2.5.Side-ベンツ-高速戦闘
目の前には威嚇している狼が四体、僕を囲むように展開していた。
これらを出し抜いて、味方と合流するのは造作もない事なのではあるが、せっかくなら戦ってみたい。
狩りをするときはほとんどが一方的なものだ。
たまには攻撃をしてくるが、それは逃げるための物であり、僕たちを狩ろうという意気込みは全く感じられない。
それが狩りというものだった。
だが今回は違う。
僕を倒そうと、殺気を込めてこちらを睨み、魔力を込めて攻撃をしようとしている敵がいる。
自分が狩られる側になる気持ちは初めてで、僕はそれが楽しく思えた。
……これが狩られる側の気持ちかー。
まぁ兄ちゃんにはお父さんがいるから問題ないだろうし、ガンマはガンマで何とかするでしょ。
ちょっとくらい寄り道しても、問題ないよね!
敵は四匹。
視界に映らない狼は二匹で、あとの二匹はしっかりと視界内に捉えている。
視界外にいる狼には、聞き耳を立てて動きがないか注意しておく。
始めに動くとすれば、視界外にいる狼だ。
耳をそちらに向けて警戒をしておく。
「ガウッ!」
『!!』
後ろから何かがこちらに飛んできた。
僕はすぐさま雷を体に纏い、速攻で移動してその攻撃を回避する。
回避後にその攻撃を見てみると、風の塊のような物が先ほどまでいた場所を抉り取っている。
次第にその風の威力は弱くなっていき、最後には静かに霧散したが、抉り取られた地面が元に戻ることはなかった。
何あの攻撃……。
風魔法だということはわかるけど、僕たちの知っている風魔法と違って威力がすさまじい。
相当な魔力を込めて放ったんだろうけど……にしても風をあの様に使うなんて思わなかった。
戦いって勉強になるなぁ。
感心してその攻撃の跡を見ていたが、相手が悠長に待ってくれるはずもなく、更なる攻撃が放たれた。
先ほどと同じ攻撃だが、今度は四匹一斉に放ってくる。
この風魔法は触れるだけで不味そうなので、近づかないようにして攻撃を避けきっていく。
着弾点から大きく風が膨らみ、数秒その場で停滞。
地面を抉りながら、風は大きくなるが、ある一定の大きさになると霧散する。
発動から霧散までの時間は大体十秒弱。
それ自体は問題がないのだが、厄介なのが風の塊が大きくなるという事であった。
僕にとってそれは動きが制限される。
足場が悪くなれば踏み込みが利かなくなったり、足を踏み外してしまう可能性があったからだ。
なので、さっさと攻撃して終わらせようとしているのだが、何故かこの狼たちは僕の速度に合わせて攻撃を放ってくる。
回避できない攻撃ではないのだが、一斉に四匹で放ってくるこの攻撃は範囲が広い。
近づこうにも近づけないという状況が一分ほど続いてしまった。
結果、足元はボコボコになり、足場は非常に悪くなる。
くそう!
面倒くさいなぁ!
雷撃を放つにしてもチャージ時間が必要だから、放つことが出来ない!
「
『煩いなぁ! 今考えてんだって!』
まず何で僕の速度に追いつけるんだよ!
目では追えてないくせに、攻撃だけはしっかりと僕を狙ってくる!
何でわかるんだ……?
敵の攻撃は追尾型の攻撃ではない。
避けるのは容易い。
だが……近づけない!
近づけないことに焦りを覚え、動きが荒くなってきたという事が自分でもわかる。
それに気が付いたことで、少し落ち着いて敵を観察することが出来た。
まず、敵は僕の動きにはついてこれていない。
ついてこれているのは攻撃だけだ。
というか……攻撃をするとき、敵の顔はこちらを見ていない。
なのに攻撃はこちらに飛んでくる。
という事は……。
技が勝手に僕の位置に飛んできている?
というかそれ以外に考えられない。
追尾型の魔法ではないが、勝手に敵を狙って撃ってくれる魔法……?
そんな便利な魔法があるの!?
でもそうなら……。
もしかしたらと思い、素早く移動して岩陰に隠れる。
敵は姿を見切ってはいなかったから、おそらく見られてはいないはずだ。
すると、敵の放つ攻撃が自分の見ている方向に飛んでいくようになった。
その事に気が付いた敵の狼は、慌てて周囲を見渡す。
適当に撃って僕がいるかどうか確認するが、軌道は見ている方向に真っすぐ飛んでいくので、当たることは無い。
やはりあの魔法は、魔法自体が相手を認識していなければ飛んではこない様だ。
原理はわからないが、これは勝機。
ようやく自分のターンが回ってきた。
この野郎ー……。
よくもバカスカ撃ってくれたねぇ……!
てかその魔法便利すぎるでしょ!
なんだよそれ! 狙わなくてもいい魔法なんて卑怯すぎるぞ!
怒ったからな!
雷を強く纏い、毛を逆立たせる。
それに加え、オールと一緒に訓練した魔法を使用する。
それは身体能力強化。
身体能力強化と雷魔法を同時に使うのは、非常に難しい。
そもそも、魔法は同時に使うものではないのだが、オールが出来ると言い続け、実際にできてしまったのだから僕たちも練習しようと頑張った。
使うものではないだけで、できないことは無い。
しかし、最初にも言った通りそれを実行させるには相当な鍛錬が必要だった。
雷魔法の調整を失敗して自分にダメージなんて当たり前。
身体能力強化に集中しすぎて雷魔法が億劫になり、結局身体能力強化の効果だけで走っているなんてこともざらにあった。
どれくらい鍛錬したかわからないが、それでも何とか様になり、今では完璧に使えるようになったのだ。
これも兄であるオールのお陰である。
まずオールが二つ以上の魔法を同時に使うことが出来なければ、鍛錬することもなかったのだから。
雷を纏いながら、身体能力強化の魔法を使用して肉体も強化する。
黄色の色から赤色の稲妻が混じり、オレンジ色の稲妻が体中を駆け巡った。
オートやオールにも負けない強さをこれで作り出す。
どんな生物にも負けない、本物の雷にも負けない速度をこれで再現できる。
チャージが完了し、地面を強く蹴って走り出す。
視界が狭くなるが、それでも匂いで敵の位置は理解できる。
距離はおよそ二百メートル。
それを一秒にも満たない速度で潰す。
「!?」
敵は丁度近くに固まっていた。
一匹に狙いを定め、片腕で相手の顔面を殴る。
その瞬間に、今まさに殴った相手を足場にして、真隣にいた相手に体当たりをした。
体に雷を纏っているため、当たるだけでも相当のダメージが入るはずである。
自分に纏う分だけは調整しているが、殴る瞬間に意識的に放電しているので、バヂヂッという音を立てて相手の毛が逆立つ。
少し焦げ臭くなるが、相手はそれで動かなくなった。
暫く硬直した後、ゆっくりと地面に倒れる。
『よし、行ける!』
残り二匹。
味方二匹がやられたことを察して、すぐさま魔法を発動させる。
『もうさせないからね!』
相手が魔法を発動させる前に、攻撃を仕掛ける。
二つの魔法を同時に使っているこの状態であれば、問題なく接近できる。
バヂッっと雷を一瞬強くし、地面を蹴って一匹に超速で接近。
蹴り飛ばして、今度はもう一匹に向かって行く。
「グルッ!?」
『遅い!』
二連撃。
四匹の狼は、どれも一撃だけで沈んだ。
蹴り飛ばされた狼は、大きく吹き飛んでいき、数回バウンドしてから地面を滑っていく。
電撃を喰らった狼は、少し焦げ臭い匂いを出しながら目を回して倒れていた。
『おっしゃ』
相手を倒したことを確認したので、すぐに雷魔法と身体能力強化の魔法を解く。
初めて全力を出せたことに満足し、ふうと一息ついた。
狼たちは全員気絶しているようだ。
ちょっと手加減ができなかったので、怪我をしているだろうが……。
『君たち調子乗ってたからいいよね』
そう思う事にして、ようやくオールと合流するべく、雷魔法だけを使って駆けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます