3.38.成果報告


 子供たちがようやく泣き止んだので、俺とベンツで狩りをしてもう一度戻ってきた。

 それを子供たちと一緒に食べてから、また特訓開始。

 先生が俺になった事により、安心感を覚えたのか、子供たちはちょこんと座って俺の指示を待っている。


 子供たち……。

 もしかしてだけど、俺の方がよかったっていうことで会話が出来るようになったんじゃないよね?

 それはそれで嬉しいけどさ、なんか……ねぇ?


 さて、まずはどれだけできるようになったのかという事を確認したい。

 泣かせるまでしばかれたのだから、それなりにできるようにはなっていると思うのだが……。


『ニアは俺が何処までできるか知ってるので、今はしなくていいよ』

『あい!』

『じゃあまずはシャロ!』

『おう!』


 シャロは前に出てきて、俺に魔法を見せてくれる。

 まず見せてくれたのは身体能力強化の魔法だ。

 これで筋力を増やし、地面を殴る。


 すると、地面は一瞬遅れて少し凹んだ。

 これはガンマが昔からやっている稽古方法だ。

 やはり教えていないわけではなかったらしい。


 まぁ炎魔法を使わせたことは許さんがな!


『どう?』

『おお! いいんじゃないか? 俺はそこまでできないからな~』

『本当か! やった!』


 できないことは無いけど、俺がシャロくらいの時はこんな芸当出来なかったからな。

 俺ができたのは少し手加減のできない魔法くらいだ。

 それで結構呆れられた記憶がある。


『よーし次は……』

『炎魔法はだめだ。後で俺が教えよう』

『こ、今度こそ大丈夫!』

『火傷する前にやめとけ。俺だって調整が出来ない魔法なんだ。それに、一番被害の出る危ない魔法でもある。今度は自分だけじゃすまなくなるぞ』

『うっ……。はーい』


 炎魔法は他の魔法と違って、持続効果がある。

 自分で消そうと思って消せるのは、自分が出した炎だけ。

 何処かに着火してしまった炎は自分ではもう操れなくなってしまうのだ。


 一度痛い目にあってもやろうとする心意気は認めるが、その魔法の危険性がわかるまでは、一匹だけで使わせるわけにはいかない。

 森など炎で焼けつくされてしまうし、それによって他の仲間に被害が出ないとも限らないのだ。


 俺の話を聞いて、シャロはおとなしく下がる。

 聞き分けが良くていい子だ。


『次は……そうだな。デルタ。いけそうか?』

『だ、大丈夫……っ!』


 デルタは前に出て、手を地面に叩きつける。

 ぺすっというかわいい音がしたと思ったら、俺の隣に鋭い剣山のような土の棘が出現した。


『ぬぉお!!?』

『わ、わあああ! ごめんなさあい!』


 いや全く気が付かなかったぞ今の!

 っていうか……デルタさっき闇魔法少し混じってなかったか……?

 無意識に混ぜてる可能性とか結構あるからなぁ……。


 ていうかすげぇな。

 これ真似しよう。

 名前何にしようかな~~。


『すごいなデルター! 今の反応できなかったぞ!』

『え、本当!? やったー!』


 いやマジで。

 集中してれば土に流し込んだ魔力とかでわかるだろうけど、あそこまで一瞬で土を変形させることは難しい。

 大したものだ。

 流石、ロード爺ちゃんが担当した子だな。


 だが、残念ながら闇魔法はまだ使えないようだ。

 模擬戦ばかりしていたようだし、急ごしらえでできるようになったのがこれだけだったらしい。

 だがそれだけでも上出来だと思う。


『じゃあ後でデルタには闇魔法を教えよう』

『うん!』

『よし、じゃあ次は……ライン。できそうか?』

『やる!』


 ベンツが教えていた子だ。

 雷魔法しか教えてもらっていないはずだが、一体何を教えていたのだろうか。

 まぁそれは見ていればわかる話である。


 ラインは低姿勢になって構え、雷魔法を発動させた。

 ゆっくりと黄色い稲妻が全身を走り回っていく当たり、おそらく纏雷を教えていたのだろう。

 バチバチという音を立てながら、雷がラインの体を纏っていく。


『やった!』


 全身に雷が行き渡り、黄色い稲妻が体を走る。

 これが纏雷が発動している時の状態だ。


 纏雷を体に纏えたことに喜ぶラインだが、その時に少し気が緩んでしまった。

 雷魔法は自分にダメージの行くことがある危ない魔法である。

 どんな時も、気を緩ませてはいけない。


『ぐっ!』


 足元に走っていた稲妻が急に光を帯びる。

 同時にラインの顔が歪んだ。

 どうやら電撃を喰らってしまったらしい。

 すぐに纏雷は解除され、ラインは手を舐めて痛みを和らげる。


『こんな調子なのか?』

『いや、今回で初めて成功したよ』

『おおー! ライン! やればできるじゃないか! でも、気を緩めちゃダメだぞ』

『分かった!』


 水魔法はまだ教えてないみたいだから、これは俺が教えるとしよう。

 皆と一緒に魔法の種類増やすかな~。


『次は~……レインだね。いける?』

『大、丈夫!』


 いやめっちゃ固まってますやん。

 大丈夫?

 緊張してるかわかんないけど、とりあえず肩の力抜こうねー?


 レインは硬いまま前に歩いてくる。

 そして水魔法を使用して、水を空中に展開した。


『『え?』』


 その量に、俺とベンツは声を合わせて驚いた。

 見間違いか何かだろうか?

 空中に幾千幾万の水の弾が見える。

 それは意志を持っているかのように形を変え、鋭い棘の様な物になった。


『えーい!』

『ええええ!? 兄ちゃん!』

『ちょっと待てレイーン!! つ、土魔法・城壁!!』


 明らかに異常な数。

 そしてそれが全て、何故か俺たちの方向に飛んできている。

 俺は咄嗟に土魔法を使用して、城壁のような分厚い壁を作成した。


 作成した城壁に、レインが放った水魔法が降りかかる。

 余り威力はないようだが、それでもこの数の水を作り出したのには驚いた。

 流石、適正魔法が水だけのことはある。


 何とかレインの攻撃を凌ぎ切り、音が聞こえなくなった後で城壁を解除する。

 子供たちを確認してみるが、どうやら怪我などはしていない様だ。


『は、はぁーよかったぁ……』

『うわああ! ご、ごめんなさーい!』

『はは……。すごいなレイン。びっくりしたぞ』


 いや……本当に。

 子供たちって……優秀ですな~っはっはっは。

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