夢の真相
第41話
「じゃ、夢はやっぱりあなたが?」
「そうなる……かな。ただ、根底には常にあいつの意識があった。身近な人たちの死、君への想い。そこに僕の思いが加わった」
「桜……ね」
――桜
何回かでてきたが、全く何のことだか分からない
「そう、君はいつも桜を見ていた。そして僕は君のその背中をいつも見ていたんだ」
「なんとなく分かってきたわ」
「君は本当に聡明で――そして、とても強い女性なんだね」
「気が強いだけよ」
彼女は涙を拭き、すっかり冷めたコーヒーを一口飲んだ。
「私に見せた夢は、あなたたちが経験した過去になぞらえたのね。それも夢を見て、それが現実となる予知夢として」
「ああ。実際にはあいつが予知夢を見たのかどうかは分からない。ただの偶然だったかもしれない」
それは俺にも分からない
偶然だった……と思いたい
「どちらにしても身近な人間を続けて亡くす。それが自分の見た夢のとおりに……その時の悲しみというのは、もう一人の自分を生み出してしまうほどなんだ」
「その悲しみを、私に与えたのはなぜ?」
「それは、君に見せた夢の中で僕が言ったとおりだよ」
「私にとっての大切な人が死ねば、寂しくなって一緒に――って言ってたわね」
どうもよく分からない
桜はどう絡んでくるんだ?
「ああ、そうか。過去は思い出せるけど、僕だけの記憶は彼に譲らないといけないんだね」
「それだけじゃないわ。私にもまだ分からないことがあるし、聞きたいこともあるのよ」
「まぁいいさ。約束だから何でも話すよ」
「ありがとう。それに……たぶんだけど記憶は共有できるわ」
記憶の共有――俺には何のことか分からないけど、この二人には分かっているんだろう
羨ましいような、悔しいような……
「そうなのかな。僕はきっとそれを拒むだろうな」
「あなた……まさか――」
「先を急ごう。悔いは残したくない」
玲がとても複雑な表情をした。
「君にはお姉さん、親友、お母さん――あいつの体験した順番に、それぞれ死んでいく夢を見せた。内容はほとんど事実のままだよ」
「本当につらかったわ。あなたたちはもっとつらかったのね」
「そうだね。ただ僕にはつらいとか悲しいという感情があまりないんだよ。その感情はあいつが持っている。その器から溢れ出した時に僕が出るんだ。だから僕はそれに耐えられるように負の感情……というか全ての感情が薄いんだよ」
なるほど
それでこんなに冷静なのか
「それは――悲しいことね」
「悲しい? そうなのかな」
少しの間、彼は考えていた。
「そう……かもしれない。最初に感情というか感覚が分かったのは君との夢の中だった」
「それは、私があなたの声を聞いてみたいと思った時ね」
「ああ、君は……分かってくれていたんだね。だからあいつにあの夢を見せてくれたんだね」
「ええ。今度は――」
彼女が俺ではなく彼を見つめて言う。
「今度の涙は、あなたが流しているのね」
その顔は、何だかひどく困っていた。
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