1.9.魔法
『起きろ起きろー!』
『『わあああ!?』』
両腕両足に力を入れて、ベンツとガンマを頭で転がしていく。
顔面でモフモフを堪能する。
だがそれも一瞬のことで、すぐに二匹からの攻撃を喰らった。
『『てやぁああ!』』
『ふべぇ!』
転がっていたベンツが、回転に合わせてジャンプして俺の背中に乗っかった。
急なことで驚いた俺は、簡単に潰されてしまう。
その瞬間にガンマが俺の頭を全力で押さえつける。
完全に身動きが取れなくなってしまった……。
『降参……』
そう言うと、すぐに二匹はどいてくれた。
少し体をフルフルと振ってから、静かに座る。
『兄ちゃん朝からどうしたのさ』
『今日から魔法の訓練だぞ! 楽しみに決まってるじゃないか!』
『えー……そうかなぁ……』
お父さんであるオートから、今日から魔法を教えてやると約束してくれたのだ。
俺はそれが楽しみで仕方がない。
だが、ベンツとガンマは魔法という物にあまり関心が無いようだ。
俺としてはどうしてそんなにも関心が無いのか、小一時間ほど問い詰めたい所ではあるのだが、そんな時間があったら魔法を練習したい。
だが、俺だけしか関心がないというのはなんだか寂しいので、とりあえず熱弁してみる。
『いいか! 魔法ってのはすごいんだぞ! できないことを可能にしてくれるんだ! 俺たちでも使える遠距離攻撃! そして強力な技! ロマンでしょ!』
『……兄ちゃん何言ってるかわからない』
『俺も~』
『うせやん』
何も響かなかったようだ。
恐らくこれは……伝え方が悪いのだろう。
この二匹に関心が向くように……魔法に興味を持ってもらういい言い方は……。
『! 魔法でベンツの足がもっと速くなったり、ガンマの力がもっと強くなるかもしれないんだぞ!』
『『ええぇ!?』』
おっしゃ喰いついたぁ!
『だから言ったろ! できないことを可能にしてくれるって!』
『魔法ってそんなにすごいの?』
『当たり前だろぅ!』
『やる気出てきた!』
なんとか興味を持たせることに成功した。
これで切磋琢磨しながら魔法を習得できる。
やっぱり一緒にやってくれる奴がいないと楽しくないからな!
これは必要なことだ。
でも……もしそんな魔法はないって言われたらどうしよう……。
それだけが心配。
集合場所は洞窟の前。
ここで教えてくれるらしいので、俺は一目散に外に向かって走っていく。
思えばこの体にも随分慣れたものだ。
ちゃんと走れるようになったし、動けるようにもなった。
体の大きさは、やはり俺の成長速度が少し早いのか、一番大きい。
まぁ……お父さんがあれだからなぁ。
でっかくなっちゃうんだろうね。
まだまだ大きくなれるだろうけど、そんなことより魔法だー!
外に出てみると、すでにお父さんが座って待っていてくれた。
匂いでわかってはいたが。
『来たな』
『はいっ!』
『兄ちゃんまって~』
後ろからパタパタとベンツとガンマが走ってくる。
そして、俺の両サイドにぴったりとくっついてお座りをした。
何故くっつくのだ。
『では、お前たちに今日から魔法を教える。これは狩りにとても重要な物だ。しっかりと覚えておけ』
『はいっ!』
『では一番初めに、風刃を教える。あの鳥を狩った時の技だな』
オートは俺たちに見せるように片腕を上げ、爪を出して軽く振った。
すると、地面に爪で引っ掻いたような跡が出来る。
軽く振った程度でこの威力だ。
全力でやれば、どれほどの威力になるのか見当もつかなかった。
『魔力を爪に籠め、風を斬るイメージで爪を振り下ろせ。大切なのはイメージと、魔力を籠める事だけだ』
意外と簡単?
あ、いやでも魔力って……どうやって籠めるんだろう……。
『お父さん、力の強くなる魔法とかないのー?』
『そうそう、足の速くなる奴とか!』
『これが基礎だ。基礎をしっかりしておかないと、そんなものはできるようにならん』
その言葉からして、二匹の求めている魔法はあるという事になる。
それに気が付いたベンツとガンマは、一生懸命地面にペチペチとお手をし始めた。
いや可愛すぎるんだけどナニコレ。
よ、よし、とりあえず俺もやってみよう。
イメージは爪の軌道上に、刃が飛んでいく様を。
鎌鼬みたいな、アニメとかでよく見る斬撃を想像して……手に力を込めて振る。
ぺちっ。
『……』
俺も二匹と同じように地面にお手をしてしまった。
イメージは絶対的に完璧だと思うのだが、やはり魔力という物がわからない。
分からない物を籠めろというのは難しいことだ。
何かわかるようなものがあればいいのだが……。
……考えるより聞いたほうが早いな。
『魔力ってどうやって籠めるの?』
『周囲にある魔素を感じるのだ。集中して、光を想像してみろ』
オートにそう言われ、俺は目をつむって集中してみる。
青白い物はまだ見えない。
オートは感じろといったので、目に見える物なのではないかもしれないが、それでも見えない何かを見てみようと集中する。
すると、体の中に小さな白い光と、青い光が見えた。
その光はとても弱弱しく、今にも消えそうな蝋燭のようだ。
それに気が付くと、目に見えない小さな光が周囲を漂っているように感じることができた。
これがオートの言っていた魔力だろうか。
『感じ取れたら、それを吸い込め。すると光が大きくなる』
大きく息を吐いて、また大きく息を吸ってみる。
すると、周囲にあった魔素が体の中に入ってきて、オートの言ったように体の中にあった青い方の光が強くなった。
『これは意識しないとできない芸当だ。今度は補給した魔素を腕に籠めるんだ。移動させるように』
光を少し分け、それを腕に送っていく。
イメージ出来れば意外と簡単な作業で、すんなりとできた。
腕に魔力が溜まったことを確認した俺は、もう一度腕を振るって風刃を放ってみる。
ギャリッ!
振るった爪に軌道上に、深々と爪の跡が地面につく。
それは先ほどオートが放った風刃よりも強力で、俺の放った風刃は地面を抉り取っていた。
『ほぇ!?』
『『ええええええ!』』
『おお、意外と早かったな』
オートはこれくらい普通だといった風に、落ち着いてオールの放った風刃を見ていた。
それと違って、ベンツとガンマはそれを見て驚いている。
いきなり目の前でこんなのを見せられて驚かない人はいないだろう。
で、でもできたぁ~~よかったぁ~~!
『オール。何色の光を見た?』
『え……っと……。青と白?』
『ほぉ! 全属性と回復魔法か!』
え、なに?
ぜ、全属性と回復魔法……?
『青色は全ての属性の魔法が使える魔力の光。白色は回復魔法を得意とする者の光だ』
『……? 全属性の中に回復魔法もあるんだよね? じゃあなんで二つも光があるの? 一つでいいはずなのに』
恐らくだが、全属性の中に回復魔法も入っているはずだ。
だったら青色の光だけでいいはずなのに、なんで白色の回復魔法の光が別にあるのだろうか。
『お前の中で、特に適性のある魔法が回復魔法なのだろう。俺も青色と緑色の光がある』
『お父さんもなの?』
『そうだ。青の光を持つ奴は、一つ他の色の光がある。俺も他の魔法より風魔法の方が威力があるんだ』
割と親切だな……。
全属性魔法の中で、一番適性のある物を教えてくれるんだからな。
じゃあ俺は回復魔法が得意なのか……。
『リンドが回復魔法を使える。後からリンドの所で教えてもらえ』
『おおー……! 分かった!』
白色の毛並みの狼は回復魔法が絶対に使えるのだろうか……。
でも教えてもらえるのはとてもありがたい。
あとで教えてもらうことにしよう。
『『うぉおおおお!』』
ベンツとガンマは、俺が魔法を使えたことに焦りを覚え、先ほどよりも力を入れて地面をペチペチと叩き始める。
まずは光を見れるようにならないと、魔法が使えないのだが……。
まぁ、それはやっている内に気が付いてくれるだろう。
……お父さんが俺に言っていたことを聞いていなかったのだろうか……。
まぁ、頑張って欲しい。
『『うりゃああああ!』』
いや可愛いなおい。
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