第29話

「…………」

 俺は動くことも口を開くこともできなかった。

 一週間行方の分からなかった彼女が今、目の前に立っている。

「私を見つけ出してくれてありがとう、と言うべきなのかしら?」

 にっこりと微笑んでいるにもかかわらず、彼女の目は冷ややかだった。

「それにしても……ひどい顔ね。まあ、気持ちは分からなくもないけど」

 朝から吐きまくり、何も口にしないままずっと考え事をしていた俺は、たしかに憔悴した顔をしていた。

「とりあえず中へどうぞ。今から長い話をしなくちゃいけないんだから、立ち話もなんでしょ」

「長い……話……?」

「ええ。長い長い……夢の話よ」

 俺に背を向けて彼女がつぶやいた。

 玄関に入り靴を脱ぐ。

 初めて入る部屋なのに、不思議と見覚えがある。

「いつものところへ座ってて。コーヒーでもいれるわ」

 言われるままにソファーへ座り、やっと気付く。


 いつものところ――初めて入る部屋にそんな場所があるわけがない

 それなのに俺は……


 これは一体どういうことなのか。

「さて……あなたが頼まれたのは私を捜し出すこと」

 向かい側のベッドに、いつものように腰掛けながら彼女が言った。

 そうだった。

 彼女の課長から頼まれたのは、玲を捜し出すことだった。


 それならば俺の役目はもう終わったのか――


 少しほっとした様子の俺を見て、彼女はゆっくりと口を開く。

「まだ終わってはいないわ。本当に捜さなければいけないのは、中川君。あなた自身なのよ」

 俺は、急に首の後ろが熱くなるのを感じた。

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