1.7.狩り見学


 少し怖い思いをした一か月後……。

 俺たちは外に出してもらえる許可を貰った。


 理由はそろそろ狩りを覚えさせるためだという。

 なので今俺たちは、狩りの見学をするため、群れの仲間と一緒に狩場へと進んでいる最中だ。


 そういえば初めて群れの仲間を見た気がする。

 全員で十二匹。

 俺たち三匹と、父親と母親を除くと七匹となる。


 そのうちの二匹はお爺ちゃんとおばあちゃん。

 後の五匹は若いが、父親よりは若くないらしい。

 やはり強い個体が群れのリーダーとなるようだ。


 それと……何故か知らないけど、お父さんはお爺ちゃん狼や他の狼の名前を教えてくれません。

 何故なのか聞いてみたのですが、無視されました。

 本当になんで。


「バフバフ」

『大丈夫だよ~』


 言葉はやはりわからないのだが、言っていることはなんとなくわかる。

 妙な感覚だが、流石にこれくらいの意思疎通ができないと同じ種族じゃないもんね。

 あの鳥とは仲良くできる気がしないけど。


 因みに、さっきのお爺ちゃん狼は、寒さは大丈夫かと言ってくれた。

 子供想いのめちゃくちゃいいお爺ちゃんです。

 

 それにしても隊列が面白い。

 お爺ちゃん狼が一番前を歩いて、その後ろに俺たち子供狼と、他のオス狼が並んでいる。

 そしてその後ろにメス狼が並んで、最後尾にお父さんが歩いているようだ。


 てっきりお父さんと一緒に歩くと思っていた俺は、少しびっくりした。

 これが普通の歩き方なのだろうか。

 まぁ……周りに沢山強そうな狼がいるので、俺たちは堂々と歩いていくことが出来てはいるのだが。


『あとどれくらいなの?』

「バウ」

『あとちょっと? それさっきも聞いたんだけど……』


 あの洞窟から随分と歩いた。

 この当たりは確かにお父さんたちが狩りをしている場所の近くだったはずだ。

 だが子供の体でここまで歩いて来るのはいささか大変だった。


 もうしばらく歩いていくと、お爺ちゃん狼が立ち止まる。

 それに気が付いた狼たちは、俺たちを囲むように立ち回り始めた。

 

「ワフゥ……」

『兄ちゃん……ぼ、僕ちょっと怖いんだけど……』

『えぇ……お父さんに比べればましでしょ?』

『……あ、確かに』


 そんな簡単に恐怖を克服しないでもらいたい。

 まぁ……動けるようになってくれるのならば別にいいが。


 そういえば何を狩るのかまだ教えてもらっていない。

 一体何を狩るのだろうか。


『お前たち』

『はい?』

『絶対に俺のそばから離れるんじゃないぞ。此処にいろ』

『『『はい』』』


 流石にこんなところで自分勝手に動いたりはしない。

 動いたら最後、お父さんの鉄拳制裁が下ることが確定しているのに、どうして動くことが出来るだろうか。

 俺たちはお座りをして待機する。


 落ち着いたところで、周囲を確認してみると、どうやらここは小高い山の上だったようだ。

 今いるところは、目の前に少し高い崖があり、そこからは狩りの様子が見れるようになっていた。

 狼たちは下に降りて狩りの準備をしていく。


 狼たち以外に濃い匂いが、三つほどあった。

 その内の二つは小さい小動物の匂いだが、もう一つの匂いは非常に大きい動物の匂いだという事がわかった。

 これがわかるのは俺と父親だけだ。

 遺伝なのかどうかはわからないが、匂いだけでここまで嗅ぎ分けられるという事はほとんど無いらしい。

 なのでベンツとガンマは、何かがそこにいるという事くらいはわかるらしいのだが、俺が認識している大小がわからないらしい。


 そして、狼たちは大きい匂いのする方へと向かっていた。


『あっちの大きいのを狩るの?』

『そうだ。大丈夫、あいつらならやってくれる』


 お父さんは仲間を心底信用しているようで、そう言いきった。


『で……結局何を狩るの? あの匂いは何?』

『お前たちも覚えておけよ、ベンツ、ガンマ。あれは……』


 何かを言おうとした瞬間、大きなだみ声のような汚い声が響いた。

 一体なんだと思い、崖の下を見て狩りの様子を見てみると、何か大きなものがこちらの方に向かって走っているのが確認できる。


 それは……二足歩行で走り、長い首があって丸太のように太い足が生えていた。

 

 その姿はダチョウを思わせる姿だったのだが、口が三つに開いてそこからだみ声を発している。


「ガーーーーーーー!」

『あ、あれってまさか!』

『オールの言う通り。前に洞窟に侵入してきたあの鳥の親だ』

『『うそぉ!?』』


 姿を見て思い出した。

 一ヵ月前にあの洞窟に入ってきた小さな鳥と、姿かたちがとても良く似ていたのだ。

 口は三つに割れていなかったが。


 てかあんなデカくなるの!?

 え、軽く十メートルくらいありますよねあれ!

 えっと!? 俺たちの大きさ……じゃなくて、仲間の狼の大きさは……。


 相手の爪にも及ばねぇじゃねぇか!

 いやあいつの爪が異常にデカすぎるだけなんだけどね!

 山だよ山! 山が動いてるよこっわぁ!!


 明らかに不利だと思われるこの戦い。

 一体どうして勝つつもりなのだろうかと思い、そのまま上から見学を続ける。

 ベンツとガンマもこれからどうしていくのか気になるようで、俺の両サイドに座ってその様子を眺めていた。


 というか……そもそもあの鳥の様子がおかしい。

 明らかに足元にいる狼は自分より小さいのに、まるで狼から逃げるようにして走っているのだ。


 これはどういうことなのだろうか。

 そう思って注意深く狼の様子を見てみると……何か白い物が大鳥に向かって飛んでいるのがわかった。


 どうやらそれは攻撃のようで、大鳥に当たると当たった部分が斬れた。

 そこから鮮血が飛び散って、自分の毛を真っ赤に染める。

 見たところ、鎌鼬のような物なのだろう。


『魔法?』

『知っていたかオール。あれは風刃だ。俺たちの種族が一番得意な魔法だな』


 初めて魔法という物をしっかりと見た気がする。

 これを見てテンションの上がらない人はいないだろう。


 まじか魔法!

 すげぇええええ!!

 俺もあんな魔法習得できるように成るのかな!


 いや、習得しなければならない!

 そうだ! 俺は魔法を習得するために頑張るぞぉおお!


『……兄ちゃんどうしたの?』

『! ……いや、なんでもない』


 何事もなかったかのように、狩りの様子を見て誤魔化す。

 ちょっと恥ずかしい。


 そしてどうやら、狩りは終盤へと向かっているようで、すでに鳥はヨタヨタと歩いていた。

 三匹の狼が一斉に風の魔法を使う。

 すると、それは一つに固まって大きな刃になって、鳥の首に直撃した。


「──!!」


 首の骨ごと切断して、鳥の頭は皮一枚で繋がっている状態になる。

 その瞬間に、大きな巨体を持つ鳥は倒れ込み、地響きを引き起こす。

 それはこちらまで響いて来たようで、草木が揺れる。


 完全に息の根を止めたことを確認した若い狼は、遠吠えを上げて獲物を狩ったことを狼たちに伝えてくれた。


『これが俺たちの狩りだ。お前たちも出来るようになるのだぞ』

『はい!』

『『嘘でしょ?』』


 ベンツとガンマは自分があんな動きや魔法が撃てるビジョンが見えないのだろう。

 だが俺はできる自信しかない。

 あの動きも真似できそうだ。


 この先どんな訓練が待っているのだろうかと怯える二匹と、これから魔法が使えると思うと居ても立っても居られなくなるオールだった。


 頑張るぞー!

 

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