第35話

 なんだろう。思い出そうとすると気分が悪くなる。

 俺は、彼女の話を待つことにした。

「それにしても、よく俺の実家が分かったな」

「そこはほら、私の力で。なんてね」

 重苦しい雰囲気を変えようと、彼女がわざと明るく振る舞う。

「私の父と課長って、実は幼なじみなの。薬品のこともあったし、あなたのことを課長に相談したのよ。そしたら数年ぶりに父から連絡があって、日曜日の朝に三人で会ったの。課長も少し前からあなたの様子がいつもと違うと気付いてたらしくて、私の計画に協力してくれることになったの。実家の住所なんかは課長が調べてくれたわ」

「なるほどな」

「父は反対したのよ、夢を作って見せるなんてやり過ぎだって。それで逆に火が点いたっていうか……ごめんね」

 彼女が笑いながら謝るのが何だかおかしくて、一緒に笑った。

「それから課長には、私を捜すために中川君には休むように段取りしてもらって、夢を見せ終わった一週間後には、私もあなたも職場に復帰するつもりだった」

 彼女が急に真面目な顔つきになる。

「でも、あなたの作った夢の内容や土曜日の様子、少し前からの会社での様子なんかで少し気にかかっていたことがあって……」

「様子がおかしかったかどうかは自分では分からないけど、それと実家が何か関係あるのか?」

「それだけじゃないわ。私が夢のシナリオを作るためにあなたの気持ちを探っていたときの疑問と、それが重なったの」


 それ――とは、俺が忘れている何かなのか……


「実家にはお父さまがいらしたわ」


 親父……だけ?


「そこで聞いたの。中川君が忘れたくて封印してしまった過去を」


 過去を封印?


 じわじわと恐怖が背筋を駆け上がってくる。

「あなたは――」

 言葉が途切れたが、思い直したようにすぐ続けた。

「あなたは大学時代にお姉さんと親友とお母さまを立て続けに亡くしている。それも、自分が見た夢のとおりに」

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