1.4.一ヵ月


 転生して一ヵ月。

 俺はようやくこの世界の事と、家族のことを理解し始めた。


 まずこの世界の事。

 洞窟から一切出ることを許されていないので、あまりわかってはいないのが現状ではあるが、やはりここは異世界であるという事だけは理解できた。

 母親狼も普通に魔法を使うし、俺たちが少し怪我をしたときなどは、癒してくれる。

 あれは本当に驚いた。

 だがまだ俺は魔法を使うことができない様だ。


 それと、この世界の魔物は頭が良いのか、もしくはこの狼たちの頭が良いのかはわからないが、俺の親は俺たち三人……じゃなくて三匹に名前を付けてくれた。

 魔物に名前の概念があるとは思わなくて驚いたが、こうして名前を付けてくれるのは嬉しいことだ。


 俺はオールという名前を貰った。

 どうやら俺が長男だったらしく、三匹の中で一番体が大きい。

 今は毛もちゃんと伸びて、少しくらい寒いだけであれば全く問題なく耐えれるようになっている。


 そして次男はベンツ。

 毛並みは黒いし黒塗りの高級車ですかね。

 三男はガンマ。

 俺の次に体が大きく、毛並みは少し大きくなったと同時に色が変わって灰色になった。

 綺麗な色だ。


 因みに、二匹ともオスである。

 で、兄弟たちなのだが……。


『兄ちゃん兄ちゃん!』

『にーいちゃーん!』

『ふべぇ!』


 体も随分と大きくなり、三匹でじゃれ合っても問題がない。

 洞窟の中で常に一緒に居るので、こうしてじゃれつかれる。

 この二匹はお兄ちゃんっ子のようで、いつも兄ちゃんと呼びながら俺を奪い合う。


 そして、かくいう俺なのだが……。


『このぅ! こうしてくれる!』

『『きゃー!』』


 俺は弟っ子だったようです。

 こんな毛玉が遊びに飛び掛かってくるなんて可愛すぎるでしょうよ!

 こうして押し倒してから全力でモフモフします。

 とは言っても頭や手を押し付けて転がすことしかできないんだけどね。


 それに、じゃれ合いはこの小さい体では結構体力を使う。

 俺もまだこの体に慣れ切っているわけではないし、これは良い特訓になる。


 ばったんばったんと暴れまわって、疲れたところで三匹でへばるのが最近の日課だ。


 この中で一番体が大きいのは俺なのだが、一番力の強いのはガンマだ。

 いつも一度は押し倒すのだが、またガンマに押し返されてしまう。


 それと、ベンツは意外とすばしっこい。

 洞窟なので全力は出し切れないだろうが、それでも俺の押し倒し攻撃や、ガンマの押し倒し攻撃を回避したりする。


 俺はというと…………あんまり目立った力はありません。

 前世の記憶があるという事くらいしか、取り柄はないです。

 勿論そのことは隠しているけどね。

 まぁ、俺は前世の知恵を利用して、この二匹より強くなって見せますよ!


『ただいま』

『お母さんだー!』


 三匹でへばっていると、母親狼が帰ってきた。

 口には何かの肉が咥えられている。


 一か月たって、まともに食事を取れるようになった俺たちは、すでに乳離れをして、親が狩ってきた肉を食べている。

 とは言ってもまだ力がないので、母親に千切って分けてもらっているのが現状だ。

 時々自分で食べようとは試みるのだが、どうにも上手くいかない。


『今日こそ!』

『俺もー!』


 だが、とりあえず初めは自分で食べれるようになるため、自力で肉を引きちぎって食べようとする。

 しかし、この肉はなんとも固い。

 筋張っているというのか、引きちぎるのに相当苦労する。


 この中で一番力のあるガンマでさえ、まだ千切れないのだ。

 俺がやっても無駄だろう。

 まぁやるんですけどね!


『ふぬぬぬぬぬぬ……ムリィ……』


 やっぱり無理でした。

 兄弟たちも無理だったようで、それで諦めたのを確認した母親が、代わりに千切って食事を与えてくれる。


 で、この母親なのだが……名前をリンドという。

 やはりリンドは、アルビノのようで、全てが白い。

 実は俺もそうなのではないかと思っているのだが……アルビノは総じて寿命が短いと聞く。

 それに少し怖くはなるが……。


 今はそのようなことを考えている暇があれば、生き抜くためにできることをしようと考え直した。


 因みに、父親はやはりあの黒い大きな狼だったようで、名前をオートというらしい。

 オートは、俺たちのいる群れのリーダーで、他に七匹の狼を使役している。

 俺たちを合わせて、十二匹の群れだ。


 勿論この一ヵ月のうちで、他の群れの仲間にも出会うことはあった。

 だが、言葉が通じなかったのだ。

 それは他の仲間たちも同じだった。


 どうやら、家族意外とは意思疎通を取ることが出来ないらしい。

 匂いで誰が誰なのかということはわかるようになったのだが、どうしても言葉はわからなかった。

 何を言いたいのか、というのはなんとなくわかるが。


 だが群れのリーダーであるオートは、他の仲間とも意思疎通ができるらしい。

 流石リーダーである。


『お母さん。俺もお父さんみたいに魔法使えるかな』

『貴方ならできるわオール。でもまずは狩りが出来るようにならないとね』

『そうか……! ベンツ! ベンツ獲物役な!』

『ええー!?』


 食事を終えた後、俺たちは狩りごっこをすることにした。

 ベンツは一番足が速い。

 獲物役にはぴったりである。


『行くぞ行くぞ~』


 主にモフモフするために。


『俺も~!』


 ガンマも狩りごっこに参加し、ベンツは逃げ回る。

 今度からこれを続ければ、狩りにつれていってもらえるかもしれない。


 わぁわぁと叫びながら逃げるベンツを追いかけ、俺は程なくしてモフモフを堪能したのだった。



 ◆



 気が付いたら俺たちは寝てしまっていたようで、またいつものように団子になっている。

 気が付いたら寝てるってやばいよね。


 一匹だけ起きても、特にやることがないので、俺は兄弟を枕にしてまたぼーっとする。

 こういう時は意外とよくあり、暇な時間が出来るのだ。


 こんな時は外から漂ってくる匂いを嗅いで、気持ち程度に外の様子を把握してみたりする。

 母親と父親の匂いは覚えているので、大体何処にいるのかというのは把握しているのだ。

 他の群れの仲間も場所はわかるのだが……個体を特定することはできない。


 今、群れに大きな動きは見られない。

 だが、父親のオートがこちらに帰ってきているようだ。


『ベンツ、ガンマ。お父さん帰ってくるよ』


 動物はやはり眠りが浅いのか、意外とすんなりと起きてくれた。

 めちゃくちゃ眠そうなところも可愛くはあるのだが、父親が帰ってくるのでにやけたくなるところをなんとか抑えて、静かに座っておく。


 兄弟たちの目が完全に冷めないまま、オートが帰ってきた。

 オートは口に何かを咥えていた。

 おそらく食事だろう。


『起きていたか』


 オートはぼとりと、俺たちの前にその咥えていた物をおく。

 何かなと思いそれを見てみると。


 人の手でした。


『ぎゃあああああ!』

『!? ど、どうしたオール!』

『にいちゃん!?』


 いや! いやいやいや! まてぇい!

 人の手やないかいっ! 人やないかい!!


 あ、人ってやっぱりこの世界にいるんですね。

 いやそうじゃなくて!!


『兄ちゃん?』


 そこで気が付く。

 俺は今狼だ。

 今まで人の手など見たことないし、ここで人間のことを知っているとは言えない。

 とはいえ、この人の肉を食べるのは流石に無理。

 なんとか誤魔化さなければ。


『き、気持ち悪い……』

『む……そうか。今度はこれでない物をとって来よう』


 意外とお父さん優しい。


 でも! 人の肉は! のーせんきゅー!

 

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