2.13.Side-ガンマ-六本足


『ちょちょちょちょちょやめろおお!!?』

「……」

『せめてなんか声出せやぁ!』


 強烈なラリアットを喰らったと思ったら、そのまま運ばれていた。

 一体どうしてそんなことが起きるのかと、今俺を運んでいる狼の姿を見てみる。

 すると、その狼は肩から腕が二本生えており、それを器用に使って俺の大きな体を抱えていたのだ。


 明らかに異常な姿の狼に抱えらているこの状況。

 何とか振りほどこうと暴れてみるが、がっしりと捕まれており脱出が出来ない。


 てかお前こら!

 なんで俺抱えたまま走れるんだよぉ!

 まぁ俺なら全く問題ないがな!


 ってちげぇちげぇ!

 さっさとこいつの動きを止めないとどんどん兄さんたちから離される!

 っつてもこいつめっちゃ力あるし、体勢が悪くて上手く力が入らない!


 走っている最中に一度持ち直され、今は腹を上に向けている状態だ。

 首は動くのだが、足は全く相手に届かない。

 挑戦してみるのだが、やはりやってみるだけ無駄であった。


 くそっ!

 ええいめんどくさい! 身体能力強化ああ!!


 体全身の筋肉を膨張させる。

 すると、拘束していた腕が筋肉が大きくなったことによって少し緩み、体が動かせるようになった。

 強化した肉体で無理やり体をねじり、その腕に嚙み付く。


「グギャアア!!?」

『離せこの野郎がぁああああ!!』


 顎に力を籠めると、嚙んでいた腕が嫌な音をたてながら千切れた。

 完全に拘束から解放されたので、地面に体がドスンと落ちる。

 中々速い速度で移動していたので、何度か地面を転がってしまったが、ダメージなどはない。

 転がった勢いを利用して綺麗に立ち上がる。


 相手を見てみると、腕が千切れたことによる痛みにより苦しんでいた。

 肩から生えていた腕が根本付近から噛み千切られており、そこからはドバドバと血が流れ出ている。

 痛みにより暴れているので、それが更なる出血を伴ってもいるようだ。


「ガァアアアア! グルガァア! ガッ! ガアア!」

『六本足が五本足になったな!!』


 ようやく痛みに慣れてきたのか、苦しげにゆっくりと立ち上がる。

 低姿勢でこちらを睨み、グルル……と威嚇していた。


 案外弱かったなこいつ。

 何処かに俺を持って行こうとしていたみたいだけど、そう簡単に事が進むと思うなよ!

 だけど何処に連れていこうとしてたんだ?

 ちょっと気になる。

 まぁ行く気は更々ないけどな!


 既に相手は満身創痍。

 だがそれを理由に手を緩める気はない。

 それが狩りという物だし、こいつは群れを攻撃してきた奴らだ。

 容赦できるはずもない。


 今はまだ身体能力強化の魔法が体に付与され続けているため、このまま一気に片を付ける。

 ぐっと体勢を低くして、地面を蹴って突撃した。

 その際地面がごそっと抉れてしまったが、その前に体を前に飛ばしたので勢いは最大限に出されている。


 腕を振り上げて相手の頭に振り下ろす。


『ぜぇい!!』


 満身創痍と言えど、戦う意思はあったように思えたので回避をしてくるだろうと踏んでいた。

 だが、この狼は回避をするどころか、自分から攻撃に立ち向かってくるように頭を前に出したのだ。

 それに驚いたが、既に振り下ろした攻撃を止める事はできず、易々と相手の頭を押し潰してしまった。


 ……何がしたかったんだこいつ……。

 自分から攻撃に突っ込んでくる奴があるか?

 いやでも……そうにしか見えなかっ──。


 その瞬間、潰した頭に手を置いていた場所から、泥水色の液体が腕を覆うようにがばっと起き上がってきた。

 それはすぐに腕を片腕を包み込み、体の方へと上がって来ようとしている。


『うわぁああ!? な、なんだぁ!?』


 粘着質のこの物体は、中々とることが出来ない。

 何度も振り払おうと腕を振り回すが、抵抗虚しく肩の方までどんどん上がってくる。


 なんだこれなんだこれなんだこれ!!

 気持ち悪いな!!

 何でこれ取れないんだ!? てかなんだよマジで!


 こいつがさっきの奴から出て来たってことは、もしかしてアイツ操られてたのか!

 さっき戦って来た魔物みたいじゃねぇか!

 でも魔法で操られてる訳じゃねぇだろこれ!

 てか取れねぇっ!!


 どれだけ力を強くして腕を振っても取る事ができない。

 ならば地面や木に殴りつけてみるのはどうかと思い、やってみるが……やはり取れなかった。


 その間にもこの魔物はどんどん体を這って登ってくる。

 首辺りまできた所で、ふと意識が持って行かれそうになった。

 何とか堪えたが、立っていることが出来なくなり地面に崩れ落ちる。

 だが一刻も早くこいつを体から引き離さなければならない。

 その為また立ち上がろうとするのだが……もう体に力が入らなかった。


 おい……おいおいまじか……。

 こいつ……何だよ……マジで……。


 そこで意識を完全に手放した。


 体を手に入れた寄生生物は、ムクっと立ち上がって体の状態を確認した。

 この生物は皮膚からでも侵入することが出来、精神を支配することが出来る。

 本当であれば体の中に入れる場所からの方が操れる精度が良くなるのだが、あの状態からは難しかった為、こうして皮膚から侵入することにしたのだ。

 だがこれでまた肉体を手に入れることが出来たことに満足していた。


 寄生生物が体を手に入れてやることは二つだ。

 まず一つは体の状態確認。

 もう一つが適正魔法の使用。


 精神を支配しているので、任意で魔法を放つことが出来る。

 寄生生物の持っている闇魔法と、精神を支配した生物の適正魔法を混ぜることにより、強力な魔法を生み出すことが出来るのだ。

 それを知っているこの生物は、すぐにガンマの適正魔法を放つ。


 ガンマの適正魔法は二つ。

 身体能力強化の魔法と……炎魔法だ。


「!!!!??」


 寄生生物は炎魔法が弱点であり、これを少しでも喰らうと大ダメージを負う。

 だが、直接触れなければどうということは無かった。

 しかし、ガンマは今まで一度も炎魔法を使ったことがない。

 それ故に、ガンマの体は炎魔法の扱い方が全く分からなかった。


 寄生生物が、無理矢理炎魔法の使い方を全く知らないガンマに使わせたことにより、ガンマは火達磨になる。

 皮膚から精神を支配していた寄生生物は勿論その攻撃でダメージを受けた。


 本来であれば、魔法を使いこなして自分が燃えないように炎を放つ魔法なのではあるが、一度も使わなかったガンマはそれが出来ない。

 それによりガンマは火達磨となってしまったのだが、炎に適性のあるガンマは、そんな炎痛くもかゆくもなかったのだ。

 大ダメージを負ったのは……寄生生物だけであった。


「キュワワワワワワ……」


 じゅ~という焼けただれる音が皮膚からする。

 完全に寄生生物は溶けてしまい、後には何も残らなかった。


 暫く棒立ちしていたガンマだったが、だんだんと目に光が戻っていき、すぐに意識を取り戻す。


『!? あれ!? ……あれっ!!?』


 周囲を確認してみるが、もうあの気持ち悪い生物はいなかった。

 それに、体にもへばりついていない。


『……んー?』


 一体何が起こったのだろうかと首を可愛く傾げるが、意識がなかった為、その答えが出るはずもなかった。


『ま、いっか! っしゃあとりあえず兄さんの所に行くぜええええ!』


 ぐっと足に力を入れ、天高くへと跳躍する。

 向かっていた山が遠くに見える。

 あの場所から随分遠くまで運ばれてきてしまったようだ。

 だが、目的地はわかったので、あとはこのまま跳躍を繰り返して、その目的地に進んでいく。


『体が熱いけどなんでだろう~』


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