捜索四日目 ~父親の証言~
第18話
久しぶりにすっきりと目が覚めた。
体の疲れも取れている気がする。
「……うーん」
思い切り伸びをして、冷たい水で顔を洗う。
玲を捜しはじめてから、早く寝てもまるで徹夜したような疲れが残っていた。そして毎晩、誰かが死ぬ夢を見ていた。
そう毎晩――なのになぜ、昨夜は見なかったんだろう……
「まっ、いいか」
ぐっすり眠ったおかげで、いつもの調子に戻ったようだ。
さっそく、昨日玲の母親に聞いた住所へ車を走らせる。
ここから二駅程離れたところに父親は住んでいた。
少し離れた場所で車を降りたとき、携帯が鳴った。玲の課長からだった。
「もしもし」
「中川君、元気そうだね」
「はい、おかげさまで」
俺の元気は決して課長のおかげではないが、そう言ってみた。
「そうか。おかしいな」
「はっ? 何ですか?」
「いや、なんでもない。ところで、どうかな? 夜はちゃんと眠れてるかね?」
「はい。特に昨日は夢も見ないで朝までグッスリでしたよ」
「夢を見なかった? 昨夜は見てないのか?」
課長の声が、なんだか焦っているように聞こえた。
「それまでは毎日変な夢を見て、寝ても全然疲れが取れなかったんですけど、今日はすっきりですよ」
「……そうか。ところで父親には会ったのか?」
「これからです。もう家の近くまで来てて」
「中川君」
急に改まった感じで呼ばれ、少し驚く。
「必ず……いいか、必ず帰ってきてくれ」
「は? はい」
「君は仕事もあまりできないし、人の話もほとんど聞いてないくせに返事だけはとてもいい中川君なんだよ。他の誰でもない」
「……はあ」
「大丈夫だ。いいか、忘れるな。君のせいじゃない。君のせいじゃないから、全てが終わったら必ずここに帰ってこい」
「そうですね。今日が金曜日なので来週から出勤したいとこだけど、彼女がどこにいるか全く手がかりがなくて」
「彼女のことは心配ない。いいな、待ってるからな」
それだけ言うと、俺の返事を待たずに電話は切れた。
普段の俺なら、何だか腑に落ちなくても「まっ、いいか」で済ませていたが、今日は違う。心がざわざわする。
首の後ろがやけに熱い。
課長の最後の言葉――彼女のことは心配ない。
それなら、なぜ仕事を休ませてまで、俺に彼女を捜すように頼んだのか。
まるで課長は彼女の居場所を知っているかのような……
それでいて捜せ――帰ってこい、待っている
そういえば……
前にも何かおかしなことを言ってなかったか?
たしか……
「中川君……かね?」
必死で思い出そうとしていたとき、後ろから声をかけられ思わず「うわっ!」と叫んでしまった。
「あ、いや、驚かせて悪かったね。何だかボケッと立っているように見えたから、つい……」
玲の父親――らしき人が笑って言う。
「あなたは……」
「君の捜している玲の父親だ」
さっきまでの笑顔とは打って変わって、厳しい表情になる。
「この先に公園がある。そこまで歩きながら少し話そうか」
「……はい」
なぜだろう
俺は、この人を恐れている
いや、俺は怖がっていない。
よく分からないが、俺の中の何かが震えている。
「ところで中川君。君はあまり夢を見ない体質だね?」
「……はい」
「その代わりに――夢見がちではなかったかな?」
この瞬間はっきりと感じた。もう一人の俺が、震えている。
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