第30話
「そうね……何から話そうかしら」
彼女は立ち上がり、ベランダのカーテンを開けた。明るい陽射しが部屋を満たす。
「順を追って話すべきか、それとも先に聞いておきたいことがある?」
ベッドに戻りながら彼女が尋ねる。
「俺は……俺はここに来てたのか? お前はずっとここにいたのか? 夢を……夢を見たんだ。みんなに会ったんだ。俺は……俺はお前に何をしたんだ?」
口をついて言葉が溢れてくる。
「何をしたのか。それを本当に聞く覚悟があるのかしら?」
俺の目をまっすぐに見つめて彼女が問う。
「俺は……」
その視線に耐えられず目をそらす。
俺はお前を捜してくれと頼まれて、そうしただけだ
それなのに――なぜ何をしたかなんて聞いたんだ
俺には自分で認識していない何かがあるのか。
怖い。
これ以上考えるのが怖い。
俺は――誰なんだ
その時、頭の中で玲の父親の声が聞こえた気がした。
「君は、君だ。他の誰でもない」
はっとした。
そうだ――迷ったときには思い出せと……
「みんなそのままの君を認めている。君のことが大好きだ」
課長の声も聞こえる。
「君自身を見つけ出すんだ。現実から目をそむけるな」
そうだった
最初からずっと逃げるなと言われて――
「大丈夫だ。君のせいじゃない。君のせいじゃないから、必ずここに帰ってこい」
このままの俺でいい
俺には――帰る場所がある
目の前の霧が晴れた気分になり、俺は顔を上げた。
その顔を見て「覚悟はできたようね」と、玲は少し意地悪そうに笑って言った。
「ああ、もう逃げないよ」
俺は、俺なんだ。
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