3.35.休憩


 ニアは諦めの悪い子だった。

 何度も何度も挑戦し、失敗して凹むがまた挑戦する。

 自分の中で何がいけなかったのか考えているのだろう。


 時々俺を見て、何かアドバイスを貰おうとするそぶりは見せるのだが、実際には聞いてこなかった。

 恐らく自分でやってのけたいのだろう。


 ま、俺も昔そんな感じだったしな。

 だって先生がいないんだもん。

 お父さんは縄張りの見回りやら、群れの統括なんかで忙しそうだったし、狩りも積極的に行っていた。

 俺がお父さんから教えてもらうのなんて、本当に一ヵ月に一回あるかないかだったもんな。


 見本のない稽古程、難しい物はない。

 それに比べれば、ニアはまだいい環境にいる方だ。

 それでも頼ろうとはしない姿勢は、いつぞやの俺に似ている。

 俺だって頼ろうと思えばいつだって頼れたのだ。

 だが、そうしなかったのは自分でやって、オリジナルを作ってみたいという好奇心があったから。

 決して意固地になっていた訳ではない。


 でも、ニアの場合はちょっと意固地になっているかもな。

 始めに闇魔法が成功したので、ちょっと浮かれてただろうしね。

 ま、魔法ってそんな簡単なもんじゃないって事ですよ。


 魔法で何より難しいのが魔力の生成だな。

 普通にしていれば、適切な量の魔力が体の中に備蓄されるのだが、こういう練習の時や戦闘時などは自分から魔力を作っていかなければならない。

 これが結構最初の頃は難しいのだ。


 なので……。


「わふー!」

『はい、ストップ』


 ニアから闇魔法で魔力を吸収し、魔法の発動を強制的に止める。

 先程の魔力の吸収量は、魔力の過剰摂取で倒れるレベルだ。

 常に闇魔法で魔力の量を把握しているので、それくらいはわかる。


『力みすぎ。光魔法をちょっと発動させるだけなら、そんなに魔力は必要ないよ。今必要なのは、考え方』

「ガウゥ!」


 ニアは「わかってる!」というが、この調子だとあと何回かは同じ過ちを繰り返しそうだ。

 しっかり見ておくことにしよう。


 ニアはもう一度光魔法を使用して、太陽の杭を発動させようとする。

 一生懸命なのはわかるが、やはり力んでいて安定していない。

 形を成そうとした光は、また霧散していった。


「クゥー……」


 頭を下げて、がっくりとした表情をするニア。

 もう何がいけないかもわからないようになってきているのだろう。


『休憩しようか』


 こういう時は、一度落ち着くのが良いだろう。

 俺は土魔法で器を作り、その中に水魔法で水を入れていく。

 水魔法を作るときに光魔法を複合し、聖水を作り出した。

 普通の水の聖水の何が違うのか俺にはよくわかっていないが、こっちの方がおいしい気がするのだ。


 俺は聖水の入った器を鼻で押し、ニアの前まで持っていく。

 それを見て、ニアも少し喉が渇いているのに気が付いたのか、いい勢いで水を飲み始める。

 あれだけ頑張ったのだ。

 疲れていて当然である。


『落ち着いたかい?』

「わふ」

『なら良し』


 聖水には感情を落ち着かせる効果でもあるんだろうか。

 ま、なんにせよニアはさっき頭に血が上り過ぎていた。

 これで落ち着いてくれたのであれば、万々歳である。


 俺は風魔法を使って、穏やかな風を周囲に流す。

 こんな器用なことはできないと、以前オートに言われてしまったのだが……そんなに難しいだろうか。


「わふー……」

『ん? やっと聞く気になったかい?』

「ガゥ!」

『意固地だねぇ~』


 どうやらまだ諦めてはいないらしい。

 ニアって結構頑固なんだね。


 そう言えば、まだ魔法を出しただけで、使い方は教えてなかったな。

 これは教えておこうか。

 考え方がこいつで変わればいいのだけど……。

 もしできなければ、あれで行くか。


『ニア。光魔法・太陽の杭の使い方を教えようか』

「わふ」

『使い方がわかれば、ちょっとはできるかもよ?』

「……わう」

『はいはい』


 めっちゃしぶしぶやん。

 まぁいいけどさ。


 という事で、俺は太陽の杭を上空へと展開させる。

 数は一本で十分。

 匂いを嗅いで目標を探し、それに向けて一気に発射させた。


 カツーン!


 太陽の杭が岩に突き刺さる。

 攻撃魔法じゃないと聞いていたはずのニアは、明らかに突き刺さっている太陽の杭を見て驚いているようだった。

 すぐに駆け寄って、その杭を見に行く。


「……!?」


 ニアが駆け寄って見てみると、太陽の杭は一匹の蛇に貫通していた。

 だが、蛇は生きている。

 必死に逃げようとうねうねと動き回っているが、一向に逃げ出せないでいるようだ。


 それを見たニアは、こちらに顔を向ける。


『だから言っただろう? 殺すための魔法じゃないんだって』


 これを最初に見せておけばよかったなと、俺はちょっと後悔した。

 なんせニアが睨みつけてくるのなんの。

 ごめんて。


 だがニアの表情は、できなさそうという自信のなさそうなものではなく、出来そうだという表情に変わっていた。

 これであればもしかすると、俺が手をだすまでもないかもしれないな。


『出来そうかい?』

「ガウ!」

『よし! じゃあ休憩終わり! もう一回頑張ってみて!』

「ガウガウ!」

『いやだから力むなって……』


 やはりもう少し時間がかかりそうだ……。


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