2.4.発見
時々飛んでくる風魔法を回避しながら、俺たちの群れは着実に敵へと迫っていた。
こちらも魔法で応戦するのだが、相手の攻撃を相殺するので手一杯だ。
俺も応戦しようと思ったのだが、それはオートに止められた。
『なんで?』
『なんでもだ』
説明になっていない回答に眉をひそめるが、何か考えあっての事なのだろうと思い、これ以上は聞かないことにした。
すると、ようやく敵が目視できた。
味方の狼たちは一気にそいつらに飛び掛かる。
次の瞬間、強い風が巻き起こった。
風は狼を押し出すようにして収束し、一気に放たれる。
その動きは非常に速い。
なぜ今までそのなりを潜めていたのだろうか。
敵はすぐに鎮圧されてしまい、味方の狼たちは敵の狼の首を咥えている。
抵抗する者には容赦ない風魔法が撃ち込まれ、強制的に動けなくしていく。
『どうだ? 俺の群れは』
『それが見せたかったのね……すごいわ』
この衝突で俺とオートは一切力を使用しなかった。
ただ守られながら走っていくだけ。
そんなことに意味があるのかと思っていたのだが……まさかただ自慢したいだけだったとは……。
でも動きは目を見張る物があった。
相手に回避すらさせない程の急速接近。
それに、一匹一匹の狙いは絶対に同じにはならず、効率よく敵を拘束していった。
この急速接近は風魔法を使うことでできる物らしい。
教えてもらってないぞ?
やられてしまった狼は、実力差に気が付いたのかすぐに首を垂れて静かになっていた。
これがこの種族の忠誠のような物らしい。
俺にはよくわかりません。
『ねぇ。数少なくない?』
『だな……。オール、見つけれるか?』
『ごめん、土の匂いがきつくてわかんない』
あの爆発で土煙が舞った。
それによって向こう側の状況が匂いでで辿れなくなってしまったのだ。
流石に匂いが混じりすぎると、状況を掴むことが出来なくなる。
犯人は十中八九ガンマだろうが、俺はそれよりベンツの方が心配だ。
あいつ大丈夫かな……。
死んではないと思うけど、あの爆発に巻き込まれたら流石にひとたまりもない。
駆けて行ってすぐに爆発したから、大丈夫だとは思うけど。
『あいつか……』
『え、なになに?』
オートがぼそっとそう言った。
一体なんだろうと思い、オートの見つめる先を見てみる。
そこはトゲトゲしたような大きな山がある。
山は爆発した場所よりも更に奥にあるのだが、それ以外はわからない。
一体何を見ているのか、聞いてみたところ、どうやらあの山頂に群れの長と思われる狼がこちらを見て座っているようなのだ。
そんな馬鹿なと思い見てみるのだが、やはり見えない。
だが、オートはいるという。
もしかするとオートは、目が良いのかもしれないな。
俺も鼻が利くんだし、親であるオートがどこかしらの五感が優れていても何ら不思議はない。
『お前たちは待機だ。オール、一緒に来い』
『大丈夫なの?』
『当たり前だ』
オートは身体能力強化を使って肉体を強化し走り出す。
俺も続いて雷を纏い、オートの後に続く。
やはりオートは速い。
雷だけでは追いつけそうになかったので、俺も身体能力強化を使って肉体を強化する。
赤い稲妻と黄色い雷が体を覆い、色が混ざってオレンジ色の稲妻となる。
これでやっと五分だ。
『ほぉ。ついてこれるようになったか』
『ぎりっぎりだけどね! これでもベンツよりは劣るけどっ!』
『良い兆しだ』
すると、オートは耳をピクリと動かした。
『ふむ。どうやらあいつもこちらに来ているようだ』
『強い?』
『それはわからんが、あいつの相手はお前に任せるぞ』
『まじかぁ……頑張る』
めちゃくちゃ重要な役目を与えられて、俺は内心冷や汗をかいています。
俺が負けてもオートがいるから大丈夫だとは思うけど、まず負ける気は毛頭ございません。
ふっふっふ……。
日ごろの成果を存分に撃ち込んでやろうではないですか。
『あ、そういえば』
『何だ』
『これっていわゆる決闘だよね。何かルールとかある?』
『殺さなければ良し。先攻は体の小さい奴からだ。それ以降は何も考えずに攻撃すればいい』
『了解!』
『……何故知らんのだ』
『いやぁ……はははは』
だからっ、本能でっ、理解する貴方たちとは違うんだよ俺はっ!!!!
◆
Side―ガンマ―
『待てこらぁー!!』
肉体を極限まで強化して地面を蹴る。
目の前にいる敵を追いかけるのに跳躍は使用しない。
すれば相手に逃げられるからだ。
なので、今俺は苦手なダッシュで敵を追いかけている最中だ。
走るのはなぜこうも難しいのだろうか。
歩くのは簡単なのに。
因みに、身体能力強化は筋肉を膨張させるので体が重くなる。
そのことにガンマは気が付いていないだけであるのだが、これを知るのはずっと後のお話。
『待てって……言ってんだろうが!』
ガンマは相手に向かって風刃を繰り出す。
身体能力強化を使っての攻撃であるため、その威力は恐ろしいほどに強力だ。
横に凪いだ風刃は、草木を斬り飛ばしながら狼に迫っていく。
だが、狼たちはそれを見切っていたのか、跳躍して事なきを得た。
そして、ようやく狼たちは走るのをやめ、ガンマに向きなおる。
数は五体。
ガンマにとっては造作もない数である。
五体で俺をやれるとでも思ってんのか……?
なめられたもんだぜ!
ズン……ズン……。
すると、森の奥から大きな足音が聞こえてきた。
敵の狼たちは、待ってましたと言わんばかりに道を開ける。
『……あぁ?』
森の奥から出てきたのは、見たこともない怪物だった。
二足歩行で立っており、腕と思われる部位で棍棒のような物を握っている。
大きさは、おそらくオートが二足で立ち上がった時と同じくらいの大きさ。
つまり、ガンマの背丈よりも大きくて屈強な肉体を持った、豚頭の魔物がそこに立っていたのだ。
何だこいつ……。
涎めっちゃ垂らして汚いし……目もうつろじゃねぇか。
どうなってんだよこいつ。
そこで、敵狼を見る。
その内の一匹が、目を青く輝かせてその魔物を見ていた。
恐らく……操られているのだろう。
『遠慮はいらねぇな! っしゃこぉい!』
ガンマは強く地面に手を叩きつけて威嚇した。
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