第48話

「気分はどう?」

 玲が心配そうに覗き込んでいる。

「ああ……なんだか頭が痛いな」

「今どんな感じなのかしら。その……」

 彼女の言いたいことは分かっていた。

「分かるよ。ただ……何て言ったらいいのかな、不思議と落ち着いてるんだ。特に何が変わったわけでもないけど。そうだな、強いて言えば……視力がよくなったような気がするよ」

「えっ?」

 俺たちは顔を見合わせて大笑いした。

 心から笑ったのは随分久しぶりのような気がした。

「本当に悪かった。なんとお詫びしたらいいのか……」

「いいのよ。私も自分自身を見つめ直すいい機会になったわ」

「そう言ってもらえると救われるよ」

 二人ともなんとなく桜を見上げた。

「俺、九州に帰るよ」

「ええ、そうするんじゃないかと思ってたわ」

「お前は本当に何でも分かるんだな」

「顔を見ればね」

 今俺がどんな顔をしているか、気にするやつはもういない。

「予知夢、か……」

「どんな夢を見ても、それは私たちのせいじゃない。ただ単にこれから起こることをあらかじめ知るだけで、何かを引き起こしてるんじゃないわ。だから、何もあなたのせいじゃなかったのよ」


 ――俺のせいじゃない

 姉や友達、母親が死んだのも

 ただ現実を先に知っていただけ……


「ありがとう。またいつか会えるかな」

「そうね……いつか桜の咲く頃に」


こうして長かった俺の悪夢は幕を閉じた。

しかし、彼女の悪夢はまだ終わっていなかった。


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