3.5.バレた
「っし! これで良しだな」
土魔法で作った簡易テントを壊し、そのクズで火も鎮火。
これだけやっておけば残り火で山火事になるなどという事はないはずだ。
片付けも終わった所で、昨日見たあの光の方角へと歩いていく。
ちゃんと地面に方角は記しておいたので、方角は間違っていないはずだ。
雨が降らなくてよかった。
走っている内に、随分近くまで戻ってこれたのは幸いだった。
真反対に行っていれば、そもそも見えすらしなかっただろう。
「はっ! もしやあのエンリルは僕に帰路を伝えてくれようとしたのでは……?」
なんてどうでもいい妄想を頭の中で繰り広げながら、今度あの場所まで行く為の方法をまた考える。
この辺りはあのエンリルたちが魔物を間引いているためか、他の魔物と出会うことが全くない。
ここであれば、僕であっても探索を続けることが出来そうだ。
今度は一人で来てもいいかもしれない。
そんなことを考えている間に、どうやら目的地に到着したようだ。
二つほどテントが張られており、そこには数人の冒険者が朝支度の片づけをしていた。
「おーい!」
「ん? ああ!! おーーいみんなー! クルスが戻ったぞ!」
ここにいたのは研究者チームの面々だ。
研究している物はそれぞれ違うが、それでもこうして僕の研究に付き合ってくれるいい奴らである。
一人の研究員がクルスが帰ったことを伝えると、様々な場所から人が集まってきた。
どうやら随分と心配をかけてしまったらしい。
全員が駆け寄ってきて良かったと口々に言ってくれる。
「何処まで行ってたんだよ~!」
「ごめんごめん……。ちょっと迷子になっちゃって」
「おっちょこちょいなのも相変わらずだな!」
「余計なお世話だぞ!」
全員でそう言い合いながら、とりあえず再会を喜ぶ。
実は遠征は今日で終了で、明日にはこの場所から離れなければならなかったのだ。
その前に帰って来れて本当によかった。
「で、クルス。なんか見つけれたか?」
そう声をかけてきたのは、幼いころから僕と一緒に研究をしているカリムだ。
カリムは魔素の研究をしていて、一体魔素は何処から発生しているのかを追っている研究員だ。
魔素の研究は、エンリルを追う手掛かりになるかもしれないので、よく一緒に研究を手伝ったり、手伝ってもらったりしている。
だが、そんな親友とも言えるカリムにさえも、このことだけは伝えることが出来なかった。
伝えてはいけないのだ。
カリムであれば口外する事などまずないだろう。
それでも、今は伝えることはできない。
「ん~……迷子になっててそれどころじゃなかったなぁ……」
「ま、そりゃそうだよな。っしゃ、じゃあとりあえず片付けるか」
「あれ、もう片付けるのかい?」
「ああ。ペクルスが研究しているアレ。サンプルが回収できたからさっさと帰って養殖したいんだと」
「なるほどね! じゃあ帰ろう!」
ペクルスは、寄生生物の研究をしている人物だ。
寄生生物の研究が進めば、魔法を使える幅が広がるかもしれないとして、一部では注目を浴びているのだが、冷たい目で見られることもよくある。
生物兵器を作る気でいるのか、などと言われるのはもう慣れっこではあるらしいが、僕たちはその努力を素直に認めたい。
この寄生生物は、何かに寄生していないといけないわけではなく、自分でも行動が出来る。
ただ、その場合は体がひどく弱いので、扱いには注意が必要だ。
サンプルを回収できたのであれば、早く帰って安全な場所に飼育しておきたいのだろう。
「によによ……」
「その笑い方やめろペクルス……」
「ご、ごめん……」
今さっき回収したばかりの寄生生物を見て、嬉しそうに笑っているペクルス。
顔は良いのに笑い方だけ気持ち悪いという、変な特性を持っている。
背が小さいので子供と間違われやすいのが救いではあるが、そうでなければ犯罪レベルの気持ち悪さだ。
「クルス、今何か思った?」
「何でもないよ!」
そして時々、感がいい。
僕は誤魔化す為に、テントの解体作業を手伝う。
解体するのは体力のない僕たちには結構大変な作業なのだ。
テントの解体が終わり、荷物も全て馬車に乗せた。
これくらいのテントであれば、一つの馬車で事足りる。
後は開いているスペースに僕たちが乗り込めば、すぐにでも場所を動かせるだろう。
御者はカリムに任せ、残りの研究員は全員荷台に乗る。
「カリムー! いいよー!」
「おし!」
ピシッと手綱を操り、馬を走らせる。
今から向かうのは、護衛を務めてくれた冒険者たちがキャンプをしている場所だ。
あそこにはあまり近づきたくないのだが……国からの指示の為、仕方がない。
また行き苦しさを感じながら帰ることにしよう。
◆
冒険者たちがキャンプを行っている場所に帰ってきた。
これからすぐに帰らなければならないため、冒険者の指揮を取っている隊長に報告をしに行かなければならない。
ここに帰ってきてすることは、まず隊長に研究の成果の報告だ。
これは別に成果があってもなくても問題がない。
ただ、研究者が見たものが安全なのかどうかを、隊長自身が聞いて確認をするのだ。
報告をするのは、その時でいいだろう。
「じゃ、僕が話を付けてくるよ」
「お願い」
そう言い残して、僕は馬車から飛び降りる。
すぐに隊長のいる場所へと向かっていった。
冒険者の隊長は、非常にいい人だ。
僕たちのような戦闘の役に立たない研究員にまで、優しく接してくれる。
なのでとても話しやすい。
「すいませーん」
「お、研究者か。入れ入れ」
そう言われて、すぐにテントの中に入っていく。
中には三人の男性が居て、その全員が似たような武具を身に着けている。
恐らくチームなのだろう。
隊長はどれをとっても普通の外見ではあるのだが、この中の誰よりも強い。
それは冒険者全員が認めていることであり、逆らう者はまずいないのだ。
「早かったな。何かあったのか?」
「はい。ペクルスが研究サンプルを捕獲いたしまして。すぐにでも国へと帰りたいのです」
「おお、これでまた研究が進むのか。わかった。すぐに準備させよう」
すると、隊長は右隣にいた冒険者と目を合わせて頷き合う。
どうやら、その人が指示を飛ばしてくれるらしい。
すぐにテントを出ていった。
「ご苦労だったな」
「いえいえ、これも国の繁栄の為でございます」
「うんうん、いいことだ。で、君は何か見つけたのかい?」
この隊長にまで隠しごとをしなければならないというのは、少し心苦しいが、あれは隠し通さなければならない物だ。
「じ、実は……一度迷ってしまいまして……。帰るので精いっぱいで調査どころじゃなかったんですよ」
「っとぉ……災難だったな。怪我は? 大丈夫か?」
「はい、この通りです」
そう言って、元気だぞというポーズをとる。
全力で走った程度なので、本当に怪我などはない。
それを見て隊長も安心したのか、ほっと息をついて頷いた。
「なら良かった。そうだこれを飲め。疲れが吹き飛ぶぞ」
「わぁ……! 有難う御座います!」
そう言って、コップに入れられた飲み物を受け取る。
匂いからして、蜂蜜が大量に混ざっているようだ。
蜂蜜は甘味であり、高級品。
こんなものを飲んでいいのだろうか。
「これ……」
「飲め飲め! 俺からの褒美だ!」
「有難う御座います」
そう言って、その飲み物をくっと飲み干す。
口の中に甘い香りが広がり、そして蜂蜜の味が舌を刺激する。
美味い。
と、思った瞬間、ちょっとだけ苦みが残った。
なんだろうなこれ、と思っていると……。
ぼーっとし始め、意識を手放した。
「…………」
意識を手放したクルスだったが、未だに立っている状態だ。
隊長は、そんなクルスを見てニヤリと笑い、一つ質問を投げかける。
「何か、見つけたか?」
「…………はい……」
「それは、なんだ?」
「エンリル……です」
その言葉を聞いて、隊長と隣にいた冒険者は顔色を変える。
エンリルと言えば、幻の魔物だ。
誰もが知っている。
「ふっふっふ……。面白いことになってきたなおい」
「ですね。やはり薬を使って正解でした。研究員は何かと隠す癖があります故」
「だなぁ。発見した、場所は?」
「…………遭難していたため、わかり、ません」
「使えねー!」
だが、エンリルがいたという情報だけで十分だ。
後はしらみつぶしに探していけば必ず見つかるはずである。
「うぅし! 帰るぞ帰るぞ! 国王にこのことを報告しなければ!」
「……で、あわよくば?」
「国家騎士隊長になる!」
「欲まみれですね。私は好きですが」
「わかってるぅ~!」
隊長はすぐに外に出て、大きな声で冒険者たちに指示を出す。
「帰るぞぉー!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます