第三章 冒険者討伐隊

3.1.人間


 冒険者風の出で立ちをしている人間は、地図を持ってキョロキョロと周囲を見渡しているようだ。

 服装はそんなに豪勢なものではないのだが、どことなく研究員らしい。

 モノクルをかけており、髪は後ろで束ねている。

 髪を切るのが面倒くさいのか、ただ伸ばしているだけという印象を受ける。


 だが随分と困ったような表情をしているあたり、この森に迷い込んでしまったのだろう。

 地図を持ってはいるが、自分が何処に居るかわからないので、あまり役に立っていないようだ。


『……人だ! マジか!!』


 困っている人間をよそに、俺のテンションは最高潮まで上がっていた。

 いるとは思っていたが、ようやく馴染みのある姿をした生き物に出会えたのだ。

 嬉しくないはずがない。


 冒険者だよなあれ……。

 研究員っぽいけど、なんか弱そう……。

 でもあの地図めっちゃ気になるんですけど。

 何なら欲しいんですけどいただけませんかね?


 いやでも待って? これどうやって近づこうかな。

 ていうか仲良くなれないかな!?

 そしたらさ? そしたら絶対人間食とか食べれるし、安全な場所も手に入るよね!


 ぶっちゃけ人と仲良くなるのは良い手段だと思うのです。

 まぁ流石に俺たちの数の群れを丸ごと貰ってはくれないだろうけど……。

 でも何かいいことが絶対あるはずだ! うん!


 なんか迷子になってるっぽいし……俺が助けてあげれば仲良くなれるかな?

 とりあえずその作戦が一番良いと思うぞ!

 よし、じゃあでるぞー?


 わざとガサガサという音を立てて、わかりやすいように人間に姿を見せる。


「!!?」


 音に気が付いた人間は、すぐさま腰からナイフを取り出し、こちらに向けて構えた。

 俺はなるべく自然体で姿を現す。

 怯えられないように……敵意を向けないように。


「……な……な……」


 恐くないよー。大丈夫だよー……。


「なん……だって……」


 あれ? 言葉がわかるぞ?

 何でだろう……? いや、まぁわかることに越したことは無いんだけど……。

 これも俺たちの種族の能力か何かなのかな。


 でもあれですね~……完全に脅かしてしまったみたいですね。

 どうしましょ。


 人間は俺の姿を見たと同時に、ナイフを落として尻もちをついてしまっている。

 腰が抜けてしまったのか、ずるずると後退しており、怯えた表情を前面に押し出していた。


大丈夫ですよーグルルルルゥ襲わないよーガルルルゥ

「…………」


 口をパクパクさせておられる。

 まぁそうだよね! こんな森の中ででっかい狼と出会うなんてこと滅多に……。

 ん? でっかい狼?


 よく人間を観察してみる。

 人間は座ってしまっているのだが、それでもそれなりの大きさはわかった。

 前世の一般男性の平均身長くらいの背丈がある。

 そこまでは良いだろう。

 問題は次だ。


 俺。

 明らかにデカい。

 この人間よりも遥かにデカいようだ。

 おそらくこの人間が普通に立っても、俺の肩にまで背が届かないだろう。

 俺の大きさ……大体……四メートル。


 そりゃ怖がりますよねーーーー!

 やべぇ俺こんなにでっかかったのか!!

 一年間狼の姿でいたからこれが普通だと思ってたよ畜生!!

 いやだってさ! その辺の木とかめっちゃ太いしでかいし!? なんなら仲間たちもでかいじゃん!

 基準が無いこの生活でどうやって俺の大きさを把握しろって言うんですかっ!

 無理だっ!


 で、どうするどうする!?

 この状況どうしてくれる!?

 何とかして敵意がないことを伝えたいのだけど……これ無理じゃね?

 多分俺の言葉通じてないだろうし、いや逆に通じてたら怖いけどさ?


「何故……何故こんなところに……エンリルが……」


 ……え? 今なんて?

 エン……リル?

 俺たちの種族名の事かそれ。


 この冒険者って研究員っぽいから、多分それであってるんだろうな。

 へ~俺たちってそんな種族名なんだ。

 いいなぁエンリル! ちょっとかっこいいじゃん!


「くそっ!!」


 すると突然、人間が立ち上がって走り出した。

 腰が抜けているかと思ったのだが、そうではなかったようだ。

 だが足がまだおぼつかないようで、すぐにでもこけてしまいそうな危ない走り方をしている。


おーい、危ないぞー?グルルァ、バウァ

「ヒィッ!!」


 あ、しまった。

 驚かせてしまったらしい。

 でもあれだけ元気であれば、多分大丈夫だよね。

 ……あ。


 ふと足元を見てみると、あの人間が持っていた地図が落ちていた。

 どうやら慌てすぎて落としてしまったらしい。

 これ無しでどうやって帰るのかちょっと不安ではあるが、追いかけたとしてもまた怖がらせてしまうだけだろう。

 俺はその地図を風魔法で浮かび上がらせ、落とさないように毛の中に入れておく。


 帰った時にオートに見せて報告をしよう。

 そう思い、俺は今度こそ住処の方へと帰っていった。


 あ~……やっぱ人と仲良くなるの無理っぽかったなぁ……。

 残念。

 ま、また機会はいくらでもあるだろうから、その時にまた考えるか。

 今日は帰る! そして寝る! 疲れたからね!

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