3.15.開戦
ベンツを追いかけて戻ってきた。
すると、そこには群れ全員が集まっており、オートが何か指揮を飛ばしている。
俺はすぐにその輪に交じろうと、また走って行く。
『お父さん!』
『戻ったか……。話はベンツから聞いた。よくやったぞ二匹とも』
『ちゃんと罠を仕掛けてる方角から来たよ』
『わかった』
それを聞いて、オートはまた指示を飛ばすために群れの方へと顔を向ける。
どうやらとても忙しいようだ。
俺は、守るべき子供たちの場所に行き、数を数える。
そこにはその子供たちの両親もいるようで、とても心配そうに子供たちに寄り添っている。
この両親たちはオートの指示に従い、前線へとでなければならない。
残念ながら、この狼たちは守るすべに長けていないのだから、それは仕方のない事である。
だが、子供たちももう大きくなった。
生後一か月を過ぎた子供が六匹。そして、生後五か月を過ぎた狼が五匹だ。
一ヵ月の子たちは、もう動き回れるようになり、一生懸命遊んでいる。
五か月の子たちは、ようやく魔法に手を付け始めているといったくらいだ。
だがまだ自分の中にある適正魔法を見つけれないようで、未だに地面にお手をし続けている。
「クーー!」
「わふっ! わふ! わっふ!!」
ずっと見ておきたいが、今はそんな暇はない。
護衛に入るのは俺とベンツ、そしてガンマだ。
ガンマとベンツは守りの魔法を持ってはいないが、それでもこの場を任せられた。
ベンツは何があっても素早く対応できるからここに配置されたのだろうけど、ガンマはよくわからない。
とはいえ、オートが言うのだから、従うしかない。
後の群れは……全部前線へと出ることになっている。
ロード爺ちゃんも、ルインお婆ちゃんも。
そして、リンドもである。
『お母さん大丈夫なの?』
『魔法を使わなければ大丈夫よ。私は耳が良いからそれで戦うわ』
リンドは情報収集係として、前線に出るようだ。
体の弱いリンドを、群れの仲間も心配しているようだったが、リンドが居なければ前を探れないという事らしい。
俺がここにいるのだから、俺以外で索敵のできるリンドが前に出ることになる。
ご迷惑おかけします……。
とは言っても、群れの全員が負けるという事は絶対にないだろうというような顔で、涼し気に立っている。
緊張感がないといえばいいのだうか……。
どうしてそこまで余裕なのか、俺にはちょっと理解できなかった。
俺は罠くらいしか張れなかったけど、他の仲間は戦う気満々だ。
敵が人間で無ければ、俺も活躍できたとは思う。
まぁ……ここは、仲間を信じてこの子たちを守る事だけに徹しよう。
『ぶっすー……』
『……どうしたガンマ』
『俺も前に出て戦いたかった……』
『まぁまぁ……』
ガンマは完全に不貞腐れている。
本当にガンマは戦闘狂だなぁと感じながら、苦笑いでその場を流す。
まぁこいつは昔から力にばかり頼ってきた節があるから、それ以外の楽しみを知らないのだろう。
とは言っても任せられたことはしっかりとやるこの精神、俺は嫌いじゃないぞっ。
『ちょ! 待って待ってわあああ!』
「きゅおー!」
「きゅおーきゅい!」
「わふわふ!」
ベンツさん、ちょっとそこ代ってくれませんかね。
何してるんですか一匹で。
そんな子供たちに囲まれちゃって何してんねん。
っといかんいかん。
今はそんなことをしている場合ではないのだ。
うん、しっかりとこの子たちを守るためにね、周囲を警戒しないと──。
「きゅー」
『カワイイッ!』
『兄さん?』
どうやら少し寒かったようだ。
俺の毛の中に体をうずめ始める。
まだ一ヵ月だもんなぁ……。
じゃああっためてあげましょうかね。
おいで~っていたたたたた! お父さん!? また貴方ですか!? もういい加減行きなさいよ!
ちゃんとしっかり守りますから! ね!?
この生後一か月の子供たちのお父さんだけは、何故か俺を嫌っているようでこうして噛みついてくる。
流石に手加減はしているのだろうけど、普通に痛い。
ただ愛でるだけなのでそんな変なことはしませんよ。
すると突然、爆発音が西の方から響いた。
どうやら、俺とベンツが設置した罠に人間が引っ掛かったようだ。
小動物ではあのような音は鳴らないので、間違いはないはずである。
その音にびっくりした子供たちは、一番体の大きな俺の所に走り寄ってくる。
雷が怖いっていう犬とか結構見たことあるけど、狼たちもそうなんだろうか。
だけどそのおかげで俺は幸せです。
でもごめんね? 胸の前には来ないでくれるかな。
俺寝れない。
「ワォーーーー!」
「「「ゥオーーーー」」」
オートの遠吠えを聞いた狼たちが、それに続くように遠吠えをする。
一種の士気向上のための物だ。
すると群れの仲間たちは一斉に動き出し、自分が担当する西側の地へと向かった。
罠より奥には進まないようにと言ってあるので、その前で全て仕留めるつもりなのだろう。
『皆……お願いしますよ……』
俺は静かにそう口にしたのだった。
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