1.10.魔力総量


 あれから数日後。

 やっとベンツとガンマも自分の中にある光を見ることが出来たようで、風刃も放つことが出来た。

 風刃は適正魔法に関係なく、この狼種族なら誰でも使える物のようだ。

 これが使えて初めて、他の適正魔法も使えるようになるらしい。


『赤だー! 赤と赤ー!』

『僕は……赤と……黄色?』


 ガンマは赤と赤と言っているが、実際は赤とオレンジだ。

 これは色の違いをガンマに聞いてなんとか分かった。

 赤色の光は身体能力強化の魔法で、オレンジは火属性魔法の適性がある光。

 ベンツは赤と黄色。

 赤はガンマと同じように、身体能力強化の魔法で、黄色は雷属性魔法の適性がある光らしい。


 身体能力強化の魔法は、力や素早さにも直結する物だ。

 二匹は欲しい能力の才能が無事に発現したことに、喜んでいた。


 因みに……俺は母親であるリンドに回復魔法について教えてもらい、その習得をしたのだが……。

 非常時以外は使うなと言われてしまった。


 その理由は、魔力総量の減少。

 回復魔法はその強力過ぎる力に代償がある。

 魔法も全てが便利なものなのではないのだ。


 回復魔法は全ての傷、全ての病を治せるというのだが……その代償はあまりにも大きなものだった。


 魔力は生きていくために必要なものだ。

 それはどの生物も同じであり、魔力がなくては生きていけない。


 そこで必要なのが魔力総量。

 要するに魔力の貯蔵タンクである。

 それが少なくなれば……魔力を体の中に貯えることが出来なくなり、魔法すら使えなくなる。

 魔素は魔物にとって、酸素と同じくらい大切なものだ。


 自分の魔力総量がどれくらいあるのかわからない状態で、回復魔法を使うのは非常に危険なものだった。


 俺たちの種族は、魔力を満タンに貯めるということはしない。

 満タンにするときは戦ったり、狩りをするときだけ。

 その理由はよくわからないが、そもそも魔素を吸収して魔力に変換することが出来る生物は、指で数えるくらいしかいないらしい。


 多分だが、魔力量を満タンにしているのに、また魔素を吸収して魔力に変換すると不味いことが起こるのだろう。

 溢れちゃまずいもんね。


 それと、他の魔物は、いつも魔力を満タンにしているようだ。

 魔力は自然回復が基本で、魔力が減ってしまうと倒れてしまうらしい。

 なくなれば死ぬ……ようだ。

 知性の低い魔物は、魔力枯渇で死ぬことも多いらしい。


 そんな世界なんですか此処。

 でも俺たちは自分で魔力を作り出すことが出来るので、その心配ないな。


 だが回復魔法の適性があるのに、使いにくいってのは厄介だよなぁ……。

 まぁ、俺も簡単に死にたくないし、使うのは極力控えるけど。

 ていうか魔力総量見る方法ないのかな。

 人間の世界にならそういうのはあるんだろうけど……。


『ふん!』

『やっほー!』

『……』


 ベンツとガンマは楽しそうに身体能力強化の魔法を使って遊んでいる。

 二匹ともそれをすぐに使いこなしており、今は自由に駆け回っている最中だ。


 ベンツまじ速い。

 ハエかよ……流石高級車。

 ガンマの馬鹿力怖い。

 鬼かよ……普通に木をなぎ倒すじゃん。


 ……あ、そうだ。

 魔力総量の確かめ方あるじゃん!

 限界まで貯めたらどれ位ってのがわかるでしょ!

 これがわかったら回復魔法を楽に使えるかもしれない。


 そう思い、俺は一気に周囲の魔素を体に取り込んで魔力に変換する。

 体の奥にある青い光がどんどん大きくなって行くのがわかった。


 だがしばらくしても光は大きくなるのをやめない。

 どんどん光が強くなる。

 俺はまだかなまだかなと思いながら、一気に魔素を吸収していった。


『!!?』


 すると、体に異変が起こった。

 激しい頭痛と吐き気を催し、すぐに吐いてしまう。

 体がだるくなり、ばたりと倒れて動けなくなる。


『!? 兄ちゃん!?』

『え!?』


 二匹がすぐに駆け寄ってきて、俺を心配してくれる。

 だが何を喋っているのかよく理解できない。


 意識がぼんやりとしていて、喋ることもできなくなった。

 インフルエンザの五倍は酷い頭痛と吐き気、そして気だるさが体を襲う。


 ベンツがすぐに何処かへ行ったようだが、それも気が付くことが出来なかった。

 ただただ苦しい状態が数分続いた後、すっと体が楽になったのだが、それと同時に意識を手放す。

 何が何だかわからない状況のまま、俺は眠りに落ちてしまった。



 ◆



 目を覚ますと、リンドが横で眠っていた。

 その隣にはベンツとガンマがいるが、この二匹も眠っている。

 

 そして、俺を睨みつけるようにして、オートが座ってこちらを見ていた。 


『オール。お前、魔素を吸収しすぎたな』

『……ごめんなさい。魔力総量を知りたかったんだ』

『……これは教えていなかった俺にも非がある。すまん』


 オートは怒ることなく、静かに横になる。


『……あのやり方では魔力総量を測ることはできん』

『そうなの?』

『あれは魔力の過剰摂取で起こる症状だ。使わずに貯め続けるとああなる』

『え、じゃあいつまで経っても満タンにならないんじゃ……』

『使って貯め、使って貯めを繰り返さないと満タンにはできない。身体能力強化の魔法で常に魔力を消費し続け、技を出す分より少し多めに魔力を吸う。これを続ける事で、初めて限度がわかる。今のお前では体力的に無理だ』


 俺は何て無駄なことをしたのだろうか。

 でも確かにそれ知ってたら、こんなことやらなかったなぁ……。


 それにしても随分と心配をかけてしまった。

 リンド、ベンツ、ガンマは俺が起きるまでこうして一緒に寝てくれていたのだろう。

 魔法に関する実験は、今度からオートに聞いてから試すことにする。


『だが……』

『?』

『お前の魔力総量はリンドの全盛期以上にある。俺が闇魔法でお前の体に溜まった魔力を抜いたから、それは間違いない』


 あ、やっぱり助けてくれたんですね……。

 ていうか、お母さん以上ってそんなにすごい事なのだろうか?


『それってすごいの?』

『ああ。お前の魔力はまだ満タンになっていなかったにも関わらず、リンド以上の魔力があったんだ。抜くのに苦労したぞ……』

『ご、ごめんなさい……』


 闇魔法で相手の魔力を抜き取る魔法は、自分の魔力も抜いた魔力と同じように消費する。

 自分で魔力を作り出すことが出来る種族だからこそ、このような芸当ができたわけだが……それで何回魔力を吸収したのか数え切れないほどだったという。


 いやほんと……お手数おかけしました。

 でもそれで魔力総量が多いってのがわかっただけいいか。


『二度とこんなことはしないように』

『はい……』


 やっぱよくないよね……。

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