2.14.Side-ベンツ-地雷電
痺れから解放された敵が、地面を蹴って突進してきた。
その体躯から想像できる通り、突進する威力は凄まじく強烈だ。
あれに当たってしまえばひとたまりもないだろう。
だがしかし、遅すぎる突進などすぐに回避できてしまう。
相手がこちらに来るまでに、ばっと横に飛んで回避する。
この速度であれば、当たることはまず無いだろう。
だとすれば、後は誘導するだけだ。
先程、僕は地面に罠を設置した。
あれは設置した場所に何か重い物が乗ると発動する物で、兄ちゃん発案の罠だ。
一体どこでそんな知識を仕入れてきたのかは全く分からないが、その威力はとんでもない物であり、恐らくこの体躯の敵にも有効の筈。
だけど……発動させるために踏ませないといけないんだけど、その範囲がびっくりするくらい小さいのが難点。
その発動範囲が僕の足の裏くらいしかない。
もう少し大きくしたいんだけど、威力を高めるとどうしても小さくなってしまう。
これを踏ませるために……何度か突撃させて相手が罠を踏むまで誘導させないといけない。
一度目の突撃では踏まなかった。
なので、また罠を踏まないように回り込んでもう一度突撃させるように誘発させる。
「ガルルルルル……」
攻撃が当たらなかったことに苛立ちを露わにして、こちらを睨んでいる。
そっちが遅いだけなのに……。
おまけに予備動作も分かりやすいので、避けるのは非常に簡単。
「ガルァ!!」
『よっと』
ただ体がでかいだけなので、大げさによければかすりもしない。
だが、二度目の突撃でも罠は踏まなかった。
これを後何度続ければいいのかと、少しだけ不安になるが、とりあえず三つは仕掛けている。
あと数回すれば、一度くらい引っ掛かってくれるだろう。
それに……意外と馬鹿っぽい。
言ってはなんだが、ガンマに近い何かを感じる。
あんまり何も考えずに、ただ自分の力を信じてただ突っ込んでくるだけ。
……やっぱり似ている。
馬鹿にしているわけではないのだけど……似てるから対応しやすい。
突進した後、急に止まって方向転換。
そしてまた地面を蹴って突進してくる。
それはガンマがよくやる攻撃方法なのだが、そんなものが通用するはずもない。
またぴょんと飛んでその攻撃を回避する。
「ガルァ!!」
『いや……怒らないで?』
まぁおちょくってるのは確かだけどね……。
そう思った瞬間、また突進してきた。
それをひょいと回避して、今度は蹴りを入れてみる。
このままではなかなか踏みそうになかったので、少しでも軌道を変えられないかという気持ち程度の攻撃だ。
こちらの方が圧倒的に早いので、蹴り自体は簡単に入れられた。
だが……体躯が良いだけのことはある。
全く動かなかった。
「グルァ!!」
『全然ダメじゃん!!』
やっぱり回避し続けるしかないのかー!
まぁお父さんよりでかいし、なんならガンマより力ありそうだもんな!
そりゃ僕の力じゃ動かないよ!
だったら仕方ない……。
自分も喰らう可能性があるけど、もっと罠を設置していこう。
幸い、相手は一度突進すると、狙いを定めるためか一度停止してこちらの様子を窺ってくる。
それであれば、魔力を作り出して設置するのは簡単なことだ。
魔素を体に取り込み、魔力を作り出す。
それを、自分の足の裏に送り込んで地面に埋め込む。
この罠は、兄ちゃんから地雷電という名前を付けてもらった。
雷魔法を付与した魔力を、地面の一点に集中させて埋め込むという魔法だ。
因みに、これは僕だけのできる魔法である。
雷魔法に適性がないと、雷を留めるという事はできないらしい。
普通は放つだけだ。
これを習得するのに相当な時間を有してしまったが、それでも形にすることが出来た。
こんな敵に遭遇するんだったら、もっと攻撃することのできる雷魔法を練習しておけばよかったと後悔している。
とは言っても、ぶっつけ本番で魔法を使うのは危険だ。
暴発する可能性がある。
雷魔法はただ放電するだけでも、その余波で自身にもダメージが入ることがあるのだ。
僕はそれを何度もやってしまい、攻撃系の雷魔法を練習しなくなった。
だが、僕はこの戦いで一つ考えを改めた。
狩りをする為だけに魔法を使うのではない。
自分を守る為、仲間を守る為に魔法は使われる物なのだ。
何故それに早く気が付かなかったのだろうか。
兄ちゃんは率先して魔法の練習に励んでいた。
時には回復魔法を使用しなければならないほどの怪我をしたこともあったが、それでも出来るようになるまで練習をやめたことは無かったと記憶している。
怪我をするのが怖かっただけの僕とは違い、兄ちゃんは自分の為、仲間の為に魔法を練習していたのだ。
気が付かせてくれる存在がいたのに、僕はそれを無視していた。
いや、見ようとしなかったのだろう。
『やっぱり僕じゃリーダーにはなれないよなぁ。流石兄ちゃんだ』
群れ一番の特技は持っている。
だが、それだけで群れのリーダーにはなれない。
狙っていなかったわけではない。
自分がリーダーになって、仲間を引っ張っていく姿を想像しないことなどなかった。
憧れだし、何より頼りにされるという事は嬉しい。
だが僕ではリーダーにはなれないだろう。
素質はあるかもしれないが、僕は兄ちゃんに比べて足りないものが多すぎる。
そんな気がする。
でも僕は知っている。
兄ちゃんの寿命は、僕やガンマ、それに他の仲間たちより短い。
子供の頃、そんな話を仲間たちがしているのを聞いたことがある。
お父さんの次のリーダーは間違いなく兄ちゃんだ。
だが……その次は?
おそらく僕かガンマになるだろう。
とは言ってもガンマには任せられない。
それは群れの総意だ。
ガンマもリーダーに興味はないと言っていたし、自分がリーダーの素質がないことも理解していた。
そういう面では、僕よりガンマの方が自分をよく理解している。
となると、残りは僕しかいない。
もしかしたら兄ちゃんの子供がリーダーになるかもしれないが、それは今のところない。
まだ全てにおいて足りない僕だが、いつでも兄ちゃんを助けれる存在になりたい。
今この瞬間、僕はそう決心した。
「ガァア!!」
『地雷電!』
雷魔法を地面に埋め込む。
その瞬間、敵が突っ込んできたのでまた危なげなく回避した。
そして、ようやく踏んでくれた。
バヂッ……ヂヂヂヂヂヂヂヂ!
「ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ」
『っしゃ!』
今さっき仕掛けた地雷電。
魔力の流出もなく、最大の火力で発動した。
そしてこの地雷電は、近くに設置している地雷電も呼び起こし、発動場所へと流れ込む。
バヂ。バヂッ。バヂヂッ。
バヂヂバヂヂヂヂヂヂヂヂ!!
「ガガ────!!」
残り三つの地雷電が、一つに集結して敵狼を襲う。
全ての地雷電が重なった瞬間、もう声が出せなくなったようでそのまま固まって電撃を浴び続けていた。
体からは煙が出初め、毛は逆立って暴れまくっている。
白目をむき、口からは泡を吹いているようだ。
ヂヂヂヂヂヂヂヂッ。
全ての地雷電が込められていた魔力を使い切ったようで、ぴたりと消えた。
電撃から解放された後、暫くは体勢を維持していたのだが、既に事切れていたようでどさりと倒れ込む。
『…………よしっ』
完全に息の根が止まっていることを確認した後、すぐに駆けだしていく。
勝った以上、ここにいる必要性はない。
すぐにオートとオールの匂いを辿り、走っていったのだった。
ベンツが走っていったあと、敵狼の口から泥水糸の寄生生物が出ていたが、電撃の熱で体中の細胞が
破壊しつくされていたため、出てきた瞬間ボロボロと崩れ始める。
顔もなく、感情も読み取れない生命体であるため、何を思っているかはわからなかったが、何処か忌々しそうにベンツの走っていった方向を見ていたような気がする。
ボロボロになり崩れ去った体は、風に運ばれてどこかに飛んでいくのだった。
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