2.19.修繕……


 と、いう事であの戦いの地に戻ってきたのだが……ここも結構荒れている。

 風刃が作り出した、俺すらも入れる大きな爪痕が地面に残っており、その周辺にはあの白いロープが今だ転がっていた。

 これを全部片付けるのかと考えると、また気が遠くなってしまいそうだ。

 とはいえ、やらないという選択肢はない。


 まずは土魔法で地面に残っている爪痕を消していく。

 魔力を地面に流し込み、長い時間をかけてズッズッズと地面を戻していった。

 これが結構難しい。

 集中力はそこまで必要ではない簡単な作業なのだが、質量の大きい物を動かそうとすると、それに見合った魔力を消費することになる。

 魔素を吸って魔力を作り、それを地面に流し込むんで、元に戻った時の地形を想像しながら地面を動かしていく。


 只でさえ大量の魔力を作り出してから、それを地面に流し込んでいるのだ。

 それに加えて元に戻った時の地形を想像しながら地面をならさなければならないというのは、大変な作業だった。

 やることは簡単。

 だがしかし、その作業量が……。


『膨大過ぎる!!』


 俺たちは魔力を作って魔法を放つことのできる希少な種族。

 無限大の魔力に加え、強力な魔法を持つ。

 言ってしまえば最強の一角にいる魔物なのではないだろうか。


 だが、魔力を作ると言っても限度がある。

 普通に魔力を作り出す場合、魔力総量が百だとしたら、その六割ほどしか魔力は生成できない。

 それ以上作ると魔力の過剰摂取となるからだ。


 摂取って言葉はあんまり似つかわしくないかもしれないけど、まぁわかりやすいよねって事で、俺もこうして読んでいる。

 一回自分の魔力総量を知りたくて、魔素を吸いまくって酷い目にあった。

 吐き気、頭痛に加えて体が動かなくなる。

 あれはマジでやばかった……。

 子供たちにはいち早くそのことを教えてあげたい。


 話を戻すのだが、地形を元に戻す時に使用する魔力は、五割ほどの魔力を生成して流し込まなければならないのだ。

 これがまぁ大変。

 それを何度もしなければならないのだ。

 作業量は凄まじい。


 それから一時間後、ようやく地面に残っていた爪の後を完全に塞ぐことが出来た。

 ストンと座って休憩する。


『あぁ~疲れたぁ~……。これだけやっても地形直すのちっとも速くならないんだよなぁ。なんでだろ』


 ロード爺ちゃんなら、何かそういうコツとか知っていそうだけど……。

 土魔法って、作るのに特化してて、直すのには向かないんだよね。

 これだけ使ってたらそれくらいわかります。


 長い作業が終わったのは良いのだが、まだ最後にしなければならないことがある。

 周囲を見渡してみれば、そこら中に白いロープが転がっているのだ。

 これが山の麓付近まで続いていた。

 こっちの作業の方が大変そうだ……。


『つむじ風で片付けるか』


 風魔法つむじ風。

 要するに小さい竜巻を起こす魔法である。

 余り攻撃には向かない魔法ではあるが、それでも小動物であれば動きを封じることが出来る物だ。

 先日戦った狼たちにはあまり通用しないだろう。

 できて目隠し程度だ。


 だが、このつむじ風は片付けに大きく貢献してくれた。

 小さいので動かしやすく、しっかりとロープを回収してくれる。

 これであれば、片付けるのに時間はあまりかからないだろう。


 同時につむじ風を三つほど発生させ、山から下りるようにロープを回収させていく。

 まるでルンバみたいだなと思いながら、風の威力が崩れないようにロープを回収し続ける。

 あの一角狼は、戦いで全てのロープを切ったようで、木にぶら下がっている物はもうなかった。

 今あの見えない攻撃が来たら、確実に当たってしまうだろう。


『そもそも見えないしな……』


 あの魔法は一体何の魔法なのだろうか……。

 一角狼は地面からロープを作り出していたので、おそらく土魔法と何かの合成魔法だと思うのだが……結局分からずじまいである。

 寄生生物が闇魔法を持っていることはわかっているので、その二つの合成魔法かなと思って試してみたのだが、地面からロープが生えてくることは無かった。


 となると三つ以上の合成魔法になる。

 俺でも三つ混ぜる合成魔法は風刃ならぬ風神しか使えない。

 なので試してみたくても、試せないのが現状だった。

 下手にすると暴発して、大怪我をしかねないので、やめておいたのだ。


 でもいつか使えるようにしたいな!

 あれめっちゃ強いもん!

 見えない攻撃とか反則だと思うんだけどね……。


 そうこう考えている内に、どうやらすべてのロープを回収することが出来たようだ。

 つむじ風を一ヵ所に集めて、魔法を解除する。

 すると、大量のロープが転がってきた。

 これも何かに代用できればいいのだが、流石に思いつかない。

 橋とかにこれを使用すれば、それなりの強度になるんじゃないかなと思ったが……そういえばこれは結構簡単に切れてしまう。

 やはりここは狩りの罠として使うのが一番良さそうだ。


 やることも終わったし、ちょっとこのロープについて考えてみよう。

 まず、これは伸びます。

 ゴムみたいなものなのだろうか。

 にしては結構太いけど……。

 えーと、とりあえず一本持ち出して、一個木に引っ掛けて伸ばす。


『ヌヌヌヌヌヌ……!!』


 の、伸びねぇ!?

 何これどういうこと!?

 これゴムじゃないのか!? じゃあなんだよ!!


 作戦変更だ。

 今度は両端を木に引っ掛けてみる。

 伸ばすことが出来ないので、そっと置いた感じになった。

 まぁ多分これでも大丈夫だろう。


 という事で、俺は風刃を使って真ん中を切ってみる。


 プツッ。


 あ、やっぱり意外と簡単に切れ──。


 切った瞬間、ロープが見えなくなる。

 それに気が付いた時には既に遅かったようで、右顔面に切れたロープが飛んできた。

 見えるはずもないので、回避することすらできずに吹き飛ばされる。


『いでああああ!!』


 ああ、わかりましたよはい!

 これ伸ばすもんじゃない! 設置するもんだ!

 今までゴムかと思ってたけど、こいつ切れた瞬間に思いっきり縮むんだな!

 その反動を利用して弾丸になると!

 ああ、そうですかそうですか!!


 これはちょっと扱いに困る物だという事がわかった。

 勿体ないけど、あんまり使い道もなさそうだから、とりあえずここに放置しておくとしよう。

 飛んでいったロープを回収して、ロープを集めた場所に放り込む。

 そして、それらを土壁で囲っておいた。

 こうしておけば、誰も触ることが出来ないだろうから安心である。


 ていうかこんな危ない物子供の居るところには持っていけません!


『よし! 終わったからか~えろっと』


 住処の方に向けて、足を運ぼうとした。

 だがその時、妙な匂いに気が付いた。


『……? なんだろう』


 初めて嗅ぐ匂いだ。

 距離的は俺が集中せずに嗅ぎ取れる範囲なので、随分と遠い場所にいるようだ。


 一体どんな奴なのだろうかと思い、集中して匂いを嗅ぎ取ってみる。

 頭の中に地形を生成させながら、その生物へと近づいていく。

 すると、そのおおよその姿がわかった。


『……!!』


 俺はすぐに走り出す。

 先程頭に地形を叩き込んだので、場所の把握は完璧だ。

 立ち並ぶ木々を掻い潜り、川を越えて丘を越える。

 その速度は速くはない。

 何せ魔法を発動するのを忘れていたのだから。


 では何故そんなに焦っているのか。

 いや、これは期待しているのだ。

 この世界にもやはり存在していた。

 あの姿は間違いない。


 そして、俺は草むらから顔を出す。

 その前方に、匂いの主がいるのだが……その姿を見て俺は感動した。


『人だ!!』


 そこには、冒険者風の姿をした、人がいたのだった。

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