B1

「やはり脳があってはならなかった。人間はネズミや猿なんかよりも余程強欲だ。」

明らかに過剰な量が投与されるドーパミンを観測しながら博士は独白する。

『脳ナシ』は壊れにくい。目的を見つけ達成する。このサイクルが現世より圧倒的に早いため健全な充足感が尽きない。

『脳アリ』は壊れやすい。直ぐに快楽物質を求め、労せずして意識を溺れさせる。しかし強い意志があれば別だ。私の新しい世界を観察し続けたいという欲は半永久的に満たされることはないはずである。見どころがあるのは『脳ナシ』を打ち負かそうと躍起になる者。人間らしさを追い求める者。新世界の支配を志す者。強欲すぎるが故、まやかしの物質すら欲さない。

「『脳ナシ』になってくれれば中身を丸々観察できるのに。」

しかしこれは彼らの選択。現世で殺してしまうのは契約違反だ。お楽しみは最後まで取っておこう。

『脳ナシ』のプログラムは指数関数的に肥大化していく。意識を複製することは倫理的に長らく厳禁されており、人間を複製したのは5人の老人が最初である。5人だけであればプログラムの肥大が抑えられていた。人が増えれば増えるほど『脳ナシ』同士の接触により学習の種類と頻度が増えたことが原因だろう。ストレージを食いつぶされないよう、5人の老人以降の『脳ナシ』には1PBの制限を加えた。一杯になったらどのような挙動を見せるのか楽しみだ。

私は今日も人が死なない世界を観察し続ける。

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ノーマター 木森 @kimori109867

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