぞレイン。お前も教える』
『! 本当!?』
『ええ!? オールお兄ちゃん、そんなのできないでしょ?』
これが出来るんですよ。
確かに、あの説明だと適正魔法が二つ無いと、複合魔法は使えないと捉えられてもおかしくはない。
だが、俺のお父さんは風魔法の適性があり、無意識に風魔法を二つ複合して魔法を放っている。
であれば、水魔法だけしか使えないレインも、複合魔法が使えるはずだ。
何せあれだけの数の水弾作り出せるんですからね!
出来ないはずはない!
だが、これは一匹ずつ教えていかなければならない。
俺も水魔法を二つ合わせた複合魔法は使ったことがないので、後に持ち越しだ。
まずは適正魔法が二つある子供たちから、複合魔法を教えていこうと思う。
『じゃあさっきの順番で行くぞ。まずはシャロ。とりあえず炎魔法その辺に撃ち込んでみな』
『全力で?』
『はじめっから調整なんてできないさ。本気で行け! やばくなったら俺が何とかする!』
『わかった!』
まだ炎魔法は使いこなせていない様だが、やる気がある分ガンマより良いと思う。
俺は……俺はシャロに絶対炎魔法を使えるようになってもらって、料理をするのだ!
肉を焼くのだ──。
ゴボゥ!!
『えっ?』
今の一瞬で地面に炎の絨毯が広がった。
それも広範囲に。
広い空間でやっていたからよかったが、それでも燃える物があるところの一歩手前まで炎が進軍していた。
『のぉおおおお!!?』
『ええ!? 何々!? 俺なんか悪いことしちゃった!?』
『れ、レイン! ちょっと手伝って! 水魔法で火を消してくれ!』
『わわわ!? わかった!』
レインにそう指示して、俺も水魔法で周囲一帯の炎を消していく。
地面を燃やすなどとんでもない火力だ。
今度からシャロに炎魔法を使わせるときは、こうして水で周囲を濡らしておいた方が良いかもしれない。
消火活動が何とか終わったが、地面は黒く燻っていた。
シャロに怪我はなかったようだが、これはまず炎魔法の調整が出来なければ、複合魔法は使えないだろう。
『……シャロ、すまんがお前は炎魔法を使えるようになるまで複合魔法は教えれそうにない』
『ええーーーー!!』
とか言っても、よく考えてみれば炎魔法と身体能力強化の魔法ってどうやって使えばいいんだろうか。
シャロは身体能力強化の魔法だけであれば、それなりに使えるようだったので、そっちをやりながら、炎魔法を練習させてもいいかもな。
一長一短にはならないように、交互に練習させていくか。
という事で、シャロは一時待機だ。
すまんな……。
俺もこういうの教えるの初めてなんだ。
至らないところがあるのは許して欲しい。
『次はデルタだけど……。闇魔法って使えるか?』
『つ、使える!』
『どんな奴?』
『こんな奴!』
そう言って、デルタは闇魔法を使用した。
一体何をするのかと思って待っていたのだが、特に何も起こらない。
失敗したのかなと思って、声をかけようとした時、視界の隅に何かが写った。
そちらの方を見てみれば、枝に黒い四肢が生えて歩いてきていた。
黒い四肢は闇魔法で作られた物のようで、歩きやすいように形を変えながら変えている。
まだ操り慣れていないのか、その歩行速度は非常に遅く、ぎこちない。
だがこんなこともできるのかと、俺は少し勉強になった。
『おお、面白いな』
『い、今はこれしか使えない……』
『いや、十分だ。見てろよ』
『?』
土魔法と闇魔法の複合魔法。
まず土で土人形を作り出す。
形は……俺たちに馴染みのある狼だ。
一匹を綺麗に象っていき、その中に闇魔法の魔力を注ぎ込んでいく。
先程デルタがやったのはこういうことだろう。
動かない人形に魂の代わりとして、闇魔法を入れこむ。
すると、目の部分から黒い靄が零れ落ち、口からも少し零れだした。
土人形の狼はゆっくりと動き出し、その場にちょこんと座る。
『こんなもんかな……』
『す、すごーい!』
とは言っても、土狼に近い物だ。
だが土狼の能力は持っておらず、ただ走り回ることのできる物。
完全に偵察用の狼になってしまったな。
デルタがワープゲートを使えるようになれば、あの土魔法を使っていい戦闘ができそうだし、これは将来に期待です。
『じゃあデルタは、まず土で動物を作る。そしてそいつに闇魔法を入れて動けるようにするってのを練習しようか』
『うん!』
デルタはこれで良いだろう。
まだ闇魔法のバリエーションがないようなので、この魔法が出来るようになったら、他の魔法の練度を上げてもらえればいい。
土魔法は得意そうだったしな。
俺が教えるのは闇魔法だけでいいだろう。
次に教えるんはニアなのだが……。
これには少し困っている。
『すまんなニア。俺は光魔法と闇魔法の複合魔法を持っていないんだ』
『えー……』
全く逆の性質の魔法を合わせて使うなんて、俺は思いつかないのだ。
だが、諦めていた訳ではない。
また何かアイデアが出てくるかもしれないし、誰かが使うかもわからないのだから、そう急いで作る必要はないだろう。
ニアにも、一個一個の練度を上げてもらうことにした。
次は雷と水魔法を扱えるラインだ。
これはなんとなく想像していたので、簡単にできるだろう。
『よっしゃライン。見とけよ』
『あいっ!』
俺はまず水を作り出し、そしてからそれに雷魔法を付与させる。
すると、上空で水が固まり、それが雷を通して俺に繋がる。
まるで風船を持っているかのようだ。
雷で水の弾を操ってその辺につけてみる。
すると触れた部分から電撃が弾けた。
だが水に触れたので、黒くはならなかったようだ。
『まぁこんなところか』
『おおー!』
『水魔法で水を作るのは多分今のラインでもできる。作った水に、雷を繋げれば完成だ』
『了解ッ!』
ラインは早速俺の真似をする。
まず水を作り出したのだが、思ったより小さな水だった。
しかしラインはそのことを気にしている様子はなく、次に雷魔法を使ってそれに繋げようとする。
雷は一瞬で水に触れたが、すぐに弾けてなくなってしまった。
そのことに首を傾げるラインだったが、気を取り直してまた水を作り出す。
だが結果は同じ。
どうしても雷が触れた瞬間に弾けてしまう。
俺の時は弾けなかったのだが、何か理由があるのだろうか?
『水の大きさが足りないのかもね』
『大きさか~』
隣で見ていたベンツが、そう言った。
単純ではあるが、俺がやった時とラインがやった時で違うのはそれだけだ。
小さな水では、雷魔法の電圧に耐えきれないのかもしれない。
『でもそれは練習って所か?』
『そうなるね~』
やはりそうなるか。
じゃあ後はラインの頑張り次第だな。
よし、次に行きますか。
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