第17話

「あ……すみません」

 涙がこぼれてしまっていた。

「あなた……もしかして――」

「ちょっと疲れてるのかも……あはは」

 なぜ泣いたのか自分でも分からず、俺は笑ってごまかした。

「ところで、玲さんのお父さんは今どちらに?」

 母親は少しだけ考えて

「そうね。離れていても、あの人が一番玲のことを理解しているのかもしれないわね」

 そう言って、住所と電話番号を書いてくれた。

 礼を言い、帰ろうと靴を履いたとき母親が言った。

「中川さん。私は玲が――あの子が今幸せでいるなら、もうここに帰ってこなくてもいいと思ってるんです。自分のことを誰も知らないところで、笑顔で過ごせているなら、それで」

 俺は黙って頭を下げて、家から離れた。

 なぜか、また泣いていた。

 泣きたいわけではない。悲しいわけでもない。

 彼女のこれまでのつらさや悲しみ、母親の娘を思う気持ちは痛いほど伝わってきた。でも、それで泣くような俺じゃない。


 俺のじゃなければ――誰の涙なんだ


「くそっ……俺は頭がおかしくなったのか?」

 その夜も疲れ切っていた。

 横になった途端、眠気が猛烈に襲ってきた。

 眠りに落ちる前に、アルバムの中の玲とその横に写っていた父親の顔が頭をよぎった。そして、その夜はなぜか夢を見なかった。


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