3.40.水の大魔法


 最後は水魔法一つしか適性のないレインである。

 水魔法はそれなりん簡単な魔法なので、使いこなすのはそう難しくないだろう。

 何て言ったって安全。

 攻撃には威力があるし、雷魔法や炎魔法と違って自分にダメージは入らない。


 やっと安心して教えれそうな魔法が回ってきた。

 とりあえず、レインにはもう一度普通の水魔法を放ってもらおう。


『レイン。一個だけ水を作り出して、それをあの岩に向かって撃ち込んでみてくれるかい?』

『わかった』


 レインは俺が言った通り、一つの水の塊を出現させる。

 その水の玉は、形を変えて銃弾のような形になって岩に向かって飛んでいく。

 パンッという音を出し、岩が少し欠けた。


 結構な距離があったのだが、それでも岩を欠けさせるほどの威力がある。

 武器としては既に申し分ないだろう。

 しかしこれは水魔法だけを使った場合の威力。

 今度は水魔法と水魔法を複合させてもらう。


 これは意識すれば簡単にできるはずだ。

 元々狼たちには、一つの魔法をもう一度重ね掛けして魔法を放つという発想がない。

 出来たとしても、それは無意識。

 ちゃんと意識してやれば、意外と簡単にできるのだ。


 だがまずは見本を見せなければ。


『じゃ、今度は俺のを見ていてくれな』


 俺は普通の水弾を出現させて、先程レインが試し撃ちした岩に向けて放つ。

 パコンッという音を立てて、岩が少し削れた。

 普通であれば俺はこの程度の威力だ。


 次に水魔法を二つ重ね掛けして、水弾を岩に向けて撃った。

 すると、今度は岩の頭がバゴンッという音を立てて綺麗に吹き飛ぶ。

 同じ魔法なのだが、重ね掛けするだけでこれ程にも威力が変わるのだ。


『最初に撃ったのがただの水魔法で作った水弾。次に撃ったのが水魔法を二つ重ね掛けした水弾。つまり複合魔法。魔力消費は勿論複合魔法の方が多いから、使いどころは分けていくんだぞ。ほれ、やってみ?』

『わかった!』


 フンスフンスと鼻を鳴らせて、意気込みあるいい返事をする。

 前方にある岩を見据えて、それ目がけて複合魔法の水弾を放つ。


 ……と、思ったのだが、今しがたレインが作り出した水弾は、その場から動こうとしない。

 何故まだ撃たないのだろうかと、首を傾げたのだが、それはレインも同じようで、同じく首を傾げている。

 何度か撃とうと力を籠めるが、何も起きない様だ。

 一体どうしてしまったのだろうか?


『オールお兄ちゃん。動かないー』

『動かない?』


 俺はその水弾をよく見てみる。

 すると、確かに二つの水魔法の魔力が絡まっているのがわかった。

 どうやら、複合魔法は成功しているらしい。


 しかし、発動しないというのはどういうことなのだろうか。

 確かに魔法の練習で暴発することはあるが、動かなくなるなんてことは今までに一度もない。

 何か俺たちが知らない理由で、動かなくなってしまっているのか。

 とはいえ確かめす術がない。


 どうしようかと考えていると、いきなりその水弾が回転し始めた。

 回転と言っても、空中に浮いている水の弾の中で、水流が発生しているだけなのだが、その勢いが

とても凄まじい。

 これは暴発するかもしれない。

 そう思った俺は、ベンツに声をかけてレインを一瞬で回収させる。


『え!? なに!?』

『あれ暴発するかも』

『ええっ!?』


 とりあえず土魔法で周囲の安全を確保しておく。

 暴発というのは、大体魔力が風圧となって破裂するような現象だ。

 なので、こうして土の壁に隠れていれば、被害はない。


 暫くすると、水弾の水流が止まった。

 さぁ来るぞ、と思って身構えるのだが、どうにも暴発はしない。


 なんでだ?

 そう思って壁の端っこから顔を覗かせて様子を窺ってみる。

 その瞬間、レインが狙っていたであろう大岩に向かって、水のレーザーが射出された。


『嘘だろぉ!?』


 水のレーザーは地面をメスを入れるが如く切り裂きながら、大岩に向かって行った。

 スパァン!

 という大きな音と共に、大岩は真っ二つになってしまう。

 その切り口は、鏡のように綺麗だった。


 水弾は水を全て使い切って消失してしまったようだ。

 その水も、高すぎる威力で何処かに飛んでいってしまっている。


 ていうか……これウォーターカッターじゃねぇか!!

 おうおうまさかこんなところでお目にかかれるとは思ってなかったぜ!

 いやびっくりしたなぁ!

 大魔法みたいな威力あるなおい!!

 明らかに普通じゃねぇぞ!


 え、でもこれってとりあえず成功で良いのかな?

 いいんだよね……?

 俺の使ってた水弾とは全く違うけど、とりあえずこれでいいはずだ。

 うん。


 安全を確認したので、地面を戻して平らにする。

 視界を遮られていた子供たちは、真っ二つにされた大岩を見て驚いていた。


『『『ええーー!?』』』

『ま……まじかぁ……。兄ちゃんこれ真似できる?』

『いや、正直分からん。これ三つくらい同時に水魔法重ねてるぞ』

『わぁー……』


 俺も何回か水魔法を使って獲物を狩っているが、あのようなレーザーカッターは作り出せたためしがない。

 そもそも出来ないものだと思っていたのだ。

 試そうとも思わなかった俺がいる。


 しかし、二つ重ねた複合魔法であのような物は作れない。

 となると、最低でも三つは重ねているという事になる。

 一体レインはいくつ水魔法を複合させたのだろうか……。


『お、多い方が良いかなって思って……と、とりあえずありったけ……』

『こ、子供すげぇ~……』


 どうしましょう。

 俺たちが霞んで見えてくるわ。

 そ、そういえばレインってルインお婆ちゃんに見てもらってた子だったな……。

 食らいつくのに必死だったんだろうなぁ……。


『よし、レイン。それは水刃という魔法にしよう!』

『すいじん?』

『そう。レインが作ったレインだけの魔法だぞ! あのルインお婆ちゃんも出来やしないんだ!』

『本当!?』


 レインは少し落ち込んでいたが、そう言うとぱぁっと明るくなった。

 どうやら先程暴発するといったことが、少し気にかかっていたようだ。

 あれは俺たちの早とちり。


 ていうか俺、あんなの出来そうにないんですけど。

 でもあれなのかな?

 適正魔法を複合させるのは割と簡単だったりするのだろうか?

 俺の場合、適正魔法が回復魔法だけだから、その辺はよくわからない。


 だが、様々な種類の魔法を合体させるのはマジでしんどいという事は知っている。

 俺が出来るのは三つまで。

 それに加えて完璧にできるのは一個しかない。

 他は検討中で~す。


『レインすげ~! 俺も炎だけだったら出来るかな!』

『お前はまだやめとけシャロ! 本当に火傷するぞ!』

『はぁ~い』

『で、でも適正魔法が一個だけでも……すごいの使えるんだねぇ……!』

『レインすごーい!』

『へへ、へへへ~』

『はいは~い、お話もいいけど、皆レインに負けるなよ~? レインはさっきの水刃の練習な。あれは俺も見たことないから研究していこう』

『うん!』


 こうして話をしていると、思う事がある。

 やっぱ子供たちと話できるって最高ですね~!

 はっはっはっはっは!

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