史上最強の魔法少女(らしい)ですがいつも現場に間に合いません!

雨月さつき

第1話 松原あかりは間に合わない

「現場の四賀内です!『秘密結社アクソシーキ』のものと思われる怪物が暴れています!」

 どこかの家電量販店のテレビ画面に叫ぶリポーターが映っている。

 ここはその現場とさほど離れていない場所。

 どごーん。遠くから爆発音が響いてくる。

「あかり!急がないと、また間に合わないでゲス!」

 猫を模した、しかし羽が生えており宙に浮いているので確実に猫ではない生物らしきものも叫ぶ。

 どごーん。また爆発音。

「ああもう!ここはどこなのよーっ!!」

 アクソシーキと戦う魔法少女、松原あかりの慟哭は、三度聞こえてきた爆発音にかき消された。


 松原あかりは方向音痴である。致命的なまでに。

 小学生になり一人で登校するようになってから遅刻しなかった回数はゼロ。

 見かねた教師が友人と一緒に登校するように仕向けても改善されることはなかった。

 彼女が道に迷う瞬間を目撃しているその友人、梅海優姫うめがいゆうきはかく語る。

「えぇ、消えるんですよ。彼女。はい。突然、居なくなるんです。さっきまで隣に居たはずなのに。そして彼女を探すと、そこら辺の曲がり角を曲がって進んでいるんですよ。はい。この事について本人に尋ねると、あーちゃん……彼女は、なんて言ったと思います?『覚えてない、気づいたら曲がってた』何度尋ねても返事はいつもこうです。はい。彼女、そういう妖怪にでも取り憑かれてるんじゃないですかね。えぇ、一度お祓いしてもらおうと思っています」


「何か言うことはないでゲスか?」

「すみませんでした」

 慟哭の翌日。あかりや優姫が通う中学校の屋上で、あかりは正座していた。

 近くには昨日も居た猫みたいだけど確実に猫ではない生物っぽいものも浮いており、その横に昨日はいなかった優姫が立っている。

「なんであかりはいっつもいつもいつもいつもいつもいつもこうなんでゲス!?昨日なんてでっかい道を直進すればいいだけだったのにでゲス!!」

「えへへ」

「『えへへ』じゃねえでゲス!」

「それでも道に迷うのがあーちゃんだって。諦めなよタマ蔵」

「じゃあ優姫が一緒に行けばいいんでゲス!」

「いやいや無理無理。あーちゃんとはもう8年ぐらい一緒に登校してるけど、それでもいつもいつのまにか居なくなってるんだもん」

「はぁー。ポテンシャルだけで選んだのは間違いだったでゲス……」

「どんまい」

「それはそうと優姫!君もでゲス!なんで昨日も来なかったんでゲス!?」

「来てたよ。いつも通りあーちゃん尾行してた」

「えぇっ!?」

「来てるなら戦えでゲス!!」

「いやでもさー、私達が戦わなくてもほかの魔法少女達だっているじゃん。タマ蔵みたいなのも結構いるらしいし」

「あかりや優姫ならあんな怪獣一瞬で倒せるでゲス!史上例を見ないほど強力な魔法少女になれる可能性を秘めていたからこそ天界の魔法少女省の重役であるアチキが直々に管轄しているのでゲス!末端の奴らが管轄する魔法少女なんてそんな君達に比べたら雑魚でゲス!だからあんな怪獣でも倒すのに時間がかかって人類に甚大な被害を及ぼしてしまうんでゲス!!」

「私ってそんな凄い強いの!?頑張って怪獣倒すね!」

「まずあかりは現場に間に合えでゲス!」

「私はあーちゃん以外の人間がどうなろうと知ったこっちゃないから……」

「優姫はもっと人類に申し訳なさを感じるでゲス!!」

 一通りまくし立てるとタマ蔵(猫みたいだけど確実に猫ではない生物っぽいもの)がため息をつく。

「多分だけどさ、あーちゃんは道があるから迷うんだと思うよ。例えば空を飛んでいくとかさ、一直線にそこへ向かう方法があればいいんじゃないかな?」

「人間が空なんて飛べるわけないでゲス。そんな魔法みたいなことを夢見られると困るでゲス」

「いや私達魔法少女だよね!?」

「基本的に空を飛ぶのは不可能でゲス。風属性の魔法少女ならワンチャン飛べるでゲス」

「確かにそれなら飛べそう」

「まぁ、魔力が切れたりちょっとでも風の操りを間違えたりしたら地面に真っ逆さまなんでゲスけどね」

「うわぁ……。空はダメかぁ。ん?あれ、属性って事は、私とあーちゃんの属性ってあるの?」

「あるではずでゲス。君達は契約後1ヶ月も経つゲスのにまだ一度も現場に間に合っていないゲスから変身もできず、未だにわかっていないんでゲス」

「今ここで変身すればわかるんじゃない?」

「確かに」

「そうでゲスね……。変身してみるでゲス?」

「どうすればいいの?」

「契約した時に渡した変身用の端末を持って、『マジカルチェンジ!』って叫べばいいだけでゲス」

「うわ、地味にハードル高い」

「えー……。あのスマホ、メル◯リで売っちゃったんだけど」

「あ、そういえば私はヤ◯オクで売った」

「売るなでゲス!!え、じゃああれゲスか、君達今まで現場に向かう途中も端末持ってなかったでゲス!?それじゃあ仮に到着してても意味ないでゲス……。はぁ……」

「頭抱えてどうしたのタマ蔵。悩みがあるなら聞くよ」

「お前たちのせいでゲス!本当に人選間違えたでゲス……」

「どんまい」

「全く……。今度新しい端末を渡すゲスから、次は売っちゃダメでゲス!」

「流石にもう売らないよ。300円ぐらいでしか売れなかったし」

「転売する魔法少女が多すぎて酷い値崩れしてたよね」

「はあー……。人間このまま滅んだ方がいい気がしてきたでゲス……」

 タマ蔵が疲れ切った顔で頭を抱えて呟くと同時に、ラーファーソードーと鐘の音がなる。

「あ、5分前のチャイムだ。じゃあ私達教室に戻るね」

「勉学にはきちんと励むんでゲスよ。頭の良さと魔法少女としての実力は比例するでゲス。しっかり学べゲス」

「「はーい」」

「あー……、仕事辞めてえでゲス……」

 屋上を後にする二人の背中を見つつ、タマ蔵の本音が溢れた。

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史上最強の魔法少女(らしい)ですがいつも現場に間に合いません! 雨月さつき @samidare_orz

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