3.2.報告
ニジリニジリ……。
「グルルルルルル……」
だ、駄目っすか……?
「ガウゥ」
「キュー……」
いや可愛すぎるんだなぁ!?
見てるだけも駄目ですか!? 流石に見るくらいならいいよね! ね!
「ガウガウ!!」
ぎゃああああ!
ごめんなさいお父さん! いたたたたたた!!
わかったわかった! また木の陰で見とくから! 離れますからー! いたたたた!!
地形の修繕を終えた俺は、癒しを求めて子供狼を間近で眺めていたかったのだが、それは今日も失敗に終わる。
お母さん狼は、俺が不用意に子供に近づかないという事もわかってくれているので、見る分であればどれだけ近くにいても許されるのだが……。
お父さん狼が許してくれない。
俺はただ見たいだけなのに……くっ。
ていうか俺お父さんみたいにそんな目がよくないから、少し遠いんですよ。
ああぁ~早く大きくなってくれないかなぁ……。
モフモフに遊ばれたい。
あ、そうだ。
俺は風魔法で自分の毛の中に入れていた地図を取り出す。
その地図は羊皮紙で作られているようだ。
地図を広げて中身を見てみる。
字が何か書いてあるが、流石にわからない。
だが、場所と文字の位置からして、それは国の名前だったり、森の名前だったりするのだろう。
そこで、俺たちがいる森の場所を、その地図の中から探してみる。
どの辺りかなと思いながら、地図を見ていくと、見覚えのある山の形を見つけることが出来た。
これは恐らく、前に敵リーダーが住処にしていた山だろう。
近くに流れている川も、その地図と一致する。
地図が出来ているという事は、ここにも人が来たことがあるようだ。
そういえば、昔ご飯として人間の腕をオートが持って帰ってきた事があった。
あれは本当にびっくりした記憶がある。
流石に人間の一部は食べられない。
『となると……俺たちが居るところがここか』
どうやらこの辺りは深い森の覆われているようだ。
これでは人間も中々入ってくる事はできないだろう。
あの人間が迷ってしまうのも頷けるという物だ。
では、この辺りから近い国は何処なのだろうか。
人間がいるという事は、村もあれば国もあるはずである。
森が切れている場所に目をやり、そこから大雑把に文字を選んでみていく。
すると、東の方角に村らしきものがいくつかあり、それを囲うように太い線がまた描かれていた。
その線を辿っていくといろんな村があり、そして一際大きく描かれた絵が、その場所が国だと教えてくれる。
文字も大きいので、ここは国だという事で間違いないだろう。
他の場所はどうだろうか。
この森は南にずっと続いているようで、東、北、西は一定の所まで行くと途切れている。
とは言っても相当大きな森であるため、なかなか出ることはできなさそうだ。
結果、見てみると西に三つほどの国。
そして、北に二つほど大きな国を見つけることが出来た。
この地図はこの大陸の地図らしいのだが、まだ描き切れていない。
というか、途切れてしまっている。
恐らく、他にも地図があるのだろう。
地図の海辺には、交易の為か小さな国のようなマークが書かれている。
おそらく海も渡れるはずだ。
いつか世界地図を見てみたいものである。
でもこの辺りの地形が把握できたのは大きい。
人間と仲良くはなれなかったが、良い拾い物をしたと思う。
俺は風魔法で綺麗に羊皮紙の地図を折り畳み、また毛の中に入れる。
こうしておけばとりあえずなくすことは無いだろう。
専用の入れ物が欲しい所ではあるが。
『あ、そうだ。これロード爺ちゃんなら読めるんじゃないかな? 人間の里についてちょっと知ってるっぽかったし。聞いてみよう!』
思い立ったら即実行。
子供を眺めるのはもう少し後にして、俺はロード爺ちゃんの所へと向かった。
◆
ロード爺ちゃんのいる場所に到着すると、ロード爺ちゃんは爆睡していた。
何故寝るときにあの台座を作るのだろうか。
かっこいいとは思うけどそれ、ルインお婆ちゃんが言ってた無駄な魔力消費だと思う。
寝ているのを起こすのもあれだし、俺もその台座に乗って一緒に寝ることにする。
俺も結構疲れているのだ。
あれだけの魔力を消耗し続けたのだから、疲れていないはずがない。
俺が起きる頃には、多分ロード爺ちゃんも起きていることだろう。
一度クワァ~と欠伸をしてから、俺も寝る体制に入る。
『オールよ』
『うわびっくりした! ロード爺ちゃん起きてるなら言ってよ!』
俺が驚いたことに満足したのか、楽しそうにカラカラとわかっていた。
どうやら寝たふりをしていたらしい。
『すまんすまん。で、なんじゃ?』
『もー……。あ、えっとね。これなんだけどさ』
そう言って、俺は毛の中にいれている地図を取り出してロード爺ちゃんに見せる。
結構大きい物なので、開くのにちょっと時間がかかった。
全部広げて、ロード爺ちゃんがその地図を覗き込む。
『……ほぉ……これはまた……』
『何かわかる?』
『地図じゃの~……。わしが見た時より綺麗に書かれておる』
それはわかってるんだけどね……。
『これを何処で見つけたんじゃ?』
『ん? えーっとね、さっきにん……』
ちょっと待てよ?
俺が人間のこと知ってたら駄目だよな?
会ったこともないし、人間って言葉自体も知らないはずなんだから、ここは遠まわしに言うべきか。
『さっき……二足歩行の生物がいてさ。俺の姿みたら怯えて逃げちゃったんだけど、これだけ落としていったんだよ』
『…………オール。お前、そいつをどうした?』
『んえ? いや、あんまり身がなさそうだったから放置したけど……』
『そうか……。なら良い』
ロード爺ちゃんはそう言ったが、何故か目が一瞬だけ鋭くなったような気がした。
いつも優しそうな眼をしているロード爺ちゃんには似合わない目つきだ。
明らかに何か隠しごとをしているとは思ったが、いつもの優しそうな目つきに変わると、何故か聞き出せなかった。
俺はあの時、何かを間違えたのだろうか。
『お前には教えておこうかの。お前の見た生物は人間という生物じゃ』
『あれが?』
『うむ。わしも昔、人間の世話になった事がある。奴らは賢く、狡猾だ。次見つけた時は、出来るだけ狩っておいた方が良い』
『そ、そうなんだ。気を付ける』
『うむ』
ロード爺ちゃんは人間にあんまり良い印象を持っていない様だ。
だが、俺は元人間として、人間を狩ることはできそうにない。
今度見かけたら、そっと見ないふりをしておくとしよう。
人間とは関わり合いたかったけど、あそこまで怯えられたら仲良くなるなんてのは無理だろう。
俺たちは魔物。
住む世界が根本的に違う。
それにもっと早く気が付けばよかった。
もう元人間だから、人間と関わり合いたいとは思わない方がいいかもしれない。
『オール。これが読めるか?』
『全然』
『人間の言葉はわかったか?』
『うん。不思議な感じだった』
『わしらの種族は希少。それ故に、知性のある生き物とはそれなりの意思疎通が図れる。人間はわしらの声は聞けぬらしいがな』
『へー……』
あ、やっぱりそういうのあるんですね。
ん? てなるともしかして、他にも俺たちみたいな希少な種族っているのかな。
『ロード爺ちゃん。俺たち以外にも希少な種族っているの?』
『居るぞ。わしの知っている限りだと……悪魔じゃの。それと竜種じゃ』
『悪魔と竜か~……』
ロード爺ちゃんの話からすると、悪魔は悪魔でも、特異体質の悪魔だけ会話が出来るようだ。
その特異体質はよくわかっていないらしい。
竜種は、群れのリーダー、もしくは、それと同等の存在であれば、会話をすることが可能らしい。
その竜に一度会ったことがあるらしいが、どうにも動かない怠け者だったようだ。
『群れをほとんど無視しておったな……。リーダーでないのが救いだったわい』
『へ~……。ニートなんだね』
『にーと? 難しい言葉を知っておるなぁ』
あふん。伝わらなかった。
『ありがとうロード爺ちゃん。知りたいこと知れたよ』
『うむ。いつでも暇しておるから、気が向いたらまたおいで。後これは仕舞っておきなさい』
『わかった!』
そう言い残して、地図を回収してから、俺は本当に寝るために洞窟の方へと走っていく。
たまには昼からゆっくりしたい。
オールを見送ったロードは、すくっと立ち上がる。
顔をあげた時のその目は、オールが一瞬だけ見た鋭い目つきになっていた。
『……また来るよな……人間どもが』
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