1.11.特訓


 魔力総量を把握するのを諦めて二日後。

 俺たちは自分の身の丈に合った訓練をすることにした。


 そもそも、この狼は狩りの中で訓練をするのが普通なのだが、俺は狩りをすることがまだ許されて無いという事で、俺が勝手に訓練をしていたのに、この二匹が参加してきたという形になっている。

 まぁやる気があるのは結構なことだ。


 ということで、俺たちは魔法を駆使しながら、自分たちの得意を伸ばしている最中である。


 ベンツは足の速さ。

 あれから身体能力強化の魔法がわかってきたらしく、数日前よりもさらに早くなっている。

 そして……これが驚きなのだが、まさかの雷の魔法を使っての強化も始めていた。


 雷の魔法を自分に微弱ながら与え続ける事で、更に体の身体能力を上げているようだ。

 よくそんなことを想いついたなと思いながら、ベンツの動きを見ているのだが……黄色の閃光が走っている程度でよく見えない。

 目で追いつけません。


『ベンツー!』

『なぁに?』


 俺の目の前でピタッと止まる。

 体は雷を微弱に纏っているため、毛が逆立って少しかっこよくなっていた。

 近くに来ただけでピリピリとした電撃がこちらまで飛んでくる。


『ちょ、ちょっと雷止めて……』

『あ、ごめん』


 ベンツは電撃を止めると、毛が元に戻る。


『雷ってどうやって使ったらいいの?』

『んー……と、普通に放つ分には加減なしでいってもいいよ。僕みたいに体に纏うのは、慣れない限りしない方がいいと思う』


 まぁ確かに、自分に雷の魔法を当て続けるなんて、相当な集中力が必要だ。

 そう簡単に真似できるものではないだろう。

 ……ベンツの場合、動物的直感で動いているだけかもしれないが。


『わかった。ありがとうね』

『いいよ~』


 そう言うと、ベンツはまたどこかへ行ってしまった。

 マジで速すぎる……。


 次にガンマ。

 ガンマは元から強かった自身の力を生かし、更に肉体の強化に励んでいる。

 何をしているのかというと……。


 ズン……ズン……。


 お手で地面を潰しています。

 やめてください可愛いのに。


 前までは木や岩で練習していたのだが、どうにも自然破壊の行為が目立ち、群れからお叱りを受けたため、殴っても問題ない地面を相手に鍛錬を続けている。

 潰れれば潰れるほどどんどん固くなっていく地面は、ガンマにとっては良い特訓相手であった。


 あの小さい体の何処からそんな力が湧いてくるのか……。

 これが魔法である。

 しかし、ガンマは肉体一つで鍛錬するのが好きなのか、身体能力強化の魔法以外は使っていない。

 せっかく火属性魔法の適性があるのに、使っていないのだ。


 どうしてかと聞いてみると……。


『あっついの嫌だ』


 とのことだ。

 適性のある魔法には、それなりの耐性もあるはずなのだが、狼の世界では火などという物は使わないし、なんなら自分の体温より高い食べ物もない。

 動物はみんな猫舌だというし、火自体無縁の物なのだ。

 嫌がるのも無理はない。


 だけど……かっこいいと思うんだけどなぁ~!

 絶対かっこいいよ!

 ガンマの毛並みって灰色でしょう?

 煙の色とほぼ一緒ですよ? 炎使う狼とかめちゃくちゃかっこいいじゃん!


 何とかして使わせたいなぁと考えるが、まず自分の事もちゃんとしないといけない。

 そう、一番の問題は俺です。


 なんせ俺は全属性に適性がある。

 使えない魔法はないのだが、回復魔法以外に長けている魔法がない。

 全部使っていたら絶対に器用貧乏になるだろう。


 だから、まずは一つの魔法を集中的に鍛えていこうと思ったのだ。

 しかし、どれから鍛えていこうかと悩んでいるのです。


 雷はベンツが使っているし、ガンマは使ってはいないが火属性魔法の適性がある。

 出来れば、この二人の適正魔法以外から選んでいきたい。

 何かあった時、サポートが出来るような魔法をまずは覚えたい所だ。


 オートから、この世界にある全ての魔法について聞いてみた。

 火、水、雷、風、土、闇、光、回復、全魔法。

 因みに、光魔法と回復魔法は違うらしい。


 光魔法はアンデットに有効な魔法だったり、闇魔法に対抗する一番有効な魔法である。

 一方回復魔法は、その名の通り回復するためだけの魔法。

 回復魔法は光魔法に属するようなものだと感じるが、この世界では別れているようだ。


 知らんかった。


 さて、俺はどれの魔法から特訓していこうかな……。

 残っているのは水、風、土、闇、光だ。

 んー…………まずは教えてもらえそうな風からやろうかな。


 他の若い狼たちは風属性の魔法しか使えないらしい。

 お爺ちゃん狼は土と闇、お祖母ちゃん狼は水の魔法を使うことが出来るようだ。

 やっぱり風属性の魔法が多い。


 風属性魔法の特訓が終わったら、お爺ちゃんお祖母ちゃん狼から他の魔法も教わりたいと思う。

 という事で……。


『お父さーん!』


 俺は風魔法を教わるべく、オートがいるであろう方向へと、走っていったのだった。

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