第17話
「あ……すみません」
涙がこぼれてしまっていた。
「あなた……もしかして――」
「ちょっと疲れてるのかも……あはは」
なぜ泣いたのか自分でも分からず、俺は笑ってごまかした。
「ところで、玲さんのお父さんは今どちらに?」
母親は少しだけ考えて
「そうね。離れていても、あの人が一番玲のことを理解しているのかもしれないわね」
そう言って、住所と電話番号を書いてくれた。
礼を言い、帰ろうと靴を履いたとき母親が言った。
「中川さん。私は玲が――あの子が今幸せでいるなら、もうここに帰ってこなくてもいいと思ってるんです。自分のことを誰も知らないところで、笑顔で過ごせているなら、それで」
俺は黙って頭を下げて、家から離れた。
なぜか、また泣いていた。
泣きたいわけではない。悲しいわけでもない。
彼女のこれまでのつらさや悲しみ、母親の娘を思う気持ちは痛いほど伝わってきた。でも、それで泣くような俺じゃない。
俺のじゃなければ――誰の涙なんだ
「くそっ……俺は頭がおかしくなったのか?」
その夜も疲れ切っていた。
横になった途端、眠気が猛烈に襲ってきた。
眠りに落ちる前に、アルバムの中の玲とその横に写っていた父親の顔が頭をよぎった。そして、その夜はなぜか夢を見なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます