捜索終了
第28話
「うわっ!」
俺は大きな叫び声とともに飛び起きた。
「――うっ……」
たまらなく気分が悪い。
すぐにトイレに行き、吐いた。もちろん、二日酔いではない。
夢の中でのあの感覚を思い出す。途端に背中に悪寒が走り全身が震え、涙とともに胃液がこみ上げてくる。
何度も何度も吐いてすっかり胃が空になり、少し落ち着く。
ゆっくり立ち上がり、台所へ行き冷たい水で顔を洗う。
俺は――昨夜の夢を見たことがある
玲がいなくなって夢を見るようになって、最初の夢がこれに似ていた。
でも、そうじゃない。
俺は、あの夢を知っている。
なぜなら、あの夢は――あれは俺が……
しかしあれは、単なる夢だったはずなのだ。なぜ、こんな形で――。
なぜ、こんなことができるんだ。
「……あっ」
彼女の父親が言っていた――気が強すぎると。こんな方法でなくてもよかったんだと。
いや、でもこんなことが――でも、まさか……
「くそっ!駄目だ」
いくら考えても分からない。
行かなければ
会って話さなければ
俺が……俺でなくなってしまう
俺は玲のアパートを見上げながら、そう考えていた。
見上げた部屋のカーテンは、今日もきっちり閉められている。
最初に夢を見たのは、日曜日の夜だった。それから水曜日まで、毎日誰かが死ぬ夢を見た。
玲の隣に住んでいる男性が言った、俺が夜中に彼女の部屋に来ていた日。それが本当なら、その日には俺が夢を見ていたということになる。
しかし彼は、俺が最初に訪れたのは先週の金曜日だと言った。
先週の金曜日――もちろん夢は見ていない。
たしかその夜からひどい頭痛がして、週末はずっと寝ていたのだ。やはり、部屋に来ていたというのは別人なのか。
――分からない
分からないといえば、俺が見た夢。最初に見た夢以外は、なんとなく知っているのだ。
あれは――俺が考えた夢に似ている
似ているといっても、内容はずいぶん違う。
ただ、誰かが死ぬということと、その誰かが一致しているということだけ。しかし、あくまでも俺がふと考えただけであって、誰かに言ったり書き留めたりはしていない。
それがなぜ――同じ人が同じ順番で死んでいくのか……
いくら現実をあらかじめ夢で見ることができたとしても、人の頭の中を覗くことまではできまい。
――分からない
大体俺はなぜ玲のまわりの人間が次々と死んでいくことを考えたりしたんだろう。自分のことさえ分からない。
アパートの階段を上がり部屋の前まできて、俺は考えるのをやめた。
やめたというよりも、なんだか不安で嫌な感じで逃げ出したくて、他のことが考えられなくなったのだ。
このまま帰ろう。そう思ったとき、カチャリと音がしてドアが開いた。
そこには、最初に見た夢の中で桜の木の枝に吊るされていた時と同じ笑顔を浮かべた彼女が立っていた。
彼女はゆっくりと微笑みながらこう言った。
「――これでいいの? また……逃げ出すの?」
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